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株式会社 野村総合研究所 執行役員 コンサルティング事業本部 副本部長 立松 博史 氏株式会社 野村総合研究所 執行役員 コンサルティング事業本部 副本部長 立松 博史 氏

レッツプラザ2015年5月号

社会や市場を動かし始めた新たな家族形態。
ゆるやかにつながり合う“インビジブル・ファミリー”の独特な消費行動とは?

急速な少子高齢化を背景とする人口減少の一方で、首都圏への人口集中が加速する現在の日本。こうした中、特に都市部において増えつつある新しい家族のかたちに注目が集まっています。

それが“インビジブル・ファミリー”。「見えない家族」と呼ばれるこの新たな家族形態は、独特な消費行動を見せながら、様々な領域において確実にマーケットの変化を促しています。

インビジブル・ファミリーの登場は、はたして今後の資産経営にどのような影響とインパクトを与えうるのか――。 いち早くその存在に着目した野村総合研究所の執行役員でコンサルティング事業本部副本部長を務める立松博史氏にお話をお聞きしました。

ゆるやかにつながり合う
近居・隣居の多世代家族

当社では20年近くにわたって日本人の生活者意識を定点的に観測してきました。「インビジブル・ファミリー」という言葉は当社のコンサルタントが7~8年前に提唱した概念で、その兆候は親との近居という住まい方が、かなり増え始めた2000年前後にあらわれていました。

インビジブル・ファミリーとは、それぞれ住まいは別になっていながらも、徒歩圏内から概ね1時間圏内という近いところに家族が住んでいる形態です。〈図1〉こうして近居ないし隣居する自分の世帯と両親の世帯、場合によっては兄弟姉妹などの複数の世帯が、実は生活行動や消費行動を共にしている状態を指します。

親・子・孫といった世代がゆるやかにつながり合うこうしたインビジブル・ファミリーが生まれてきた背景としては、私たちは3つ理由があると考えています。

ひとつ目は団塊ジュニア世代が世帯形成期を迎えたことです。地方から大都市圏に集まった団塊の世代と違い、すでに大都市にいるその子どもたちは移動する必要がなく、どうせなら、と親の近くに住み始めたわけです。

2つ目は出生率の低下です。昔は、大体長男か長女が親の面倒を見て、下の2人、3人は自由にというパターンでしたが、少子化の結果、子どもが1人で親を見なければならなくなり、自分が世帯をつくっても親の近くに住んで親の面倒を見るというライフスタイルになってきました。

そして3つ目は女性の社会進出です。共働きとなると、どうしても子育てを自分の親に頼ることになり、近い方が便利ということになります。

当社の調査によると、特に都市部では全体の50%程度の親と子の世帯が、大体1時間圏内に住んでいることがわかっています。そのすべての世帯が生活・消費行動を共にしているとは思いませんが、インビジブル・ファミリーやその予備群は現在の社会において、もはや無視できないほど大きなボリュームゾーンを形成していると思います。

“見えない家族”の独特な消費行動

インビジブル・ファミリーと、そうではない世帯の親世帯の支出パターンを調べた当社の調査を見ると、例えば、孫の入学式や誕生日といったイベント消費については、孫とめったに会わないインビジブルではない家族の親のほうがお金を使っています。一方で、普段から子や孫と顔を合わせる機会の多いインビジブル・ファミリーの親世帯は、毎日の食料品や日用品などの購入で日常的にサポートしているので、トータルとしてはインビジブル・ファミリーの親のほうがそうでない家族の親よりも子世帯にかけるお金が高くなっているのです。〈図2〉

他にもインビジブル・ファミリーには、その消費行動にいくつかの特徴が見受けられます。自家用車を見てみるとセダンタイプよりも、ワンボックス型や大型車に乗る方が多い。これは週末、年老いた両親と一緒にレジャーに出かけたり、買い物に出かけたりといったライフスタイルにマッチしているからです。また、日々の食料品なども共働き夫婦の子世帯が親に買い物を代行してもらうパターンが増えているので、例えばお店に来られたお年寄りに対してお年寄り向けの商品をお勧めしたとしてもニーズに合わないわけです。つまり、売り手は目の前にいるお客様だけを対象にしたセールス活動、マーケティング活動をしていても、その人の真のニーズには突き当たらないというケースが出てくると思っています。その家族の背景は、まさに“インビジブル”なのです。

住宅についていえば、夫婦と子供1人というケースでも広いリビングを求める傾向があります。それは週末に親や自分の兄弟などを呼ぶためです。そういう意味で、空間のつくり方をちょっと工夫して行く必要があるかと感じています。

一方で、共働き夫婦の世帯だと、子どもが学校から帰ってきても家に親がいないから、近くにいる祖父母の家に行って宿題をやったり、夕飯まで食べていったりするパターンがあります。そうすると、洗面台に少し段を付けて小さい子でも手が洗いやすくするなど、老夫婦の住まいにも子ども向けの仕様が必要になってくる。つまり、そこで暮らす家族だけを意識したこれまでのステレオタイプの住まいのつくり方では、こういう人たちのニーズを完全に満たすことはできなくなってきているのです。

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