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第2回 予防医学人間ドックでは、どのようなことをするのか?

予防医学とワーカブル80

第2回 予防医学人間ドックでは、どのようなことをするのか?
予防医学人間ドックでは心身両面をチェック、さらには全身を丁寧にくまなく診ることが基本
 予防医学人間ドックでは、心理面、そして全身を診ていくという心身両面からのチェックを基本としています。

 具体的には、まず、ストレス度を中心に診た心理面でのチェックを問診票、尿、血液検査にて行います。現代の日本においては、景気の低迷、リストラ、給料カット、さらには人間関係の複雑化などによるストレスがかなり高いレベルにまできています。それによってストレスから来るうつ病の罹患率が多いのと同時に、心理面で、悩み、病んでいる方が非常に多くなってきています。

 次に全身のチェックに移るわけですが、視診、問診、その他の検査にて、頭の先からつま先まで、できるだけ細かく時間をかけて丁寧に診ていくことを原則としています。
 全身を丁寧に診ていく理由には2つありますが、その第一は、全身の臓器における癌をできるだけ早く小さいうちに見つけるためです。どのくらい時間をかけて全身を診ていくか、検査の精度をどの位高いレベルで行っているかといった程度の差が各病院においてかなりありますが、これはどこの人間ドックでも行っていることです。

予防医学人間ドックで、特によく診ていく動脈硬化度および代謝度
 全身を丁寧に診ていく第二の理由は、全身をくまなく走る血管つまり動脈の状態をできるだけ把握するためです。特にどこに動脈硬化が起こっているかを診て、その程度を知っておくことが病気の予測、予防にとっては大切なことです。そのために全身の動脈に対して、どこの場所がどのくらい狭窄しているのか、または動脈瘤の起こる手前のような動脈の拡張を診るための当院独自の動脈硬化マップを作製しています。これによって、受診者の方が、脳梗塞と心筋梗塞のどちらに将来成りやすいかを予測することも可能な訳です。

 また当院の予防医学人間ドックで重きを置いている、そしてその特徴とも言えるのが、 受診者の代謝度を診ていく点です。よく新陳代謝と言いますが、どんなに良いものを口に入れたとしても、それをうまく分解し、エネルギーや栄養素として、身体の細胞の中にまで取り入れて行かなければ、何にもなりません。むしろ、分解できずに残ってしまえば、身体に良いと思っていたものが、逆に毒にさえなり得るのです。それが代謝であり、その機能は個人また年齢、男女などによって、個々に異なります。

予防医学人間ドックでの代謝度チェックで脳の病気までも予測
 代謝が悪くて起こる病気として代表的なものは、糖分を分解できずに起こる糖尿病、尿酸を分解できずに起こる痛風、脂肪を分解できずに起こる高脂血症などが挙げられます。他にも数多くの代謝病があり、それらは慢性化することがほとんどです。でもいずれの代謝病も慢性化して、ある期間を経た後に、急性の致命的な病気を引き起こします。例えば、糖尿病なら網膜剥離や心筋梗塞であり、高脂血症だと心筋梗塞や脳梗塞です。ここで面白いのは、代謝病のほとんどが、動脈硬化に関連した病気であり、代謝病というのが血管に影響を及ぼしやすい状態であることが分かります。

 最近では脳に関連して、アルツハイマー病やパーキンソン病などの脳の変性についての研究が世界中で進んでいます。その中で分かってきているのが、脳の変性を起こすのが、身体の中の、何らかの代謝物質ではないかということです。その代謝物質が酸化などのある種の変化を受け、脳の細胞にくっつき、病気が起こるのではないか? というのです。つまり早い時期から代謝度を診て、それらを正常化すれば、動脈硬化を始め、脳の変性疾患までも、さまざまな代謝病の予防が可能になり得るのです。それは突然死を起こす致命的な病気や人の世話にならざるを得ない寝たきりや痴呆症を起こす病気の予防にもつながっていくわけです。

 一般的な癌の早期発見はもちろん、心理面でのストレス度のチェック、身体全体の動脈硬化度および代謝度までも診ていくことで、悪い部分を改善して、より良くしていけば、確実に病気の予防が可能になります。

予防医学人間ドックでの改善には、普段の生活習慣を観ていくことが重要
 でも、ここで問題なのは、その悪い部分をどのように改善していくかということです。その確実な予防のためには、まずは毎日どんなものを食事として摂っているのか、そしてどの位身体を動かしているのか? ということを自分自身で観て、知っていくことからが基本であり、とても重要なことです。なぜならどんなに良い生活習慣でも、自分自身の生活を全く無視して、その良い方の生活習慣に完全に変えることは不可能だからです。たとえ変えることができたとしても、せいぜい2、3カ月保てば良い方で、2、3年という長いスパンでの持続は不可能です。

