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相続・事業承継の法的実務相続・事業承継の法的実務

Date:2013年3月28日/執筆者:木島昇一郎

事業承継までに解決しておきたい不動産のトラブル

事業承継や相続に際し、不動産はきわめて重要性の高い資産です。

直接事業に供されている不動産はもちろん、これまでお話させて頂いた遺留分対策等に関連して、コア事業に供する不動産を事業承継者が取得し、賃貸用不動産を他の承継者が取得するというような承継案を立案する場合においても、賃貸用不動産を法的にブラッシュアップして実質的な価値を高めることは有意性が高いと思われます。

このような点からも、事業承継に関連するご相談の中で賃貸している不動産が抱える問題を承継前に解決したいというご相談をよく受けます。

そこで本日は、「借地契約の解除」をテーマにお話をしたいと思います。

1.借地借家契約における信頼関係破壊の理論

借地借家契約は、借地人や借家人が契約上の義務を怠っただけでは当然契約を解除できる訳ではなく、「貸主と借主との間の信頼関係が破壊したこと」が必要であるという話を聞かれた方は少なくないと思います。

本来、民法は、当事者の一方が契約上の債務を履行しないときは相当期間を定めて催告すれば契約を解除することができると規定しています(民法541条)。しかし、借地借家契約について、裁判所は民法の原則をダイレクトに適用しないと言っているのです。

これは、借地借家契約が長期間の契約を前提にしており、その間、両当事者は契約上の種々の義務を履行しながら相手方を信頼して契約の維持継続を図ることを必要としているので、些細な理由で契約を解除して、このような長年当事者間で築いた信頼を裏切るような状態を作出することは認められるべきではないという裁判所の借地借家契約の特質に基づく価値判断が根底にあるのです。

したがって、当初は、「信頼関係破壊の理論」は、当事者間の信頼関係が破壊されていないのに契約を解除してはならないという契約の解除を制限する法理として理解されていました。

しかし、その後の判例の展開の中で、借地人との信頼関係が根底から失われているような場合には、催告せずに契約の解除を認めて良いというように信頼関係破壊の理論が使われるようになり、また、厳密には賃貸借契約上の義務の不履行がある訳ではないケースでも、賃貸借契約上の信頼関係破壊を理由として契約の解除を認める判例が現れました。

例えば、共同住宅の一室の迷惑行為に関し契約の解除を認めた例(東京高判昭和61・10・28判時1219-67)のような「近隣迷惑行為型」の場合や、オーナーやその家族等に対する暴行、脅迫、誹謗、中傷があった場合に解除を認めた例(東京高判昭和58・7・28判時1090-129)のような「オーナー誹謗型」の場合で、これらの類型は、むしろ民法542条の契約解除に関する要件を緩和していると言えます。

このように、現在、判例上「信頼関係破壊の理論」は、あたかも借地借家契約期間満了時の明渡請求権発生の要件である「正当事由」と同様に、借地借家契約上の解除権行使の可否に関する一般的規範要件として利用されている状況にあります。

2.信頼関係破壊の具体的判断基準とその対応について

このように「信頼関係破壊法理」を契約解除権行使の一般条項だと考えると、「契約の解除ができるか」=「信頼関係が破壊されたか」ということになってしまい、いわば問いをもって問いに答えるような感じであり、どのような場合に「信頼関係」の破壊となるのか、具体的なケースにおいてなかなか判断できない場合が少なくありません。

このような場合には、契約の解除の対象たる行為の類型毎に、裁判所が契約の解除を認める具体的な要件を見つけ出すことが必要です。

そこで、特に実際上契約の解除が難しい借地契約を対象に、契約解除が問題となる典型的なケースである、(1)建物の増改築禁止違反、(2)地代の不払のケースを取り上げ、裁判所が契約解除を判断する具体的なイメージと契約解除の基準について検討させて頂ければと思います。

