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第1回 予防医学とは何か?

予防医学とワーカブル80

第1回 予防医学とは何か?
20年の予防医学の蓄積、でも一般的には、まだ始まったばかりの予防医学
  今でこそ当たり前のようになっていますが、当院を開業した20年前はどこも予防医学をメインテーマとしたクリニックはおろか大学病院でさえ、全くありませんでした。わずかにドックや検診だけをやっている医療施設やクリニックで予防医学センターと銘打っているところはありましたが、それは病気の発見もしくはスクリーニング(ふるい落とし)が主であり、実際の癌や脳梗塞、心筋梗塞などの病気を実際に予防していくという我々のクリニックの理念からは程遠いものでした。当然、社会保険庁が提供する医療保険においても治療が主であり、予防が目的のお薬や検査というのは、全く医療保険の対象外、つまり自費診療として取り扱われてきましたし、現在でも医療費の支出では、そのスタンスはあまり変わっていません。

  ところが、年々医療費、介護費用が莫大となり、日本国の財政を圧迫し続けて来たことから、とうとう厚生労働省も予防を柱としていく『健康日本21 』という指針を2000年に打ち出し、予防の重要性について、ようやく目を向けるようになったのでした。

メタボリック・シンドロームのための特定健診の結果が出るのは、10年後
  健康日本21が提唱されて、8年が経ち、ようやくメタボリック・シンドローム(以降MSと略します)という概念を利用した特定健診が2009年4月より日本全国で始められました。これは実際に糖尿病、高脂血症、高血圧症などの病気予防のために体重を減らしていこうとする具体的方策であり、それが実際に実施され始めたことは、とても意味のあることと思います。ただし、このMSの予防における効果というのは、正確には早くて5年後、遅くて10年後にしか出ません。

 これは20年もの間、当院での心身両面から診ていく『予防医学人間ドック』(後述)を毎年約800名の会員に施行し、フォローアップをしてきた結果から言えることです。人間ドックもフォローアップも、ただの検査でのスクリーニングや単なる再検査では、絶対に予防にまで到ることは不可能です。

予防医学とは、人がより多くの幸福を感じるための医療
 
予防医学とは、単に病気にならないようにする医学というよりも、人が自分の人生を生き生き過ごし、幸福をより多く感じられる心と身体を作っていくサポートをする医学と言えます。そのために現代医学の中で、外科や内科といった各科を超えて、科学的根拠さえあれば検査でも治療法でも何でも使っていく積極性が、予防医学には大切であり、それを実践していく専門医師がどんな科のことも、ある程度は知っていることが必要となる、幅の広い医療です。

 この予防医学とは何か? つまり人が幸福をより多く感じられる心と身体を作るサポートをする医学であると、すらすらとうまく定義しているように見えますが、この考えは、私の26年間の医師人生に体験した様々な試行錯誤や成功、失敗がベースになって、湧き出てきたものです。でも未だに予防医学とは何であろうかというのを日々考え続けています。それらの体験については第4回目の「なぜ予防医学を始めたのか?」という題目で、お話ししたいと思っています。

予防医学人間ドックで大切な5つのこと
 
我々のクリニックで実践している、人を幸福にしていく予防医学を実践するためには、どういう状態が、その人にとってベストな状態なのかを診ていく指標が必要です。その指標となる検査をできるだけ多く含んだ人間ドックを『予防医学人間ドック』と呼んでいます。

 当院の『予防医学人間ドック』において、まず第1に大切なのは、指標の取り方にあります。その人の健康状態を決めていく指標は、基本的には、その年代全員の平均ではなく、健康人の平均値を中心にしています。ただ、人が最も身体的にベストなのは25歳~28歳時であり、その時のデータがあれば理想的なわけです。でも大抵の方はそんな若い時に検査をしていない方が多いので、できれば、そのベストな時期のデータを予測し、それと現在との乖離を捉えることが大事な訳です。つまりその年代の健康人の平均と25~28歳時の予測データのダブルスタンダードを指標としていくことが、予防をしていく上で大切です。

 次に大切なことは、当たり前のようですが、病気の早期発見です。
 ところが、これが集団検診など、一定時間に目一杯、受診者を入れて検査をすれば、検査そのもの、または読影で見逃すことが数多くあります。実際、見逃しにおける訴訟は年々多くなっています。最新の設備と、トレーニングを十二分に受けた検査者による高度な技術を用いるのはもちろん、さらに人間ドックでの受診人数を一日6名~10名にしぼることで、正確、緻密、そして丁寧な検査が可能となります。そこまでやって初めて、早期および微小な癌や、また自覚症状の出ていない小さな脳梗塞や微小心筋梗塞などを、見つけ出すことができるのです。


 3番目に大切なのは、ドックでのデータおよび所見を十分に読影、検討し、将来的にどのような病気が起こりやすいかを、受診者の方と一緒に予測していくことです。そのためには、毎年のドックおよび再検査でのデータを経時的に見比べ、病気の成り立ちについて詳しく検討すれば、自ずと受診者の方にも自分が、どのような病気になっていくかが理解できるものです。

 そして、4番目に大切なのは、病気にならないために、これから悪くなるであろう状態を回避または改善するための健康指導をドクターと受診者とのマンツーマンで最低20分以上行うことです。長い受診者の場合には40分を超えることもしばしばあります。素人の方が病気の状態を深く理解し、それを改善する方法まで、話し合うとその位の時間は当然かかりますが、それが予防にとっては欠かせないのです。なぜなら予防をするのは、医者でも看護婦でもなく、あくまで受診者の方だからです。

 5番目に大切なのは、そこで話し合った改善方法を実際に受診者の生活で実施して頂き、ある程度の期間をおいて、その悪いデータが改善するかどうかを再チェックすることです。これを我々は再検査と呼んでいます。ドックでのデータによって、再度来て頂く時期は変わりますが、平均すると3カ月おきに診させて頂いているのが現状です。

 このような5つの重要事項を実践する予防医学人間ドックと再検査の繰り返しによって蓄積された膨大なデータ、このような医学的エビデンス(科学的根拠)が20年もあるからこそ、予防の効果というものが、すぐには現れず、5年、10年後に出るものだということが言えるのです。またこれだけのエビデンスがあるからこそ、当院が予防医学の草分け的存在として、いろいろな分野で取り上げて頂いている由縁だと思っております。
2010/02/03

医師。予防医学の第一人者。慶應義塾大学医学部卒。米国の大学病院にて、最新の放射線医学、早期予防及びストレスマネジメントを学び、早期発見を超えた予防医療を実践。

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