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Date:2012年6月28日/執筆者:立花弘之

建物が存在しない貸宅地の物納

相続税納付に悩む地主さんから様々なご相談をお受けしていると、時には変わったご相談をお受けすることもあります。

今回ご紹介する事例は、借地権者が建物を取壊して更地状態となっている貸宅地の物納事例をご紹介致します。

建築する様子も一切無く、更地のまま放置

相続人と相続財産の概要

今回は、埼玉県内の耕作農地が多く見受けられる地域で、市街化調整区域に所有している農地以外は、全て区画整理の施行区域内に相続財産が存在しているAさんの相続事案で、税理士先生のご紹介により、Aさんの奥様(以下、Bさん)、息子さん(以下、Cさん)のお二人からご依頼を受けた事案です。ト

亡くなられたAさんは、先代のご相続により引き継いだ土地を耕作し続け、亡くなる数年前から自宅から遠い農地はCさんに任せ、ご自宅周辺の畑を亡くなる数ヶ月前まで耕作し続けていた、生粋の農家さんでした。

そんなAさんの相続財産は、ご自宅以外には道路の反対側に40年程前に建てた戸建貸家が8棟と、借地人に貸している土地が5区画程あり、それ以外は全て農地という状況でした。この戸建貸家も空き家が多くなり、固定資産税の3倍にも満たない地代収入と合わせた不動産所得も微々たるもので、耕作面積を少なくしたこともあり農業所得も非常に少ない状況でした。

タイトルに記載した『建物が存在しない貸宅地』は5区画中の1件で、中小企業の経営者だった借地人(以下、Yさん)が、バブル崩壊前に借金返済のために財産を処分せざるを得なくなり、Xさんに借地権付建物を売却したい旨をAさんに申し出て、可哀想に思ったAさんが、譲渡承諾料も受領せずに、Xさんとの土地賃貸契約書を締結してあげたことが始まりだったそうです。

その頃、勤めに出ていたCさんは、YさんとXさんの借地権譲渡の事実を知らなかったそうですが、Aさんからその後のトラブルを何度も聞かされていたことや、Aさんの晩年には、すべて借地人との対応を引き継ぎ、更新対応や地代改定交渉を自ら行っていたこともあり、Cさん自身もXさんに良い感情を持っていないようでした。

相続税納付方法の検討

紹介者である税理士先生が概算相続税額を算出し、どうやってその税金を納めるかをBさんとCさんと相談していた際に、『借地人に底地を売却したり、底地物納の条件整備をしてくれる会社がある』と言って、ご紹介を頂きました。

そのような経緯から、Aさんの相続財産に優先順位を設定して頂きたいと申し入れると「5件の貸宅地から納税財源にして欲しい」とのCさんの意向をすぐに伺うことができました。

しかし、5件の貸宅地だけでは納税財源に足りないことも明らかで、収益の低い財産構成では延納申請も困難となることから、自用地の一部を納税財源にしなければ相続税を支払い切れないことをご説明し、自用地に対しても処分の優先順位を設定して頂くことになりました。

その間に、『建物が存在しない貸宅地』を含む5件の貸宅地が、本当に納税財源になり得るのかを、物納診断により検討することになりました。

その『建物が存在しない貸宅地』の物納診断を行うため、Xさんの借地権が更地になった理由や、契約締結時から現在に至る経緯をCさんに伺うと、Xさんは元借地人のYさんにお金を貸していたらしく、借金を返済できなくなったYさんから、お金の代わりに借地権と建物を取得したらしいことが分りました。

そのような経緯で借地権者となったXさんは、建物登記名義を自らの名前に変更し、Aさんとの土地賃貸借契約を締結し終わるや否や、Aさんに対し『この借地権と建物を購入しないか?』と高飛車に持ちかけ、Aさんがその申し出を断ると、今度は建物を第三者に貸して家賃を受領するようになりました。

Aさんが『建物を貸して収入を得るなら地代を増額して欲しい』と申し入れると、即座にその申し出を拒絶され、それまで円満だったAさんとYさんとの関係も、Xさんが借地権者になってから、関係が非常に悪くなったことも確認できました。

それから10年以上経過して、Xさんが区画整理組合の理事をしているAさんに「早く区画整理事業を進めて欲しい」と度々進言しに訪れるようになり、Aさんがそれを取り合わないでいると、今度は行政の担当者を直接訪ね「自分の街区の道路整備を早く進めるように」と何度も申し入れを行うようになりました。

行政の担当者としても、積極的に区画整理事業に協力頂ける方は建物所有者でも有難いもので、Xさんが引継いだ建物の一部が新設街区の道路に越境することから、建物移転補償金を早期に受領したいXさんの意向と、道路整備に早く着手したい行政側の思惑が一致し、XさんはAさんに断りも入れずに自ら借地上の建物を解体し、行政から建物の移転補償金を早々に入手したそうです。

Xさんの建物解体後間もなくすると前面道路の拡幅工事も終了し、役所からの建物移転保証金を受領してから2年以上も経過しているにも関わらず、Xさんはその借地区画に建物を建築する様子も一切無く、更地のまま放置し続けていました。

