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国立大学法人 東京大学 副学長/大学院情報学環・学際情報学府 教授 吉見 俊哉 氏国立大学法人 東京大学 副学長/大学院情報学環・学際情報学府 教授 吉見 俊哉 氏

レッツプラザ2016年10月号

多彩な文化資源を創造的に再活用する新時代のまちづくり。
“つながり”をキーワードに、東京から世界へ発信する新たな都市の価値とは?

2016年8月のリオから聖火を引き継ぐ4年後の東京オリンピック・パラリンピック開催へ向けて、都内各所では競技場や交通インフラなどの整備が着々と進んでいます。世界的一大イベントを契機に、変化のただ中にある現在の東京。そんな新しいものが生み出される活気の傍らで、長年にわたってこの街が育み、蓄積してきた多彩な文化の価値を発掘し、新しい街の創造に生かそうとするプロジェクトが動き始めました。

その名も「東京文化資源区構想」。今回は、この構想をとりまとめる東京文化資源会議の幹事長で、東京大学副学長の吉見俊哉教授に、プロジェクトの取り組みや目的、そして、これからの時代にふさわしい都市のあり方などについてお話を伺いました。

都心北部の文化資源から
新しい東京を創造・発信する

私たちが進めている東京文化資源区構想は、東京都心北部の谷根千(谷中・根津・千駄木)、根岸から上野、本郷、湯島、神保町、秋葉原、神田に至る半径2km圏内を「東京文化資源区」と位置づけ、それぞれの地域で近世から近代、そして現代にかけて集積されてきた多種多様な文化資源を一体的に活用しながら、これまでとは一線を画す、新しい時代の東京の価値を創造していこうというプロジェクトです。

この構想についてご説明する前に、まずは2020年の東京オリンピックが現在の日本にとって、どんな意味を持つのか、ということについてお話したいと思います。「速く、力強く、成長する」というテーマのもと、高度経済成長時代の成功体験となった一度目の東京オリンピックは、大量生産・大量消費を是とするいわば“量の時代”を象徴するイベントでした。しかし今、 2020年の東京オリンピックに向けた取り組みには、開催コストの問題など様々な課題が残されている状況です。

私は、こうした混乱やつまずきの原因のひとつが、1964年の価値観に社会全体がいまだに引きずられ、しかるべき価値の転換が十分にできていないことにあると考えています。では、2020年代の日本人が共有すべき価値とは何か。それは、大量生産・大量消費ではなく循環型生産・循環型消費を旨とするサスティナブルな社会、強さよりしなやかさを、速さや効率よりも愉しさや生活のクオリティを追求する、そんな成熟社会を実現する価値観だと私は考えます。

こうした転換は、実は都市開発の領域にも求められています。そしてその転換を具現化しようとする実践的な試みこそが、今回の東京文化資源区構想なのです。谷根千に育まれた生活文化資源、上野が培った芸術文化資源、本郷で成熟した学術文化資源、秋葉原がリードするポップカルチャー資源、神保町で育まれた出版文化資源、湯島や神田に息づく精神文化資源といった多彩な文化的遺産が、2、3時間程度の徒歩圏に集積しているエリアというのは世界的にも例を見ないと思います。

これらの点在する文化資源を線で結びながら、エリアとしての一体性を回復したうえで、日本が蓄積してきた文化・芸術・学術の拠点として再生し、世界に向けて発信していくことは、東京そして日本の文化的な地位を大きく向上させるはずです。

本構想では、2020年、そして後に続くポスト2020年に向けて、都心北部の文化的な価値をもう一度、見える化して再生していくことを目指します。そして、明治から戦後、高度経済成長時代にかけて都市機能の重心となった青山通り沿いの赤坂、六本木、青山、原宿、表参道、渋谷といった都心南部だけでなく、都心北部からも東京の文化的な魅力を発信していくための方法を探求・提案していく考えです。

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