3.無断増改築のケース

(1)具体的事例

借地人は木造2階建ての建物を所有しており、その1階部分をABCDの4者が賃借していました。BCDは古くから建物を借りていた建物の賃借人であり、Aは、最近になって借地人から1階の一部と2階を借りたもので、Aは、A占有部分において飲食店舗を営業するため、改装すると借地人に連絡し、借地人の名前で改装工事の発注が行われ、賃貸人の事前の承諾なく工事が行われた事案です。

相手方は、建物の躯体の極端な補強や耐用年数が不公正なほど長くなるような工事は一切しておらず、借地人の土地の通常の利用上相当な行為であると主張して契約の解除の効果を争いました。

(2)裁判所の判断(東地判平成23・6・14、東京高判平成24・6・21)

「本件工事においてA占有部分1階の土台部分のコンクリート床が打ち直されて嵩上げされ、同階の外壁が変更されるとともに、柱、沿い柱及び梁等、その躯体部分に重要な変更が加えられている上、A占有部分2階の水回りの設備を2か所設置する等のため、同2階床の補強工事がされ、さらに耐久性の良い高い材質によって屋根の葺き替えが行われていることからすると、本件工事は、本件建物の維持保存に必要な程度の修繕を超えており、本件工事の前後で建物の同一性は失われてものというべきであるから、増改築禁止特約のいうところの「改築」に該当すると認めるのが相当である。」と判断しました。

さらに、本件で裁判所は「このような増改築禁止特約に違反する本件工事の内容自体からしても、本件賃貸借契約における当事者間の信頼関係を揺るがすものということができるが、これに加え前記認定のとおり、本件工事が原告と被告借地人との間の本件土地の賃借権に関する調停中に実施されたこと、被告借地人が、原告から本件工事の中止を要請されていたのに、被告Aらによる本件工事を中止させようとせず、本件工事を容認し、被告借地人の名義で工事を発注したことを考慮すると、本件工事の発注及び施工により、本件賃貸借契約における原告と被告借地人との間の信頼関係は破壊されたもの認めるのが相当であり、他に同認定を左右する事実を認めるに足りる的確な証拠はない。」と判示しました。東京高裁も上記判決に対する控訴を棄却しました。

(3)信頼関係破壊を基礎づける基準

上述したように本件訴訟で借地人及びAらは、Aが飲食業を行うために補強、改修工事を行うことは借地法の予定している借地人の土地利用権の範囲の行為であると主張していましたが、本件判例は、Aらの行為が、「本件建物の維持保存に必要な程度の修繕を超えており、本件工事の前後で建物の同一性は失われたものというべきであるから、増改築禁止特約のいうところの「改築」に該当し」、「このような増改築禁止特約に違反する本件工事の内容自体からしても、本件賃貸借契約における当事者間の信頼関係を揺るがすものということができる」と判示しました。

そして、上記判断の前提として、Aらが、躯体部分に重要な変更を加えたこと、及び2階床の補強工事と、さらに耐久性の良い高い材質によって屋根の葺き替えが行われている事実を認定しています。

このように、信頼関係破壊があると認められる程度の改築工事であるとの裁判所の認定を受けるためには当該工事が、「躯体部分の重要な変更」等に当たることが必要であることが分かります。さらに、裁判所は、信頼関係破壊の基礎事実として、本件工事が原告と被告借地人との間の本件土地の賃借権に関する調停中に実施されたこと、被告借地人が、原告から本件工事の中止を要請されていたのに、被告Aらによる本件工事を中止させようとせず、本件工事を容認したこと、被告借地人の名義で工事を発注したことを認定しています。

こうしてみると、無断増改築禁止特約違反を理由に借地契約を解除する場合の基準、いいかえると、このような場合に借地契約上の信頼関係が破壊したといえる基準は、概ね以下のとおりと言えるでしょう。

