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被相続人の預貯金類についての遺産分割協議被相続人の預貯金類についての遺産分割協議

レッツプラザ2017年6月号/執筆者:江口 正夫

Q.お客さまからのご質問 Q.お客さまからのご質問
父が亡くなり、長男の私と2人の弟が父の遺産を相続することになりました。父が所有していた自宅の土地建物は、父と同居していた私が相続することで誰も異議はないのですが、父には金融機関に対するかなりの預貯金があり、これをどのように分けるかで揉めています。預貯金の分割について、兄弟間の話し合いがつかなければ、家庭裁判所の審判で遺産分割の決定をしてもらえるのでしょうか。

A.お答え

民法は、「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」(民法第898条) と定めています。これに対して、金銭債権のように、分割が可能な債権(これを「可分債権」といいます) については、従来の判例では、「相続財産中の可分債権は法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継する」 (最高裁昭和29年4月8日判決)とされていました。このため、銀行の普通預金や定期預金、郵便局の通常貯金は、遺産分割協議が不要で、被相続人が死亡した時点で当然に分割されたものとするのが法的扱いでした。

ところが、最高裁は平成28年12月19日に、これまでの判例を変更し、預金債権等の可分債権は当然分割ではなく、遺産分割協議の対象財産であるとする新判断を示しました。事案は、相続人はAとBの2人のみ、相続財産は約3,800万円の預金のみという事案でした。3,800万円の預金は可分債権ですから、これまでの判例・実務によれば、AとBは、遺産分割協議を経ることなく、相続開始と同時に預金を各1,900万円ずつ取得することになります。ところが、このケースは、被相続人が相続人のうちBに対してのみ約5,500万円の生前贈与をしていたという事案でした。

もし、預金についても遺産分割協議がおこなわれるのであれば、5,500万円の生前贈与は特別受益(民法第903条)として相続財産に持ち戻し、相続財産をその合計額である9,300万円と算定したうえで、各自の具体的な相続分を計算することになります。その場合には、 AとBの具体的な相続分は、9,300万円÷2=4,650万円となりますが、Bはすでに5,500万円を受け取っているのですから、今回の相続においては、自己の相続分を上回る財産をすでに取得しているため、遺産は一切受け取ることができません。

しかし、従来は預金債権は可分債権として当然分割とするというのが最高裁の確定判例でしたから、 Bが同意しない限り、遺産分割協議をおこなう余地がありません。遺産分割の場面がなければ、生前贈与を遺産に持ち戻すということができません。このため、上記事件の高等裁判所の決定では、 AとBは、相続開始と同時に預金を各1,900万円ずつ当然に取得し、 Bの5,500万円の贈与は持ち戻す余地がないと判断していました。しかし、上記の平成28年の最高裁の判例変更により、預金債権等の可分債権は遺産分割の対象財産となる旨が明らかにされ、生前贈与は持ち戻しをおこない、預金額に加算して相続財産を算定することになります。その意味において、預貯金の遺産分割に関しても、裁判による決定の余地が出てきたと言えるでしょう。

※本記事は2017年6月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。

江口 正夫
海谷・江口・池田法律事務所 弁護士 江口 正夫
東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

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