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相続の放棄と詐害行為の成否相続の放棄と詐害行為の成否

レッツプラザ2016年6月号/執筆者:江口 正夫

Q.お客さまからのご質問 Q.お客さまからのご質問
私は個人で洋服の販売店を営んでおりましたが、2年前から経営状況が悪化し、複数の債権者に多額の借財を背負うこととなりました。私の父は地元では有数の資産家であり、債権者の方々は、将来、私が父の財産を相続した際には借金は返済してもらえると思っていたようです。先月、父が亡くなりましたが、年老いた母と、これまで両親と同居し、献身的に両親の世話をしてくれていた姉夫婦がおり、私は父には迷惑のかけ通しだったので、父の遺産については相続を放棄し、母と姉に相続してもらいたいと考えています。
ところが、債権者の方々は、私が父の遺産については相続を放棄するつもりだと話すと、それは不当である、相続を放棄されると自分たちの債権の回収ができなくなり債権が害されるので、私が相続放棄をするなら詐害行為としてこれを取り消すと言っています。借金を抱えていると、相続放棄も許されないのでしょうか。

A.お答え

1 詐害行為取消権

民法第424条1項は「債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取り消しを裁判所に請求することができる」と定め、同条2項は「ただし、財産権を目的としない法律行為については、 適用しない」と規定しています。

この規定の趣旨は、他人に対し、債務を負っている者が、自己の財産を不当に減少させ、その結果、債権者への弁済ができない状態となることは不当であるとして、債務者による自己の財産を不当に減少させる行為を取り消すことができるとしたものです。この取消権のことを「詐害行為取消権」と言います。

2 相続と詐害行為取消権の成否

相続の現場では、相続人の取った行動が、結果的に、債権者への弁済が十分にできなくなる事態を生ずることがあり得ます。例えば、遺産分割協議において、相続人の一人が、法定相続分よりもはるかに少ない財産を相続することで分割協議を成立させた場合や、相続を放棄して一切相続財産を受け取らなかった場合などです。相続人は、借財を背負っている場合には、遺産分割協議や相続放棄をする自由が制限されるのでしょうか。最高裁は、遺産分割協議については、相続開始により、一旦共同相続人の共有となった相続財産の全部または一部を各相続人の単独所有にする等、相続財産の帰属を確定させる行為であるから、財産権を目的とする法律行為であり、自己の財産を減少させる分割協議は詐害行為取消権の対象となるとしています。

他方において、相続の放棄については、最初から相続人ではないこととなるので、自己の財産を積極的に減少させるものではないこと、相続の放棄を取り消し得るとすれば、相続の承認を強制することと同じ結果となり、不当であるとの理由から、相続放棄は、詐害行為取消の対象とはならないものと判断しています。

※本記事は2016年6月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。

江口 正夫
海谷・江口・池田法律事務所 弁護士 江口 正夫
東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

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