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相続・事業承継の法的実務相続・事業承継の法的実務

Date:2012年3月7日/執筆者:木島昇一郎

事業承継に会社分割を活用しよう

前回までは、オーナーから事業を親族に承継させる方法として遺言による承継について考えてきました。種類株式の選択についても、最終的には遺言による承継における集中と分散を調整するものであり、遺留分の調整に関するアプローチの方法も同様です。

そこで、今回は、同じく、親族に事業を承継する場合に、いわゆるM&Aと呼ばれる手法即ち事業再編手法を用いた事業承継を考えてみましょう。

1.分割統治の利点

オーナーA氏が甲社の株式を32万株保有しており、子B・Cが同社の株式を5万株ずつ保有している場合を想定しましょう。今までは、この事業を承継予定者であるBまたはCのいずれかに承継させる手法を検討してきました。また、「三本の矢」の逸話のようにB・Cが2人以上の力を発揮することが明らかな場合は、Aは、甲社株式を合理的にB・Cに承継させることを検討すれば良いでしょう。

しかし、往々にしてB・Cの能力や性格、個性が異なることも多いでしょう。分担している事業分野について、むしろ「その分野の事業は将来お前にやらせるから」と言った方が熱意を持って努力するというような場合も多いと思います。

そのような場合に参考になるのが「会社分割」という制度です。

事業承継にあたって、この制度の利用を考えるときは、(1)オーナーがこの制度の内容と手続についてきちんとした知識を持つこと、(2)会社分割後の手続も含め事業承継としての全体工程を把握しておくこと、(3)この制度を利用する場合の税務上の問題点と必要な資金計画を立てることが肝要です。

2.会社分割制度の意義

会社分割とは、会社(分割会社)の事業に関する権利義務の全部または一部を他の会社(承継会社)に承継させる組織上の行為で、既に存在する会社に事業を承継させる場合を吸収分割、新たに設立する会社に承継させる場合を新設分割と呼びます(会社法2条29、30号)。

会社の事業のうち、どの範囲を分割するかは吸収分割契約または新設分割計画において定めることができます(会社法757条、762条)。吸収分割は、既に存在する会社に対する事業の分割であるため当事会社間の契約でその内容が決定され、新設分割は新たな会社の設立行為であるため「新設分割計画」において定めることになるのです。

吸収分割の場合は、吸収分割契約に定めた効力発生日の前日までに、新設分割の場合には、新設分割の登記前に、原則として株主総会の特別決議による承認が必要です(会社法783条1項、804条1項、309条2項12号)。

本件では、Aは甲社の株式32万株を所有していますから、いずれの手続も可能と言うことになりますが、問題は、どのように事業を振り分けるかというビジネス上の判断が大事でしょう。(1)製造部門、販売部門といった商流で分ける、(2)事業の分野で分ける、(3)地域やエリアで分ける等、色々な場合が考えられると思います。

Aが長期的な視野からそれぞれの個性を判断するとともに、Aの意向をB・Cに伝え、率直に両者の意向を踏まえて判断することも必要かと思います。また、Aのケースの場合は、後にお話する事業分割後の株式の承継を考えると、各事業の資産や財務上のバランスも配慮すべきものと考えます。

3.反対株主等の株式買取請求権及び債権者異議手続

会社分割に反対する株主のうち、(1)株主総会に先立って会社分割に反対する旨を当該存続会社等に通知し、かつ、当該株主総会において反対した株主、(2)当該株主総会において議決権を行使することができない株主、(3)簡易手続により株主総会の決議を要しない場合の株主に株式買取請求権があります(会社法806条1項2項)。

また、会社分割後分割会社に対し債務の履行を請求できない債権等は、分割によって分割会社と承継会社等に割り振られることになることが債権者に不利益を与える可能性があることから、これらの債権者に異議手続が認められています(会社法789条1項、810条1項)。

実務上は、手続をスムーズに進めるために、AがB及びCに分割の趣旨を十分説明し、その内諾を得ることが必要です。また、分割会社の債権者に対する債務についても、分割契約締結等の段階で可能な限り弁済しておくほうが手続をスムーズに運ぶことができるため、通常は弁済の上、分割手続を進めることは多く行われています。

4.会社分割手法による事業の承継

このような会社分割制度を利用して事業の承継を図る方法として以下の場合が考えられます。

(1)按分型分割

まず、Aは、甲社の事業を第1事業部、第2事業部の事業部門に分けた上で、新会社乙社を設立し、第2事業部の事業を乙に分割します。このとき、乙社の株主は、甲と同一の株式割合とします(32:5:5)。その後、Bが所有する乙会社の株式を可能であれば時間をかけてCに譲渡し、Cが所有する甲の株式をBに譲渡します。これによって甲社はAとBのみが株主である会社となり、乙社はAとCのみが株主である会社となるため、Aは、甲社をBに、乙社をCに承継することが容易となります。

(2)非按分型分割

上の例では、乙社の持株割合を甲社と同様にしましたが、分割によって発行する乙社の株式全てをCに割当てることも考えられます。この場合には、直ちに乙社は、Cが10%の株式を保有する株主となり、AはBに対し、甲社株式を相続させることによって甲社の株式は全てB所有のものとなります。ただし、この場合、Cは、上記株式の引受けができる資金の準備が必要となります。

5.適格分割と非適格分割

法人税法上、分割会社の資産及び負債が承継されるときは、原則として時価による移転があったものとして譲渡損益を計算します(法人税法62条)。これは、承継会社による移転対象資産の時価による購入という考え方に由来しています。

しかし、「企業グループ内の組織再編成」と「共同事業を行うための組織再編成」で一定の要件をクリアーできる場合には、いずれも経済実態に実質的な変更がなく、分割会社の株主の支配が継続しているという観点から、当該資産等の承継に対し譲渡益の繰り延べを認める場合があり、これを適格分割と言い、この要件が認められない場合を非適格分割と呼んでいます。

例えば「企業グループ内の組織再編成」の場合には、(1)資本関係が100%の法人間で行われる場合で、金銭交付のない按分型分割である場合、または、(2)資本関係が50%超100%未満で、上記(1)の要件に加え、主要な資産及び負債並びに従業員の概ね80%以上が承継され、分割法人の分割事業の継続が見込まれること等の要件が必要です。

適格分割の適用を受けようとする場合は、是非税務専門家のアドバイスを得て行う方が良いでしょう。

6.分割後の承継手続

以上のような手続を経ることによって、按分型分割であれば、甲社は、AとBのみが、乙社は、AとCのみが株主となる会社となるので、AはAの甲会社の株式をBに、Aの乙会社の株式をCに相続させることによって、それぞれB及びCが単独で株式を有する会社に承継させることができます。非按分型分割であれば、Aが甲社の株式をBに相続させることによって同様の目的を達することができます。

このような手続は、できれば早いうちに少しずつ準備をすることを銘記して頂くことがより有利に目的を実現することとなるでしょう。

木島昇一郎
木島綜合法律事務所 木島昇一郎
弁護士。早稲田大学卒。司法研修所、海谷・江口・池田法律事務所を経て独立。都市再開発法・借地借家法等の不動産関係法務や会社法・労働法等の企業法務等を多く扱う。

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