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すまいとくらし
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第4回 予防医学での紹介システム

予防医学とワーカブル80

第4回 予防医学での紹介システム
緊急で入院させた有名大学病院の実情
 18年前、私のクリニックで予防医学人間ドックを受診した富樫(仮名)さん(当時61歳男性)を心筋梗塞の疑いで、某有名大学病院に緊急入院させたことがあります。この時、富樫さんの心臓を栄養する3本の冠状動脈が全て動脈硬化を起こしていて、そのうち2本に95%以上の狭窄部位がありました。これは一度発作が起これば、突然死に至るという危険な状態でした。富樫さんの命を救う治療としては、カテーテルというビニールの管で冠状動脈内にステントを入れたり、バルーンカテーテルといった風船を付けた管で血管を膨らませる方法では駄目で、心臓の冠状動脈のバイパス手術以外には手がない状態でした。その手術とは、冠状動脈の狭窄しているところの手前とその後の部分とを、違う血管でつないで側副路を作ってやる手術であり、冠状動脈の直径が3,4mmといった細さしかないことからも、とても難しい手術です。

 私が富樫さんの病室を訪れて、今後のことを相談していた時、主治医である循環器内科の矢上先生(仮名)が入ってきました。実は矢上先生は私の大学時代の同級生であり、彼に頼みこんで、富樫さんを緊急で入院させてもらったのです。その彼が、ちょっと患者さんをはずして、内密な話がしたいと言ってきたのでした。病室から彼の研究室までわざわざ一緒に行き、そこで誰もいないのを確かめてから、矢上先生は聞いてきました。

「富樫さんのバイパス手術をどこでするつもりだい?」

 いきなりの矢上先生の質問に今の大学病院で手術をお願いしようと思っていた私は、びっくりしました。

「えっ、ここじゃ手術が大分先になっちゃうという意味なのか?」
「いや、そうじゃない。今心臓外科のバイパスの得意な田所先生(仮名)が、1ヶ月半前

に教授選に落ちたばかりで、調子悪いんだよ。」

「調子悪いったって、プロだろ。そんなことで手術がだめになるのかよ?」
「お前みたいに精神的に図太くて、どんなことがあっても、何食わぬ顔でなんでもこなせるような奴ばっかりじゃないってことさ。」
「だって、外科だろ、今までも何度も修羅場をくぐってきただろ。」

「今度の教授選での落選は田所先生には相当ダメージになっているようだ。それを目標にずっとやってきたからな。先週、先々週のバイパス手術の患者がリオペ(再手術)になっているんだ。1ヵ月前の患者は、それが元で死んでいる。」

「たまらないな、そんなんじゃ。ここに無理言って入院させた意味がないじゃないか。」
「いや、そんなことはない。我々循環器内科の方でのカテーテル検査は完璧だった。これによって、どこの部位を手術すればいいか分かっているから、どこの病院でもすぐ手術はできる。」
「ということは、ここじゃなくて、違うところでバイパス手術をしろ、ということか?」

「簡単に言ってしまえばそうだ。でも俺も大学病院の端くれだから、大きな声では言えない。あくまで俺が言ったことはオフレコだぞ。」

 それからが大変でした。バイパス手術をやってくれる病院で、うまいと評判のところをいろいろなドクターに聞き、ピックアップしました。そして、そこでの外科医の評判を、まずその病院の循環器内科に聞き出します。そこで初めて大丈夫だと思う病院の心臓外科の先生に話をつけました。その間、入院中の大学病院の心臓外科では富樫さんの手術をするものと思い、病室に様子を診に来ていたのでした。それを、何とかうまいことを言って、某大学病院をまず退院させ、そこから手術するための病院に転院させ、手術に無事こぎつけたのでした。

有名大学病院での手術が全て良いわけではない
 予防医学での紹介システムと大袈裟なことを書きましたが、実際には、単に有名大学病院の名前やテレビでの取材や雑誌に載っていた記事を鵜呑みにして、手術成績も良く、大丈夫な病院であると思い込んではいけないということです。

 では、どうすれば良いのかというと、手術をしてくれる外科医の評判をその科に対応する内科医に聞いてみるのが一番良い方法だということです。例えば、先ほどの心臓の手術は心臓外科が行いますが、その診断をするのは循環器内科です。このように、消化器系の癌を手術する消化器外科ならば、その消化器内科の先生、さらには脳外科ならば、神経内科、形成外科ならば、皮膚科というように相対する内科のドクターに執刀するドクターの評判を訪ねてみるのが一番良い方法です。病気を見つけ、手術をするために外科医に持っていくのは内科医であり、当然その患者さんが手術後にどうなったのかを良く知っている、しかも客観的な立場に常にいるからです。でも、これは一般素人の方がおいそれとできる方法ではありません。