その間にXさんとの土地賃貸借契約期限が到来したのですが、AさんはXさんに更新拒絶の申入れをすることもなく、建物が存在している他の借地権と同様に更新料の支払い請求を口頭で行うだけで、具体的な金額や支払い方法等の交渉も行われないまま、Xさんから法定更新を主張されてしまい、それからは年払い地代も督促しない限り持参しないようになってしまい、没交渉状態のままAさんのご相続を迎えてしまったそうです。

つまり『建物が存在しない貸宅地』は、更地状態になってから7、8年は放置され、契約満了から6年近く経過した法定更新状態にあり、Aさんの相続開始時点では前年度分の地代も受領していない状態でした。

建物が存在しない貸宅地とは

一般的に、借地権は『建物が存在しなければ、契約自体が成立しない』と思われがちですが、たとえ建物を建てていなくても、当事者間においては当然に借地契約が存在(成立)していることになります。つまり、借地権者は土地所有者から借り受けた土地(借地)上に、建物を建てられる権利を有しているものの、借り受けた土地(借地)上に建物を建築しなければならない義務を負っている訳ではないということができます。

このように説明すると、『建物登記が無ければ、借地権を主張できないのでは?』と思われる方がいるかもしれませんが、建物登記はあくまで第三者にその土地の賃借権を対応する要件としてあるもので、契約当事者間において建物登記の有無などは、契約の必要要件では無いのです。

もう少し詳細に説明すると、新法の借地借家法では、契約満了時に借地契約者が土地の継続使用を要望する場合は、建物が存在する場合に限り法定更新を主張できるのに対し、旧法の借地法では、建物の存在は法廷更新を主張する際の要件にもなっていないのです。

つまり、この状態でCさんとXさんの契約当事者間では、『借地上に建物が存在しないことを理由として契約を解除することはできない』というのが借地法(旧法)の解釈となり、この解釈が「建物が存在しない貸宅地」の物納要件を検討する上でも、大変大きなポイントになりました。

契約当事者間においては、建物の存在が借地契約の存続に直接的に影響することはないと言っても、底地物納を国に許可して貰うためには、法律上の解釈よりも国税局や財務局が納得することが必要不可欠となります。最終的には、国税局の物納担当官を通じて財務局との協議を重ね、『Xさんの区画が更地状態ということを理由に物納を許可しない、ということはない』とのお墨付きを貰う事ができました。

具体的には、通常の貸宅地であれば提出すべき物納関係書類となる「建物登記事項証明(登記簿謄本)」が提出できないため、これに代えて「借地権者が建物を建築する意思があることを証する書面」を提出することで、他の底地物納と同様に物件審査を行うとの口頭指示を受領することができました。

しかしXさんとの借地契約は、「建物が存在しない貸宅地」の物納条件整備以前に、他の借地権者さんと同様の契約にまで関係を改善する必要があり、現状の滞納地代総額を全て精算し、約定通りの地代支払い条件を履行してもらうことの方が、大変困難な課題に思えました。

仮に、Xさんとの契約関係を他の借地人さんと同レベルまで改善することが出来たとしても、「建物が存在しない貸宅地」を物納するためには、「借地人に建築の意思があることを証する書面」として、Xさんに具体的な建築計画が無いにも関わらず、(1)対象地上で建築確認の申請を行い、その申請書の写しを提出するか、(2)「建築する意思がある旨の確約書」を作成し署名押印頂くか、何れかの物納関係書類を提出しなければならないのです。

実際の交渉に際し、Xさんに先入観を持って対処したということは一切ありませんが、Aさんのご相続によりCさんとの土地賃貸借契約書を作成することや、地代の支払方法を明確する等の要望には一切応じて頂けず、弊社との面談予定をドタキャンしたり、アポイントすら取らせてもらえ無くなってしまい、財務局からお墨付きをもらった物納関係書類の整備もできないまま時間だけが経過してしまいました。

このような状況では、相続税に利子税負担が加算されるだけで、物納関係書類の提出期限の延長期間が6ヶ月を過ぎた頃には、既に最長1年間の延長期間の折り返し地点を超えてしまったことを冷静に検討し、Ⅹさんの底地物納を諦める事も考えながら、最終判断はCさんと申告税理士さんを交えて、物納を諦めるとの結論を選択しました。

Xさんの借地権取得経緯を考えても、過去Aさんに買取りを打診したことを鑑みても、Xさん自身はこの借地権を換金したがっていると思えるのですが、それを現実とするためには、(1)地主のCさんとの関係を再構築して権利調整を図るか、(2)Cさんの底地物納申請に協力し、財務局に所有権が移転した後で国を相手に権利調整を図るか、の二択しか有り得ないと思うのですが、そのように考えないのがXさんの変わったところで、その変わり者と面談もできずに交渉をまとめ上げることは、不可能だと判断した次第です。

本事案は、『建物が存在しない貸宅地』の物納条件整備内容を、国税局・財務局との打ち合わせや口頭指示により、必要な条件整備の全容をほぼ明らかにすることはできましたが、借地権人さんとの関係によって、道半ばにして物納許条件整備を完成させることを諦め、最終的な許可証を受領することはできませんでした。そもそも、『建物が存在しない貸宅地』自体が、特殊状態であったと言えるのでしょうが……。

立花弘之
(株)イデアルコンサルティング 立花弘之
不動産コンサルタント。会計事務所向け不動産コンサルティング会社を経て独立。底地・借地の権利調整や物納条件整備業務を数多く手掛けるコンサルタントとして活躍中。

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