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午後4時のティーブレイク午後4時のティーブレイク

Date:2012年5月23日/執筆者:川上由里子

「私の大切なこと」を書きましょう

人は昔から絵や言葉を駆使して情報や思いを伝えてきました。
私たちは「書くこと」で自分自身を発見し、他者とつながります。
高齢になるほど自分にとって大切なことを知り、
誰かに伝えるために「書くこと」が重要になってくることをご存知ですか。

アメリカの精神科医ロバート・バトラーによると、高齢になって過去を回想するのは、人間の成長過程のひとつで、人生のなかで積み残した問題を解決し、再統合を図る効果を持っているといわれています。

そこで私がおすすめするのは〈自分史ノート〉の作成です。人生を振り返りながら、自分とは何だろう、生きる意味とは何だろう、を自分に問うことで、高齢期のアイデンティティ形成にも役立つのです。

〈自分史ノート〉は自身の内面の再構築に役立つとともに、ケアを受けることになったとき、あるいは認知症などで自分のことを人に伝えられなくなったとき、大切なものとなります。

アルツハイマー型認知症の奥様を介護している男性にうかがった話です。「まさか妻が認知症になるとは思っていませんでした。僕は妻の好きなモノ、嫌いなモノ、気がつくと何も知らなかったのです。何をしてやったら彼女が喜ぶのか、意思を表せなくなった今となっては、もうわかりません。妻が自分のことを書いてくれていたら、介護の方向も見えるのですが」

認知症になる前、エピソード記憶(個人的な体験、エピソードの記憶)の機能の低下が見られるようになります。その日に日記を書くのではなく、2日遅れの日記を思い出しながら書くとエピソード記憶の鍛錬になることがわかってきましたが、「書くこと」を習慣化しておくことが大切なのではないでしょうか。

私は、スケジュールやメモなどを書き込む手帳とは別に、心に残った言葉やフレーズをイラストとともに記しておくための特別な手帳を持っています。長年にわたり私を勇気づけ、励ましてくれる手帳です。書かれたものを見ていると自分の好きなものの傾向や、生き方の目標や希望を発見します。もしかするとこれも〈自分史ノート〉のひとつの形かもしれません。

地域を守る開業医だった私の父は、60年近く患者さんのカルテを書き続けましたが、引退後、すっかり文字を書かなくなってしまいました。日ごろから「私にメッセージを書いて」とペンを渡し、促しています。父から私への今年の年賀状には、「頑張ってね」と書かれていました。たった一言ですが、黒く大きな文字に、父の精一杯の思いがにじみ出ていました。

皆さんが「自分を書く」ことを応援しています。

川上由里子
ケアデザインプラザ ケアコンサルタント
川上由里子
ケアマネジャー・看護師・産業カウンセラー。三井不動産(株)ケアデザインプラザで、介護を含めたシニアライフのコンサルティングを行っている。

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