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推定相続人に対する生前贈与推定相続人に対する生前贈与

レッツプラザ2015年9月号/執筆者:江口 正夫

Q.お客さまからのご質問 Q.お客さまからのご質問
私は3年前に妻を亡くし、将来の私の相続について考えています。私には3人の子があり、私の財産は自宅の土地建物と2つのアパート用の土地建物の合計3つ(3つともほぼ等価の土地建物)と、預貯金が5,000万円ほどあります。この度、私の預貯金を解約して5,000万円を長男に事業資金として生前贈与する予定です。私の死亡時には預貯金は無くなり、上記3つの土地建物だけが残りますが、3人の子は、それぞれこの3つの土地建物を3分の1の割合で相続すると考えてよいのでしょうか。

A.お答え

被相続人が、不動産と預貯金を所有している場合に、預貯金を相続人の一部の者に生前贈与すれば、相続開始時に存在する財産は残された不動産のみとなります。遺産分割協議では、相続開始時に存在する財産を遺産として分割するのが基本ではありますが、もし、生前贈与がなされていなければ、5,000万円の預金も相続財産として3人の子らに分割されていたはずです。それにもかかわらず、生前贈与は過去の問題だからといって、これを無視して分割協議をおこなわなければならないとすると、そして3つの土地建物がほぼ等価であるとすると、3人の子のうち、長男を除いた2人の子はそれぞれ1つの不動産を取得するのに対し、長男は1つの土地建物に加えて5,000万円も取得できたことになります。

そこで、民法では、このような相続人に対する生前贈与のうち、「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本としての贈与」(民法904条)を、被相続人から受けた相続人がある場合には、「被相続人が相続開始の時において有した財産(3つの土地建物)の価額にその贈与の額(5,000万円)を加えたものを相続財産とみなし、前3条の規定(相続人の相続分に関する規定)により算定した相続分の中からその贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする」(民法904条1項)と定めています。

つまり、生前贈与をすれば、贈与財産は、(3年以内に贈与されたみなし相続財産となる場合を除いて)相続税の対象からは離脱しますが、遺産分割協議をするうえでは、生前贈与した財産(5,000万円)は相続財産に持ち戻されて、具体的な各自の相続分が算定されることになるのです。長男の事業資金のための贈与は「生計の資本としての贈与」に該当することになりますので、これを相続財産に持ち戻し、3つの土地建物と5,000万円を加えたものを相続財産とみなして、これを3人の子が3分の1ずつ分けるということになります。従って、生前贈与は相続税対策にはなり得ますが、遺産分割対策とは必ずしもなり得ないということに注意する必要があります。

※本記事は2015年9月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。

江口 正夫
海谷・江口・池田法律事務所 弁護士 江口 正夫
東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

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