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第3回 予防医学人間ドックでは、どのような効果があるのか?

予防医学とワーカブル80

第3回 予防医学人間ドックでは、どのような効果があるのか?
普段から免疫力を上げ、血管、神経の保護をするのが、本当の予防医学

中身を良くすれば、見た目も良くなる予防医学
 我々が目指しているのは、トータルの意味での予防です。単に体重を下げる、お肌をつるつるにするという外側の変化のみを目的としている訳ではありません。でも、それが予防医学を実践していることでの結果または副産物としてついてくることは、多々あります。予防医学によって、動脈硬化が改善してきて、身体の代謝がよくなってくれば、当然体重が必要な分だけ痩せ、血行も良くなり、その結果として、お肌のつやも良くなったということは数多くあります。でも怖いのは、体重が落ちることだけに目を配っていると、痩せてきたので喜んでいたら、実は癌で手遅れになってしまったということが結構起こるからです。ですから、見た目よりも中身を良くするのが予防医学だと思ってくだされば、良いかと思います。

風邪や頭痛、肩こりが、大きな病気の前兆
 また、今までお話ししてきた癌や脳梗塞、心筋梗塞といった命に関わる大きい病気の予防を最終的には目指している訳ですが、そのためには、まず風邪や頭痛、腰痛、肩こりなどの比較的小さな病気や症状の改善と予防が、とても重要なのです。その小さな症状の積み重ねが、長年に渡って起こることで、大きな病気につながるからです。

 大学病院を去り、地方で開業する先生で、これからは風邪ひきや頭痛持ちばかり診るようになるから、医者の腕が下がると愚痴をこぼされる先生方を何人も知っています。でもそんな風邪や頭痛、肩こりなどの小さな病気や症状にこそ、大きな病気が潜んでいることが多いのです。

 特に風邪をひく回数が多かったり、なかなか治りにくい場合には、免疫力が落ちていることが疑われ、それが長く続けば癌が起こりやすい状態や、既に癌ができていることも疑ってかからなければなりません。また長く続いている頭痛、肩こり、腰痛も、筋肉や神経さらに脊髄、脳にまでつながる神経系の変性病や痴呆症または脳梗塞や脳出血の前兆であったりと、大きな病気の現れであることもあり、重要な所見なのです。

小さな症状の改善が大きな病気の予防につながる
 当院では、身体にとって不快になる痛みやかゆみ、重たい感じ、だるさというのは、できれば早めに改善していくように指導しています。そういう症状があれば、必ず何らかの検査をしてその原因が何に起因しているのかを探ろうとします。なぜならば、血液、生化学データにて、糖尿病や高脂血症などの前段階、つまりちょっと悪いけれどもまだ大丈夫というデータの受診者に対し、予防的に指導し、それらのデータが改善してくると、決まって、それまでその受診者が、持っていた身体の不調が改善してきたと報告されるからです。しかもその不調は長く起こり過ぎていて、これが当たり前だと思い込み、不調であったことにさえ気づいていない方がほとんどです。それが良くなってみて初めて、ああ、本当はすごく体調が悪かったのだな、ということに気づくのです。

予防医学人間ドックの20年データは、普段の症状と将来起こる病気の予知につながる
 特に予防医学人間ドックを受診している場合には、血管を含めた、身体全体で、どこが悪くて、どこが良いのかがはっきりしていますから、風邪や頭痛、腰痛、肩こりでも、早めに診させて頂ければ、その症状の原因を掴みやすく、早く治すことも可能です。つまり、予防医学では、単に人間ドックだけでなく、定期的な再検査、さらには風邪、頭痛、腰痛、肩こりなどの症状がある時には、いつでも早めに受診して頂くことを勧めています。それによって、悪い病気に移行するのを早く食い止めることができるわけです。ですから、当院での20年間の記録というものは、単にドックの記録というよりも、どういう人がどんな病気になり、普段からどんな症状があったのかが克明なデータとして残っています。その膨大なデータによって、また新たな受診者の将来起こるであろう病気の予知および予防に用いることができる訳です。

 『当院に来るようになって1年経ったら、極端に風邪をひく頻度が少なくなった』、『風邪をひいてもすぐに治るようになった』、『頭痛、肩こり、が少なくなって鎮痛剤を飲む回数が極端に減った』と、予防医学人間ドックの会員の方のほとんどが、おっしゃいます。つまり当院での指導、処方によって、普段から免疫力の高い状態を作る訳ですから、それが長い間の継続があれば癌になりにくい体質を作ることも可能と言えます。また頭痛や肩こりが少なくなるということは、脳につながる神経系統や血管を、脳の変性や梗塞などの病気になる前から保護していると言えます。

専門分化され過ぎた現代医療と、全身全病気を診ていく予防医学
 全身および全病気まで診ていくということは、今の専門分化された現代医療に対して、逆行しているようですが、我々のやっている予防医学にとっては、どうしても大切な要素となってきます。

 何故かと言えば、一つの臓器に一つの病気が起こったということは、身体の他の臓器にも病気が起こりやすい状態になっているからです。例えば、当院の検査で、大腸のポリープを発見したとしましょう。それがやや大きめであれば、当院から大学病院の内視鏡センターの専門医に紹介し、取ってもらいます。その時、取ってもらったポリープがやや異形成といって正常の細胞が変形して癌に近かったら、またはそのポリープの一部から癌細胞が出てきたとしたら、半年後、または遅くとも1年後には、必ず内視鏡を受けるように、大腸内視鏡の専門医から、当院に指示があります。それは、そのポリープを取った場所から、癌が再発することを懸念していることも勿論あります。でも、それよりも、実際にはポリープがあった場所よりも、そこ以外の正常と思われた場所から、新たなポリープや癌が発生する可能性が高く、それを早いうちに取り除いておきたいためです。ですから、優秀な内視鏡の専門医は、再度診る時には、癌やポリープを取った場所だけでなく、大腸全体を再度くまなく診ています。つまり、一度癌やポリープが発生した場合には、それらができやすい体質になっていると考えた方が、検査の遅れや見逃しを避けることができる訳です。

