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介護する代わりに家を あげると言われたけど……

「持てる」女性たちの贅沢な悩み相談室

介護する代わりに家をあげると言われたけれど……

世の中には「持つ者」と「持たざる者」がいます。
「持たざる者」からみれば、不動産の悩みなんて贅沢な悩みに見えるでしょう。
でも、今は「不動産を持っているだけでバラ色」とはいきません。
不動産はうまく活かして初めて、持ち主をハッピーにする資産に「なる」のです。
このコラムでは、そのための頭の整理方法と問題解決のヒントをご紹介します。
さて、今回は、母親の介護に直面した綾乃さんのお話です。

「突然、父から『綾乃、母さんが大変だ』って電話が入ったの。慌てて実家に駆けつけたら、家のなかはめちゃくちゃ、すえた臭いまでするじゃない。母は昔からきれい好きだから、本当にびっくりしたわ。ところが、母ときたら、「あ~ら、綾乃、どうしたの」って、普段と変わらない様子。その横で、父が途方にくれたような顔をしているんだもの、もう、なにがなんだか、わけがわからなかった。


『実は、母さんの様子がおかしいんで病院に行ったら、アルツハイマー症だっていわれてなあ……』と父。
『え、痴呆ってこと? だって、まだ70歳になったばかりじゃない!』
私の声、きっと裏返っていたと思う。現実とは思えなかったもの。父が定年退職してから10年。娘の私が言うのもなんだけど、200坪もある久我山の屋敷で、人もうらやむような悠々自適の生活を送っていたのよ。介護なんてまだまだ先の話だと思っていたのに……。


父は、家のことは母に任せっぱなしだったから、ひとりじゃご飯も炊けないし、洗濯もできないし、ゴミの収集日だって知らないの。その晩、実家に泊まって父と話をしたんだけど、私に家に戻ってきてくれって言うの。上の兄の家族は海外だし、下の兄は近くに住んでいるけど、母と兄嫁は犬猿の仲。一緒に住んだりしたら、母の病気がもっと悪くなるし、向こうも承知しないだろう、って。


『お前が戻って一緒に住んでくれるなら、この家はお前に譲る』とまで言われたわ。私は独身だし、実家から通勤もできるけれど、母の病気が進んだら仕事だって続けられるかどうかわからないじゃない? といって、このまま父と母を放っておくわけにもいかないし、もう、頭はパニック。どうしたらいいのかしら。」

 綾乃さんがパニックになる気持ち、よくわかります。あなたのこれからの人生を左右する問題ですものね。とにかく今は冷静に考える時間が必要です。お父様は「介護の代わりに自宅を譲る」とおっしゃったそうですが、民法では子ども全員に均等の相続権を認めています。綾乃さんがそのつもりで家に戻って介護しても、お兄さんたちが承知せず、相続が発生した時に相続権を主張すれば、面倒で不愉快なことになります。東京の高級住宅地、久我山の200坪といったら、億単位の資産ですからね。


 家事が不得手なお父様が、綾乃さんに一刻も早く戻ってきてほしいという気持ちはわかりますが、考える時間を稼ぐために、取りあえず家政婦さんを雇うか、ハウスキーピングの会社に委託しましょう。そして、なるべく早くお兄様たちにも集まってもらい、家族で今後の方針を話し合うべきです。


 この話し合いを抽象的な話や感情論で終わらせないために、ご実家の不動産資産や金融資産をリストアップしておきます。お父様は「できるビジネスマン」だったようですから、その必要性はわかってくださると思いますよ。介護は誰がするか、介護費用をどこから出すかなども決め、最大の問題である自宅の相続についても話し合い、全員が納得したうえで遺言書を作成しておくことです。ちなみに、こうした話し合いをしないまま、一方的に「綾乃さんに自宅を譲る」という遺言をしても、お兄様たちは遺留分(※)を請求できます。場合によっては、専門家も交えて納得するまで話し合い、遺留分も考慮したうえで遺言書を作成したほうがいいでしょう。


 また、綾乃さんが会社を辞めて介護に専念することになった場合は収入がなくなりますから、将来、「自宅に稼がせる方法」も検討しましょう。経済的基盤と精神的余裕がないと、長期にわたる介護は乗り切れません。「ウォーム・ハート、クール・ヘッド」で対処してくださいね。

遺留分:片寄った遺言などによって、一部の相続人が過度に不利益を被らないように、民法では、遺産の一定割合を「遺留分」として相続人に保証する制度を設けています。権利を侵害された相続人が「遺留分減殺請求」をすることで遺留分を取り戻すことができますが、返還する額などを巡って相続人間で激しい争いになったり、訴訟になったりするケースも多く見られます(遺留分についての詳細は、専門家の方にご確認ください)。

2008/08/21

不動産ジャーナリスト。1978年、青山学院大学卒。「住宅画報」編集、「住宅新報」記者を経て1995年に独立、専門誌や経済誌を中心に住宅・不動産関係の記事を執筆する。

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