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大切な「土地」の生前確定測量のすすめ大切な「土地」の生前確定測量のすすめ

Date:2011年10月28日/執筆者:高橋一雄

境界紛争を未然に防ぐには?(3)

今回は境界確認書に押印する印鑑についてお話したいと思います。

前々回にお話したように、土地境界確認書とはお互いに合意した境界について、合意した事実を記載した書面に、合意した境界点を測量した測量図を添付したものです。その書類にお互いに署名捺印をして、それぞれ1通ずつ持ち合う訳ですが、その時に押す印鑑のお話です。

土地境界確認書に実印を押して印鑑証明書を添付しないと、地積更正登記や分筆登記の申請ができないといった話をよく聞きます。はたして本当に申請できないのでしょうか? 認印では駄目なのでしょうか? そもそも土地境界確認書に押印が必要なのでしょうか? これらの疑問に答えていきたいと思いますが、その前に印鑑の基礎知識についてお話します。

1.印鑑の基礎知識

実印と認印

実印とは、住民登録をしている市区町村の役所や役場に、印鑑登録をして受理された印鑑のことです。つまり、その印鑑が印鑑登録した本人のものであることを、公的な機関が認めたことになり、その印鑑を持っている人は、唯一印鑑登録をした本人であると推定できるのです。三文判であっても印鑑登録をすれば実印となりますが、量販店などで売っている三文判は機械で作っているため、同じ印鑑が他にもあると考えられます。三文判で印鑑登録をすることは大変に危険なことだと思います。

認印とは、印鑑登録をしていない印鑑のことです。いくら立派な印鑑でも印鑑登録がされていない印鑑は、認印となります。

署名捺印(押印)と記名押印

署名とは自署(サイン)のことです。本人が自筆でその住所氏名を手書きすることを言います。後で筆跡鑑定をすれば署名者を特定することができます。

記名とは、署名以外の方法(ゴム印・印刷(ワープロ)・他人による記載など)で自分の氏名を記載することです。

捺印と押印はどちらも同じ意味で、「はんこ」を押すということですが、捺印は本人が印鑑を押すこと、押印は本人または他人が印鑑を押すことと言う人もいます。公文書では「押印」が使われているようです。

証拠能力としての有効性は、(1)署名捺印(押印)、(2)署名、(3)記名押印、(4)記名の順となっています。

さて、印鑑についての基礎知識が分ったところで、次の問題に行きたいと思います。

2.実印と認印で効力に違いがあるのか?

認印というとなにか軽いような感じがしますが、印鑑の基礎知識でもお話したように、実印と認印との違いは、印鑑登録をしているか、していないかの違いだけです。印鑑登録をしている印鑑だと有効で、印鑑登録をしていない印鑑は無効ということはありません。つまり、認印で押印しようが、実印で押印しようが、土地境界確認書の効力に違いが出る訳ではありません。

3.そもそも土地境界確認書に押印は必要なのか?

土地境界確認書はある意味、土地境界の契約書です。土地の契約書で最も大切なことは、物件の特定と、当事者が誰かということです。

物件の特定は測量図で特定します。測量図の責任は、測量会社(土地家屋調査士)が負います。

次に当事者の特定です。誰と誰が境界について合意したのかということです。この「誰」を特定するための方法としては、土地境界確認書に本人が署名するという方法がありますが、署名した人が間違いなく本人であるかどうかが分かりません。そのため本人であることを証明するために、実印で押印し印鑑証明書を添付するのです。隣接土地所有者がよく知っている人の場合には、当事者間では問題は無いでしょうが、会ったことも無い人の場合や、第三者から見た場合に、間違いなく本人が合意していると証明するためには、実印+印鑑証明書が最も有効な手段です。

実印の場合には、本人であることを証明できますが、認印、特に三文判の場合には本人であることを証明することは難しいと思います。証拠能力としての有効性でも話したように、記名押印より署名の方が証拠能力は高い訳ですから、認印(三文判)で押印するくらいなら、署名のみで十分という考え方もできる訳です。

法的には署名だけで十分有効なのですが、わが国では長年の慣習で押印を重視する傾向が強くあります。判を押すことが最終意思決定と思われているのです。また、商法では記名押印をもって署名に代えることができるとなっていましたので、認印(三文判)であったとしても押印を求められるようになったものと思われます。

4.実印と認印で取り扱いが違うのか?