 これを全身に置き換えて考えてみると、ある臓器に病気ができてしまった場合、もしくは病気になりそうな状態にある場合には、それ以外の病気が他の臓器に起こる可能性が十二分にあるのです。先ほどの大腸癌が発生しているのならば、身体全体の免疫力が落ちている訳ですから、それに関連して女性ならば乳癌、男性ならば前立腺癌が発生しやすくなります。また心筋梗塞を起こした人は、動脈に血栓ができやすい状態になっている訳ですから、脳梗塞も起こりやすくなっていますし、また血圧が高ければ、脳出血も起こる可能性は大です。

 でも専門分化した医療では、心筋梗塞を起こすと、ずっと循環器内科が診ていく訳であり、脳梗塞や脳出血についてのチェックは、心筋梗塞を起こして入院した当初はやりますが、数年も経って、症状がなければノーチェックになってしまいます。そして忘れた頃に急に脳の病気が発生し、泣きっ面に蜂ということが起こる訳です。


毎年の予防的リセットが、新たな病気の早期発見につながる
 医療の世界ではまだ論文となり、発表されてはいませんが、我々が20年間予防医学で全身を診てきた経験では、脳梗塞を起こすと癌が発生しやすくなります。特に半身不随に到るようなケースの場合には、数年後に大腸癌がよく認められます。もしかすると、脳梗塞を起こすことで、脳の一部で癌の予防をしている部分が壊れてしまっているのか、もしくは運動不足になることで、大腸の排便が悪くなり、癌が発生しやすくなっていると推測されます。ただし、いずれにせよ、このことは単に経験則であり、医師国家試験に出てくるような医療の常識になっていないので、そういう目で脳梗塞患者を扱う神経内科の医師はとても少ないようです。ですから、脳梗塞になった患者さんが、便通が悪くなった、下血したといって検査を受けに来た時には、既に手遅れになっていることが多く、手術もできずに亡くなっていくケースが多く見られます。

 なぜ、お医者さんに掛っているのに、大腸癌が手遅れになるまで分からないのかというと、各科で各臓器別にまたは病気別に診ていることで、病気の関連に対しての統計的データが出されていないからです。脳梗塞の患者さんは神経内科医が診ているので、脳関係の病気はしっかりと診てくれていますが、大腸癌などの消化器系の病気についてはあまり考慮していません。先ほども申し上げたように、脳梗塞の患者さんが下血して初めて消化器内科医の元を訪れ、大腸癌だったけれども、手遅れだったという不幸な例が多く起こっても、両科の医師共に直接診ている自分の科の病気だけで精一杯で、その関連性について気づいていないと言えます。特に各科に専門分化された大学病院ほど、こういう傾向が強いといえます。

 我々の予防医学では常に全身をチェックし、脳梗塞、心筋梗塞、全身の癌などの可能性について、新たな気持ちで毎年予防医学人間ドックを通して見直します。このことを我々は予防的リセットと呼んでいます。この予防的リセットをすることで、受診者の方が、一つの病気の治療を受けていても、全身の状態を新たな目で、再度診ていくことで、全く違う病気の可能性について常に考える状態を生み、それが早期発見につながるのです。

統合内科の誕生 ―それは専門分化からの緩和
 2009年になって、『統合内科』という新しい科を設け始めた大学病院が多く出てきました。これは専門分化し過ぎた各内科を緩やかにつなげ、内科全般において診ていける医者を作りだそうとする新しいシステムです。

 日本の医療システムは専門分化したことで、ある症状が発生し、ある特定の病気と診断された場合には、世界的に見ても高度な先端医療を受けられます。でも、症状がいくつ重なっても、どんなに具合が悪くても、はっきりした診断がつかなければ、どこの科も中心になっては診てくれず、たらい回し状態になっているのが現状です。この専門分化という負の要素が多いシステムを改善するためにできたのが統合内科です。

 症状を診て、どこの科で診るのが一番適切なのかを決めていく統合内科の設立は、専門分化した現代医療にとっては、一歩進んだ感があります。ただし、これもできたばかりであり、今後またこれが専門分化してしまい、統合内科の中の何科に行けということにもなりかねません。

 このように症状があっても、病院に掛るということが難しい状態であるのに、症状もない人に対しては何をいわんやです。ましてや、どんな病気にかかりやすいかを予測したり、起こらないように予防してくれる科というのは、今の日本では全くと言っていいほどありません。

 そういう意味では、予防医学人間ドックでの受診というのは、症状があって、どの科に行けばいいかを振り分けてくれる統合内科以上に、全身を診て、さらには病気の予知さらには予防を加えた科への受診といって過言ではありません。それによって早くから自分の弱いところを掴み、それを効果的に補強していく生活上の工夫を学ぶことで、大病を免れると言って良いでしょう。

 しかしながら、全身、全病気をまず診ていき、我々の予防医学のシステムでは、どうしても改善できそうもない受診者の方には、適切な科の適切なドクターを紹介していくことも予防医学にとっては大切な仕事の一つです。これが意外に難しい仕事です。これについては次回にお話しさせて頂きます。
 
2010/03/05

医師。予防医学の第一人者。慶應義塾大学医学部卒。米国の大学病院にて、最新の放射線医学、早期予防及びストレスマネジメントを学び、早期発見を超えた予防医療を実践。

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