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土地の記憶は、ひとの心をやわらかくする。
東京ミッドタウンという名前になって、
街はすっかり新しくなった。
ある老夫婦がそこを訪れた。
その新しい街の活気にふたりは戸惑っていた。
夫はかつてここにあった防衛庁で働いていた。
妻は近くの大学の施設で働いていた。
ふたりが過ごしてきたこの街は
今では時代を先取りする空気に包まれた
賑やかなエリアになっていた。
土地というものはここまで新しくなれるものなのか。
ふたりは顔をみあわせた。
そしてお互いの戸惑いを笑った。
東京ミッドタウンのコンシェルジュに自分たちがかつて
この街で働いていたことを話すと
彼女はひとつ提案をしてくれた。
「昔の土地の記憶、残っていますよ」
彼女が教えてくれたのはかつてこの土地にあった
桜や楠を140本も移植してある遊歩道だった。
ちょうど桜が満開だった。
ふたりが出会った場所に、まだあの桜が。
そう思うとなんだかふたりは優しい気持ちになった。

土地の記憶。
なるほどもしかしたら私たちはそういうものに包まれて
暮らしているのかもしれない。
大切にしなくてはいけないものは
いつも心の深いところに触れてくる。
いい街には、物語がある。
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2015年5月掲載 雑誌広告