不動産登記法の条文の中に、土地境界確認書には実印で押印し印鑑証明書を添付しなければならないとの記述はどこにもありません。ただし、土地建物調査要領(東京法務局)には、『筆界確認書(土地境界確認書)には、できる限り印鑑証明書の添付を求めるものとする。』との記載があります。

また、印鑑証明書の添付ができない場合には、登記官による実地調査時に、『隣接地所有者等の立会いを求めるものとする。』との記載があります。

つまり、地積更正登記や分筆登記の申請の際に添付する土地境界確認書に(実印による押印であっても)印鑑証明書の添付が無い場合には、登記官による現地の実地調査が実施され、その際に隣接地の所有者が現地に呼び出される可能性があるということです。

以上のことから、土地境界確認書に実印で押印して印鑑証明書を添付しなかったからといって、地積更正登記や分筆登記が申請できない訳では無いことが分かって頂けたかと思います。

※東京法務局管内以外については、上記と違う取り扱いをしているところもありますので、最寄りの法務局または、地元の土地家屋調査士にお問い合わせ下さい。

最後に、注意して頂きたい点について2つお話します。

土地境界確認書の効力については、実印で押印しようが、認印(三文判)で押印しようが、署名のみだろうが、変わらない訳ですが、土地境界確認書に実印で押印して印鑑証明書が添付されてあるからといって、絶対に安心ということはありません。

なぜなら、土地の所有者であるお父さんが病気で寝たきりのため、息子さんが代わりにお父さんの名前を記名して、お父さんの実印で押印し印鑑証明書を添付しているといったようなケースが無いとは言えないからです。何事もそうですが、絶対ということはありません。印鑑証明書を添付して、土地境界確認書を取交していても、『自分は認めた覚えはない』と言張る人もいます。

何が最も重要かというと、本人(土地の所有者)が納得して認めているのかどうかということです。その意味では、本人による署名が最も重要と言えます。そして、本人であるということを証明する方法として、実印による押印と、印鑑証明書の添付が最も信憑性があると言えるでしょう。将来境界に争いが起こった場合に備えて、土地境界確認書の証拠能力を高めておくためにも、署名捺印(実印)と印鑑証明書の添付をお勧めします。

もう一つは、土地を売買するために境界確定測量の依頼を受けることがありますが、その際、土地売買契約書の条文の中に、「印鑑証明書付きの土地境界確認書を引き渡すこと」と記載されているものがあります。買主にとっては、それが最も信用できるわけですが、実際の現場では、隣接地所有者さんから印鑑証明書を出してもらうことは、かなり難しいものがあります。ほとんどの方は「認印なら押すけど、実印までは押したくない」と言います。実印で押印してくれたとしても、印鑑証明書まではなかなか出してもらえません。

万が一、隣接地所有者さんから印鑑証明書付きの土地境界確認書が頂けなかった場合には、売主は債務不履行となってしまうおそれがあります。

土地境界について、隣接地所有者と合意できるか、できないか? 印鑑証明書を添付してもらえるか、もらえないのか? ということは、第三者がいることですので、土地家屋調査士や測量会社に依頼したからと言って、土地家屋調査士や測量会社が保証してくれる訳ではありません。このことに十分注意して頂きたいと思います。

次回は、境界標についてお話したいと思います。

高橋一雄
(株)測量舎 高橋一雄
ADR認定土地家屋調査士、測量士。平成9年測量舎を、平成18年に土地家屋調査士法人登記舎を設立し、誠実・確実・迅速を合言葉に年間100現場以上の境界確定測量を実施。

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