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章司法書士法人 章司法書士法人 太田垣 章子 氏章司法書士法人 章司法書士法人 太田垣 章子 氏

レッツプラザ2016年1月号

気配りと目配りで問題を抱えない賃貸経営のポイント。
足を運び、目で確かめた現場から得た貴重な知見で賃貸トラブルを未然に防ぐ。

賃貸経営を取り巻く状況は、時間の経過と共に変化していきます。競合物件の増加といった外部環境の変化だけでなく、建物の老朽化・陳腐化、そして、オーナー自身の高齢化など内側で生じる変化もあり、こうした賃貸経営の課題への対処を怠ると賃貸トラブルも頻出するようになります。

今回は、そのトラブルの一つであり、収益にも大きく関わる家賃滞納の問題を切り口に、オーナーが日々どのような姿勢で賃貸経営と向き合うべきかを考察します。長年にわたって賃貸オーナーの相談に応えながら、徹底した現場主義を通じて家賃滞納を中心とするトラブルを解決に導いてきた、章司法書士法人代表司法書士の太田垣章子氏にお話を伺いました。

不動産や法人の登記だけでなく
裁判業務も司法書士の仕事に

司法書士の基本的な仕事は、不動産と法人の登記です。不動産であれば売買時や相続での名義変更時、住宅ローンの完済時などに、一方、会社の場合は設立時や役員変更、増資、合併などの時に登記手続きをします。

それが平成14年の司法書士法の改正で、司法書士も裁判業務がおこなえるようになりました。100時間の研修を受けて試験に合格した認定司法書士に限り、お客様から委任状をいただいて、簡易裁判所でお客様の代理人として法廷に立てるようになりました。現在、私どもの事務所への依頼は、全体の6割ほどが登記業務で、残る4割がこの裁判業務となっています。裁判業務の内容は、もっぱら賃料滞納などの賃貸トラブルに関するものです。

私は平成13年に司法書士試験に合格したのですが、裁判業務という新しい分野ならスタートダッシュできるのではないかと考えて取り組みました。そして、不動産会社に飛び込み営業した折に「家賃を滞納する賃借人が増えており、困っているオーナーが多い」という話を耳にして、まず一件担当したことが、私が賃貸トラブルの解決をお手伝いするようになったきっかけです。以来、これまでに約2千件あまりの滞納案件を手掛けてきました。

滞納トラブルでは回収できない家賃が毎月加算されていくわけですから、私は特にスピードを重視しています。相談を受けたら、訴訟手続きを速やかに進める一方で、並行して依頼人であるオーナーから直接詳しい話を聞き、家賃を滞納している賃借人とも話し合い、説得しながら、任意での退去を促します。その結果、実際には裁判で争う前の段階で円満解決に至るケースがほとんどです。オーナーと、もともとはお客さんだった賃借人がいがみ合い、お互い消耗し合う裁判はやらなくて済むなら、それに越したことはありません。

賃貸トラブルを未然に防ぐために
知っておくべきポイントとは

机上の仕事だけでは問題のスピーディーな解決は望めないので、私はできるだけ入居者の方と直接会ってお話しするために、その物件に何度も足を運びます。つまり、私がこの仕事を通じて目にするのは、家賃滞納が発生している問題のある物件ということになります。何年もこうした物件に足を運んでいるうちに、いくつかの共通点が見えてきました。

家賃滞納のある物件は、空室が多い物件です。そんな物件のオーナーは、異口同音に「審査の時に危ないと思ったけれど、空室があるから入れてしまった」とおっしゃいます。そして、そうした物件の多くが、家賃を滞納する人にとって居心地のいい場所になってしまっているのです。

具体的にいうと、管理がルーズになっている物件です。共用部の清掃が行き届いていない。ゴミ出しルールが守られていない。集合ポストにはチラシ類が溢れている。こうした状態は、ルーズな賃借人に「こんな物件なら、家賃も少しくらい遅れてもいいだろう」と思わせてしまいます。そして反対に、きちんと家賃を払ってくれる良い賃借人は居心地が悪くなって出て行ってしまうのです。その結果、「類は友を呼ぶ」という言葉どおり、ルーズな賃借人が増え、滞納者が滞納者を呼ぶ悪循環に陥ってしまいます。

つまり賃貸住宅は、入居者も含めてその物件の価値なのです。そして物件は生き物ですから、どんなにすばらしい建物を建てても、好ましくない入居者がいれば、あっという間に価値が落ちてしまいます。ですから私どもでは、オーナーに対してまずは物件管理を徹底するようにアドバイスしています。

また、雑草と同じでトラブルの芽も小さいうちなら抜きやすいものです。早い段階ならスムーズに解決できても、時間が経って根を張ってしまうと、問題が深刻化してしまいます。大切なのは、小さなトラブルの予兆も見逃さず、早い段階で私どものような専門家に相談すること。そしてそのためには、些細な変化を見逃さない観察力が求められます。

そこで私はご依頼のあった賃貸物件に足を運ぶ際、必ず特定の場所の写真を撮るようにしています。例えば、エントランスホールや外構などを写真に収め、いわば“定点観測”することで小さな変化にも気づけるようになるからです。ゴミが散らかっていないか、植栽の管理がルーズになっていないかなど、もし変化があれば一目瞭然ですし、その変化の中に深刻な問題の芽が潜んでいたりします。

私が特に注目するのは、エントランスにある集合ポストです。もし、そのネームプレートの名前が変わったり、連名だったのがお一人になっていたら要注意です。その変化は、転貸されたり、同居人が出て行ったりしたことの目印でもあります。こうした観察を通じて、滞納の原因が、実は2人住まいの夫婦の奥さんが出て行ってしまったこととわかり、問題の深刻化を回避できたこともありました。

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