  • (1)借地人による改変行為が建物の躯体部分の重要な変更にあたること
  • (2)貸主の期待を裏切るような行為を行っていること
  • (3)(1)及び(2)は相関的な関係にあること
  • (4)その結果一般人の視点から見て契約の継続が困難と考えて良いこと

上記の(3)で(1)と(2)が相関的な関係にあるとは、(1)の要素が比較的低くても(2)が強い場合、(2)が比較的弱くても(1)が強い場合も信頼関係の破壊は考えられるということです(ただし、あくまで、増改築特約違反ですから(1)の存在は不可欠ということはいうまでもありません。)。

次に地代不払のケースを見てみましょう。

4.地代不払のケース

(1)具体的事例(東京地判平成23・2・22、東京高判平成24・6・20)

本件は、平成20年10月17日、同年8月分及び9月分の地代不払の状況で借地契約を解除したもので、解除時点での地代不払は2か月分の未収でしたが、この不払以外に、平成14年5月以降、月末の地代支払ができなかった時に、たびたび弁済期から数か先の満期日を記載した約束手形を送付し、賃貸人がこれを受領していたという事情がありました。また、同年9月10日、本件借地上の建物について競売開始決定がなされています。

借地人及び補助参加した金融機関は、約束手形の送付は、借地人と賃貸人との間で交渉した結果、地代の支払を猶予されたものであり解除時点でも支払の猶予を得ていたとして解除を争いました。

(2)裁判所の判断

「約束手形の交付は債務の本旨にしたがった履行ではなく、また、権利者がその権利の行使を控えるのは自由であるから、原告が標準額から約定の支払日後の日を満期日とする約束手形を受け取り、満期日までの遅延損害金を加算しない場合があったとても、これらの事実によって、原告が被告に対して支払期限を猶予したものと推認することはできない。被告は、これまで度々ないし継続的に賃料の支払を遅滞し、原告から支払を催告されており、とりわけ平成19年4月以降は4か月以上にわたり増額前の賃料額すら支払も供託もせず、むしろ積極的に支払を停止していたことがうかがわれ、悪質といわざるを得ない。以上に加え、被告は、上記解除の時点において平成20年8月分及び9月分の賃料の支払を遅滞しており、担保不動産競売開始決定がなされ原告の承諾なく賃借人が交替する可能性を生じさせたほか被告において賃料を支払う意思及び能力が不十分であったことが認められる。解除につき被告において原告との信頼関係を破壊するに至っていないとは到底認められない。」と判示し、東京高裁も上記判決に対する控訴を棄却しました。

(3)信頼関係破壊を基礎づける基準

借地人は、直接の解除時の未払が2か月分の賃料だけであること、約束手形を任意に受領していることを強く主張して契約解除が信義則違反であると主張したのですが裁判所はこれを認めませんでした。

直接の解除以前の時点における賃料不払の事実や借地人の地代の支払意思や能力等の事情を重視して借地契約上の信頼関係破壊を認めた訳です。

このようなことから、賃料不払を理由に借地契約を解除する場合の基準、言い換えると、このような場合に借地契約上の信頼関係が破壊したと言える基準は、概ね以下のとおりと考えられます。

  • (1)解除時に不払している賃料の額
  • (2)契約解除に至るまでの賃料の支払状況
  • (3)借地人の支払意思及び能力
  • (4)(1)ないし(3)は相関的な関係にあること
  • (5)その結果一般人の視点から見て契約の継続が困難と考えてよいこと

こうしてみると「信頼関係破壊」という裁判所の基準が、より具体的内容イメージとして認識して頂けたかと思います。これらの事例及びそれから誘導される基準を事業承継実務に生かして頂ければと思います。

木島昇一郎
木島綜合法律事務所 木島昇一郎
弁護士。早稲田大学卒。司法研修所、海谷・江口・池田法律事務所を経て独立。都市再開発法・借地借家法等の不動産関係法務や会社法・労働法等の企業法務等を多く扱う。

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