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Date:2008年10月2日/執筆者:田村誠邦

二世帯住宅は争族の始まり?

相続対策というと、財産がたくさんある資産家の方が考える話だというイメージがあります。実際、書店の棚に並んでいる相続対策を扱った書物の大半も、資産家向けの本、それも節税対策を中心としたものが多いようです。しかし、相続対策は、実は、財産の多寡に関係なく、一定の年齢になれば誰にでも必要なことなのです。なぜなら、ちょっとした財産でも、うまく遺してあげないと争いの種になるからです。今回は、その代表的な事例として、二世帯住宅の話をご紹介しましょう。

今年65歳になるAさんは、東京近郊の閑静な住宅地に奥様とお二人で住まわれています。お子さんは、長女、次女、長男の3人で、いずれも結婚しています。Aさんのご自宅の敷地は約60坪あり、リタイアを機に、築40年近く経ち老朽化の目立つ自宅を取り壊し、長女夫婦と二世帯住宅を建てる計画をお持ちになっていました。1階にAさん夫妻が住み、2階に長女夫婦と孫1人が住む計画です。約4,000万円掛かる建築資金は折半で負担することとし、Aさんは退職金の一部をあて、長女夫婦は500万円ほどの頭金に加え、住宅ローンを組む予定です。

この何も問題がないようにみえる二世帯住宅計画に、実は将来に禍根を残しかねない大きな問題があることに、皆さんはお気づきでしょうか。

それは、Aさん夫妻がなくなった後の遺産分割の問題です。たとえば、Aさんが亡くなった後、Aさんの妻が健在の間は、おそらく何の問題も起こらないでしょう。相続時の遺産分割は、土地はAさんの妻と子供たち3人が共有で相続し、建物の2分の1はAさんの妻が相続することが予想されます。他に大きな財産がなければ、相続時の主たる財産は、自宅の土地と建物になるからです。

問題は、Aさんの妻が亡くなってからです。このときも、遺産分割は、土地・建物とも、とりあえずは子供たち3人の共有になるでしょう。しかし、いずれ、次女か長男が、長女に対して不満を持つようになります。自宅敷地として利用できる長女はいいのですが、他の兄弟にとっては、長女の住んでいる土地・建物の共有持分をもっていても、利用もできなければ収入を得ることもできないからです。

そこで、いずれは、次女か長男から長女に対して、共有物分割の請求が起こされることになります。民法では、共有者は、いつでも共有物の分割を他の共有者に対して請求できることになっているのです。長女は、これまで兄弟の共有であった土地を自由に使っていたのですが、この共有物分割請求により、土地を分割するか、それとも、土地の共有持分に見合う金銭の支払いをする必要に迫られます。多くの場合、そのどちらも難しく、最悪の場合は、訴訟になり、土地建物を売って金銭で清算することになります。こうなると、兄弟間の仲は最悪になることは言うまでもないでしょう。

さて、Aさんが老後の楽しみに建てた二世帯住宅が、子供たちの仲を引き裂く原因になることもあるのだとしたら、実行前に、十分な検討が必要となります。二世帯住宅を建てる場合には、他の子供たち(この例では、次女と長男)に対して、きちんと話をして、事前に了解を取っておくことが必要でしょう。併せて、相続時にどのような財産を遺してあげるのか、当初から明確に考えておく必要があります。

たとえば、ある程度のまとまった現金がある場合には、相続時精算課税制度を利用して、次女と長男に、現金を生前贈与しておくことが有効かもしれません。子育てやマイホーム取得などにお金のかかりやすい30代・40代の子供たちに現金を生前贈与することで、子供たちに感謝されるはずです。同時に、自宅の土地建物を、将来は長女夫婦に相続させることを話し、納得してもらうわけです。また、こうしたことを遺言書にしておくことが望ましいのですが、遺留分等の扱いもあり、専門家のアドバイスが必要でしょう。

では、自宅以外に、生前に贈与できるような財産がない場合にはどうしたらいいのでしょうか?残念ながら、二世帯住宅はあきらめた方がいいのかもしれません。自分たちの死後は、その土地建物を売却して仲良く子供たちで分けられるようにしておいた方が、気楽な老後を過ごせるのではないでしょうか。

田村誠邦
(株)アークブレイン 田村誠邦
不動産鑑定士、一級建築士。東京大学卒。三井建設、シグマ開発計画研究所を経て独立。建築再生や建替えといった各種建築プロジェクトのコンサルタントとして活躍中。

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