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賃貸経営のリスクを考える(3)

ちょっとお得な資産経営の新常識

賃貸経営のリスクを考える(3)
 前回は、賃貸経営の初期投資上のリスクとして、立地判断の誤りと投資規模の誤りについて取り上げました。今回は、初期投資上のリスクの残りの項目を、具体的に見ていくことにしましょう。
初期投資上のリスク
建物等の高値での取得(投資時期の誤り)
 株式投資などの金融資産への投資を考えれば分かるように、投資のタイミングと売却・換金のタイミングが、何に投資するかという投資対象と同様に重要なことは言うまでもないでしょう。ところが、賃貸ビジネスでは、投資のタイミングを考えないで投資する人が多いようです。

 例えば、土地活用で鉄筋コンクリート造の賃貸マンションを建てる場合、賃貸マンションの建設費は、工事の発注時期によって大きく変化します。

 一例を挙げれば、ミニバブルと言われた2008年頃の鉄筋コンクリート造の建物の工事単価は、2011年と比べると、実勢ベースでは、3割から4割程度は高かったと考えられます。これは当時、中国をはじめとする新興国の急激な経済成長により原油、鉄鉱石などの一次産品の価格が暴騰し、石油製品や鉄鋼等の建設資材が高騰したことが直接の原因でした。

 賃貸ビジネスの場合、投資した資金の回収には、20年から30年程度の長期間を要するため、いつビジネスを始めようと、景気の波を避けることはできません。つまり、いつ投資しても、事業開始後の運用期間から得られる総収益にはそれほど差はない訳です。

 しかし、いつ投資するかによって、初期投資の金額は大きく変わるので、できるだけ建築工事費の落ち着いた時期に投資することにより、初期投資金額を抑えることが極めて重要なのです。

過度に借入金に依存した資金調達
 賃貸経営において、よくある間違いの一つが、全額借入金で投資することが望ましいという考え方です。例えば、土地オーナーが行う土地活用の場合には、所有する土地上に全額借入金で賃貸用建物を建てることであり、投資家が行う不動産投資の場合には、全額借入金で土地建物を購入する、いわゆるフルローン投資のことです。

 こうした全額借入金での投資が望ましいと思う理由の一つは、自己資金が十分に用意できないためと考えられます。しかし、ビジネスや投資行為を行う際に、自己資金を用意できずに全額借入金で投資すれば良いと考えるような人は、そもそもビジネスや投資行為を行う資格はないのかもしれません。なぜなら、こうした人は、「借入金のレバレッジリスク」という、ビジネスや投資のイロハのイともいうべき基礎知識を知らないからです。

 賃貸経営における借入金の意義としては、以下のようなメリットがあり、一概に否定的に捉えるべきではありません。

1. 自己資金を超える大きな金額の投資が可能になる
2. 他の投資対象に比べて担保価値が高く借入金を利用しやすい
3. 借入金の利子は不動産所得上の経費になり節税効果がある
4. 相続税評価上は債務残高がマイナスの財産として差し引かれるため相続税の節税効果がある
5. 借入金比率が高いほど自己資本利益率が高まり資本効率が高くなる

 しかし、一方で、賃貸経営の失敗の相当部分が、借入金の返済が滞ることにより顕在化していることも事実です。

 例えば、賃貸マーケットが悪化して賃料の下落や空室率の増加が生じた場合、自己資金中心の初期投資であれば、募集賃料をある程度下げれば、空室は埋まり、賃貸事業としての継続は可能になるはずです。

 ところが、借入金中心の初期投資の場合には、借入金の返済が可能な範囲でしか、募集賃料を下げることは難しく、その結果、空室が埋まらず、賃貸事業そのものが頓挫してしまう恐れがあるのです。

 なお、ここで取り上げた「借入金のレバレッジリスク」については、以前のコラム『借入金のレバレッジリスクを知っていますか?』に詳しく解説してあります。


事業開始までの時間的リスク(地権者合意、許認可、近隣同意等)
 単独の敷地よりも、いくつかの敷地を共同化する共同ビルや再開発を行うことにより、敷地の高度利用が可能になったり、行政の補助金を利用できたり、競争力の高い賃貸経営が可能になったりするケースがあります。

 しかしながら、こうしたケースでは、地権者合意や許認可などに長期間を要することも多く、また、開発規模が大きくなるにつれ、近隣同意にも時間がかかります。

 長期間を要する開発プロジェクトでは、施設に対する賃貸需要や工事費なども大きく変動することが多く、単独の小規模プロジェクトに比べて、事業リスクは大きくなるのです。このため、こうした共同ビルや再開発事業などを実施する場合には、事業化に要する時間リスクをどの程度までコントロールできるかを冷静に判断する必要があります。

事業開始までの法的リスク(借地問題、借家問題、抵当権・不良債権処理等)
 最近は、賃貸用建物を建て替えるケースも多いのですが、こうしたケースでは、借家問題など法的リスクについて、あらかじめ十分に検討しておく必要があります。

 既存の賃貸用建物の入居者には、その建物に入居し続ける権利としての借家権があり、建物の老朽化だけを理由に、入居者に立ち退きを迫ることは困難です。法律的には、借家権の解消には、「正当事由」が必要であり、建物の老朽化は、それだけでは、「正当事由」に当たらず、それを補完するための金銭給付(いわゆる立退料)が必要となるのです。

 また、借家問題は、単に金銭的な問題としてだけでなく、その解決までに要する時間的なリスクを伴うことに留意する必要があります。

 こうした借家問題以外にも、借地問題や既存抵当権の解消の問題など、賃貸経営を開始する際に考慮すべき法的リスクは数多く存在しており、賃貸経営を行うに当たっては、法律関係の信頼できる専門家を、身近に用意しておくことが望ましいでしょう。

建物の設計・機能上の設定条件の誤り、施工不良等
 賃貸経営は、建物の賃貸により収入を確保するものですので、建物自体が、周辺地域や市場のニーズに対応していることが極めて重要です。

 そのためには、十分なマーケット調査を実施して、市場ニーズを的確に把握することが必要ですが、賃貸経営を長期的な視点で考えると、それだけでは十分とは言えないようです。というのは、市場のニーズというものは、10年、20年という長い期間の間に、大きく変化するからです。

 例えば、90年代前半の単身者用の賃貸物件では、専有面積が20㎡未満のワンルームで、3点セットと呼ばれる水廻りの物件がほとんどでした。3点セットとは、ユニットバスと洗面所、トイレが一体となったユニットで、狭い面積の中に水廻りが納まるメリットはあるものの、最近の賃貸市場では人気がありません。

 こうした入居者ニーズの変化に対応していくためには、将来のニーズ変化に対応可能な柔軟性を備えた建物であることが求められます。

 具体的には、建物の階高が高いことや、居室面積にある程度余裕があることが必要とされ、スケルトン・インフィル方式と呼ばれるような、耐久性の高い躯体と可変性の高い内装設備の組み合わせが効果的でしょう。

 なお、耐震偽装問題のような設計上の不備や施工不良なども大きなリスクの一つですが、コストだけで発注先を選ぶのではなく、実績のある信頼できる設計事務所や施工会社を選定するとともに、特に賃貸住宅の場合には、住宅性能表示制度に基づく性能評価を利用して、第三者チェックを行うこともお勧めです。

 次回は、資金返済上のリスクについて取り上げます。
 
2012/01/18

不動産鑑定士、一級建築士。東京大学卒。三井建設、シグマ開発計画研究所を経て独立。建築再生や建替えといった各種建築プロジェクトのコンサルタントとして活躍中。

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