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平成12年度入社式挨拶(要旨)

平成12年4月3日 三井不動産株式会社 代表取締役 社長 岩沙弘道

 日本経済は、資産デフレによる企業業績の悪化と個人消費の低迷の悪循環にありましたが、昨年の金融再生政策により金融システムは安定化の方向へ向かい、ようやく回復の軌道に乗ってまいりました。住宅販売も低金利と税制の優遇措置により活況を呈し、民間住宅投資が公共投資と共に景気の牽引役となっています。
 この間、我々を取り巻く環境は大きく変化しました。金融機関の大規模な再編が進み、三井グループにおいても合併や統合が発表されました。「系列」や「メインバンク」など旧来の日本型システムは役割を終え、競争に打ち勝つための新たな価値基準が創られ始めました。また、ITの急速な進展は、「供給主導」から「顧客主導のビジネスモデル」への転換という「顧客へのパワーシフト」を促進しています。商品情報の幅広い収集が可能になったため、今後は、商品単独の価値ではなく、サービスを含めた価値の集積としての「ブランド」が差別化の対象になっていきます。これからは真の意味でのメガコンペティションの時代が到来します。

 不動産業界においても、不動産の保有価値から利用価値への転換をはじめ、「大変革期」にありますが、最も大きな動きは、不動産の証券化です。今年は、SPC法の改正や不動産投資信託の解禁など、不動産証券化のインフラが整備され、金融と融合した不動産投資市場の創設に向けて大きく前進する年になります。既に米国では不動産投資信託は大きなマーケットに成長しており、我が国でもこの動きが加速されれば、実体不動産をも含めた不動産市場全体の活性化をもたらすことが期待されています。

 三井不動産グループは、関係会社230超、従業員数約2万名を擁する巨大グループであり、事業分野は、不動産業のみならず緑化、外食、健康といった幅広い分野にわたっていますが、グループの在り方についても、グループ全体で所有する力をフルに発揮し、その総合力と規模のメリットをもって競争相手と対峙していく必要に迫られています。
 そこで、当社グループが、マーケットに柔軟に対応しながらグループ総体で価値創造をしていくため、昨年を「グループ経営元年」と位置づけ、中期経営計画をグループレベルで策定することとしました。まず、その第一歩として、昨年6月に、当社グループの基本理念を「三井不動産グループのビジョン・ミッション」としてとりまとめています。私たちにとって、都市をより魅力のあるものに創り上げていくことが「21世紀の不動産業」の大きな役割であり、グループ全体での活動を通して、人々の暮らしを豊かで潤いのあるものにし、「都市を生き生きと甦らせる」という意味で、我々の事業の社会的意義は極めて大きいと言えるでしょう。
また、私は、我々がビジョン・ミッションで掲げた目標を実現し、その社会的責務を果たすため、バブルの崩壊により生じた負の遺産の精算を昨年度ならびに今年度で実施することを決断しました。ドッグイヤーといわれる今の世の中で、これらの課題をスピード感を持って処理することが重要であるとの判断から、今回これらの課題を前倒しで処理することとしたものです。そして、これからは21世紀の新しい「成長性と収益性に富んだ三井不動産グループ」の競争戦略、成長戦略の実行に全力をあげていかなければなりません。

 当社の発展は、創業以来育んできた「パイオニア・スピリット」、「チャレンジ・スピリット」に支えられてきたといっても過言ではありません。当社には「自由闊達で風通しのよい社風」があり、私たちはそれを誇りに思っています。この企業風土に一日も早くとけ込んでいただき、皆さんが若いみずみずしい感性を一層研ぎ澄まし、不動産のプロフェッショナルとしての素養を磨きあげてください。皆さんに特にお願いしたいのは、決して社内のみに目を向けることなく、常に社会全般に関心を持ち続け、広く社外の方々と交流することによって視野を拡げていくことです。そして同時に、三井不動産が優秀な企業市民の一員として広く社会から評価され続けることができるよう、一人ひとりが高いモラルと人間としての魅力を身につけ、「志」を高く持って行動していただきたいと願っています。

以上