手術がうまく行くかどうかは、外科医より内科医に聞け
 私は、当院の予防医学人間ドックの受診者に手術が必要になった時には、必ず外科医に紹介する前に、それに相対する内科医の先生に、今現在の外科の先生の評判や手術成績を聞いてから紹介します。外科医本人に聞いても、本当のところは絶対に分からないといって良いでしょう。どの外科医も一律、『私が一番うまいですから、私に任せてください』と同じように言ってきます。そのくらい自信がないと任せるのも不安ですが、そういう意味では、その外科医の見た目の印象と言葉しか、手術を任せて良いかどうかの判断基準がないのが現状です。

 最近になって手術成績というものが、いくつかの病院で発表されています。これが客観的なデータになるかというと、外科医自らが出している手術成績というのは当てになりません。なぜなら、手術の難しそうなケースはわざと手術を避けたり、手術がうまくいかなかったケースでも、他の病気を持っていて亡くなった場合だと、そのケース自身を手術成績から抜いてしまっている可能性があるからです。また手術成績を発表した当時は、非常に良い成績だったけれども、最近になって急にその手術成績が悪くなっているという場合も意外と多いからです。しかも、そういう成績は一人ひとりの外科医の手術成績というよりも、病院のデータとして発表されていることが多く、手術をほとんどしていない教授の名前で出されていることも数多く見受けられます。

外科医の体調を見て、整えてもらうことが重要
 手術は機械ではなく、生身の人間がするものです。その時の外科医の体調も、手術成績に大きく影響しますし、先ほどの教授選に落ちたということや、逆に教授になってしまったために、診療以外のことが多忙になり、手術の腕が落ち、乱暴な手術をするようになってしまったというケースも多々あります。教授が無理な手術をして失敗したとしても、誰もそれに対して批判を加えることはできないからです。会社の社長が、企業に利益をもたらす方策を取って、それが失敗しても誰も何も言えないのと同じです。できれば、その外科医の現在の調子を、天気予報のように毎日発表してもらうと良いのですが、そんなことはあり得ません。

 当院の受診者が、手術が必要な場合には、紹介状を患者さんに持たせて、外科医に手渡すだけでなく、外科医の先生のところに直接挨拶に行くようにしています。その時、その外科医の先生の顔色や体調はどうか、必ず良く見ます。さらには、必ず手術の前々日からは、どんなに忙しくても最低6時間以上寝てもらうことと、前の日には一切のアルコールを飲まないでもらうようにお願いしてきます。くだらないことのように思われますが、外科医のベストコンディションで手術に向かうのと、悪い状態で向かうのとでは手術成績も手術時間も全然違うからです。

腕の良い医師、特に外科医は、常に変わっていく
 富樫さんの手術は、実は千葉県のはずれの病院で行いました。当時の日本では、心臓のバイパスの手術は足の大腿部の静脈を取って来て、それを用いてつなぐ静脈バイパスが主流だったのです。でも米国では既にそれを心臓のそばを通る内胸動脈を使う動脈バイパスが主流となっていて、その方が手術後にバイパスした血管が再度詰まるということも少なく、予後がとても良いことが分かっていました。その動脈バイパスの手術が出来る、米国から帰ったばかりの先生がその千葉のはずれの病院にいたのでした。当然その先生の評判をその病院の内科医にまず聞いてから、直接お願いしたのです。

 現在18年経って、富樫さんは79歳になっていますが、今でも元気に当院に通って来ています。その上仕事もしていますから立派なものです。あの時、無理を言って、富樫さんや家族の人達に理解してもらい、有名大学病院から転院してもらうのは大変なことでした。でも、それを無理してやったことで、うまくいったと内心自負していますし、富樫さん自身、『先生のお陰で長生きできた』と喜んでくださっています。

 ただ、そのバイパス手術をして頂いた心臓外科の先生はお年を召され、今は現役を引退されています。現在、心臓のバイパス手術をお願いする時には、都内の違う病院の非常に上手な先生にお願いしていますから、こういう手術は時々刻々どこで、どの先生にお願いすれば良いのかは変化していくものだと思って頂いた方が良いかと思います。
 
2010/04/08

医師。予防医学の第一人者。慶應義塾大学医学部卒。米国の大学病院にて、最新の放射線医学、早期予防及びストレスマネジメントを学び、早期発見を超えた予防医療を実践。

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