 我々の身体は胎児の頃にはお母さんの血液を、胎盤を通してもらってきました。また生まれてから、しばらくの間はお母さんからのお乳で栄養をもらい、身体を作ってきた訳です。つまり生まれる前と生まれてすぐは、お母さんが普段食べているものから栄養が補われてきた訳です。また子供の頃も、お母さんが作るもので栄養を補ってきた訳であり、自分の意思とは関係なく、お母さんの意思で栄養を摂ってきた訳です。

 ところが、特に大人になってからは、毎日自分で選んだものを口から入れていくことで身体を作っている訳ですから、自分自身が、自分の身体に対するお母さんであるという訳です。つまり自分の身体を、自分の子供だと思って愛情深く、身体に良い食べ物を選んで食べていく必要性があるのです。

現代の食生活および食への意識では、放っておけば必ず病気になる
 ところが、現代においての食生活はめちゃくちゃであり、放っておけば必ず病気になるといっても決して過言ではない酷い状態です。とにかく世界中の美味しい料理を24時間手に入れることができ、しかも大量に売っています。さらには食べ放題があちこちのレストランで流行り、お腹いっぱいどころか、120%も150%も苦しくなるほど詰め込んで、逆に胃腸を壊して、お医者さんのところに駆け込む人も結構見かけます。それでも食べることに満足していないのか、三食どころか四食、五食までも食べた上に、毎食美味しいものを食べないと気が済まないというように、どこか食に関して、無限の欲望が渦巻いた状態にまでなっています。

 美味しいものというのは高糖質、高脂質のものであり、そればかり追求して食べていると、糖尿病、高脂血症が起こりやすく、血管が詰まりやすい状態になり、決して身体に良いものではないのです。昔、日本が戦争で負け、食べ物が無くなって、栄養不足に陥り、結核で亡くなった方が多かったことが影響しているせいか、日本人の多く、特に年配者の方に、栄養を取らなきゃ病気をするから、どんどん食べなきゃ駄目だ、といった間違った意識にとらわれている方がいます。また逆に日本人の女性においては、健康よりも見た目の美しさを保つために、ダイエットに走り、生理が来なくなるほど痩せたり、神経性食嗜不振症といった、食べることを罪悪と思い込み、食べては吐いてしまい、死んでしまうような精神的な病気に陥る方が増えています。

食事、運動の生活改善プログラムを受診者と一緒につくる
 また現在の日本人のほとんどが運動不足になっています。厚生労働省の指針では、一日の消費カロリーを300キロカロリーと言っており、これを歩くことに換算すると、一日に約1時間53分歩かなければ達成できません。万歩計で測ると、約10分1,000歩ですから、11,300歩になります。大抵の方はせいぜい通勤で往復歩くくらいですから、行き帰り合わせて20分程度で、2,000歩から3,000歩、多くて5,000歩くらいしか動いていません。ということは、取る食事のカロリーが高くなり、それを使う運動が少ないのですから、当然それによって体重が増えます。でもそれだけでなく、代謝できないものが蓄積していくことで変な病気が多く起こってくる訳です。

 ですから、普段の食事と運動というのをチェックすることが、現代の予防医学にとってはとても重要なことになります。まずは受診した方がどんな食べ物をどのくらいの量、どの時間帯で食べているのか、そして毎日どのくらい歩いたかを万歩計で記録したものを生活改善プログラムという用紙に3週間ほど書き込んでもらいます。それを予防的見地から、受診者と一緒にチェックしていき、データ的に悪い部分を改善するため、食事と運動の指導をしていきます。

受診者とドクターのフェース・トウ・フェースの時間が信頼関係を生む
 今お話ししたのは、食事、運動での生活習慣の改善のためのプログラムでしたが、それ以外にも、アルコール、タバコなどの嗜癖のコントロール、各種ビタミン剤を含んだ予防的薬剤の投与、メンタルヘルスのためのカウンセリングなど、その個々人の予防的プログラムがあります。そのプログラムを受診者と一緒に作り、実践してもらうことが予防医学人間ドックでは大切なことです。そのためには、受診者とドクターとのフェース・トウ・フェースの時間をできるだけ多く取り、お互いの信頼関係を築くことです。その信頼関係がなければ、予防医学の実践はありえないと言って良いでしょう。そのことは、20年間の当院での経験から痛いほど感じています。

 受診者がドクターとの信頼関係を持ち、予防的プログラムを生活習慣に取り入れると、体質改善など、かなりの成果があります。別に体重を下げることを目的にはしていないのにも関わらず、予防医学人間ドックを受診してからの男性肥満受診者の体重は、多い人で半年間に20kgほど減ったことがあります。平均でみれば5~6kgほど減っており、多くの方が、身体が楽になり、身体の切れが良くなったと報告しています。
2010/02/10

医師。予防医学の第一人者。慶應義塾大学医学部卒。米国の大学病院にて、最新の放射線医学、早期予防及びストレスマネジメントを学び、早期発見を超えた予防医療を実践。

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