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民法改正が賃貸借に与える影響 ~その2 賃貸人の修繕義務と賃借人の修繕権~民法改正が賃貸借に与える影響 ~その2 賃貸人の修繕義務と賃借人の修繕権~

レッツプラザ2018年9月号/執筆者:江口 正夫

Q.お客さまからのご質問 Q.お客さまからのご質問
民法が改正され、2020年4月1日から実施されるとのことですが、賃貸アパートやマンションの大家に影響のある改正があったと聞いています。所有しているアパートが古くなり、入居者からは修繕を求められることが多くなってきたのですが、修繕についてのルールは何か変わるのでしょうか。変わるとすれば、どのように対応すべきでしょうか?

A.お答え

① 賃借人の修繕権の明文化

賃借人は、賃借物の修繕が必要である場合であることが前提となりますが、改正民法では、①賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにも関わらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき、②急迫の事情があるとき、の2つの場合には、賃借人が修繕の必要な個所を自ら修繕することができる権利を有することが明文で定められました(改正民法607条の2)。この条文は改正民法で新たに設けられたものです。オーナーとしては、自己の所有物であるアパート等を借家人に修繕されてしまうことになります。

また、賃借人が自らの権利としてアパート等を修繕した費用は、最終的にはオーナーが負担することになります。賃借人は、修繕に必要な費用を自ら支払った場合には、賃貸人に対し、ただちに請求できるということは改正前民法の時代から定められているからです(現行民法及び改正民法608条1項)。このような改正がなぜおこなわれたのかとお考えの方も少なくないと思いますが、実は、この結論は現行民法のもとでも、裁判所の判例で認められていたものです。その意味においては賃借人の修繕権については、法的には、改正前民法と改正民法の考え方は変わっておらず、判例で認められていた賃借人の修繕権を民法典に明文化したものといえますが、民法に賃借人は一定の場合には賃借物を修繕する権利がある旨が明文化されたことの影響は小さなものではないと思われます。

② 修繕権の明文化による影響

これまで賃借人の修繕権は、裁判所の判例で認められていたものですが、これが民法典に明記されると、修繕権を行使するという事例が多くなることが予想されます。例えば、アパート等が老朽化して賃借人から修繕を求められた場合に、オーナーとしては、修繕よりも建て替えを希望して、立退料を提示して明渡条件を交渉しようとしても、修繕要求の通知から相当期間が経過して賃借人がアパート等を修繕してしまうということもあり得ます。また、修繕にもグレードの差は自ずとあるはずですし、賃借人のおこなったものが修繕なのか、それとも改良であるのか等のトラブルを生じることもないとはいえません。濫用的な修繕がおこなわれるという事態もあり得ないとはいえないと思われます。このような事態を生ずることはオーナーにとっても賃借人にとっても不幸なことです。

③ 濫用的な修繕の防止

オーナーとしては、賃借人の修繕権の行使はやむを得ないとしても、濫用的な修繕は避けたいと考えるところです。濫用的な修繕がおこなわれないようにする一つの方策として、賃借人が修繕権を行使しても、その費用をオーナーに請求することができないとされている場合には、濫用的な修繕は軽減されると考えられます。賃借人が修繕費用をオーナーに請求できる根拠は、改正民法608条1項において修繕等に必要な費用を賃借人が支出したときは、オーナーにただちに請求できると定められていることですが、この規定と異なる特約をすることは一般に有効と解されています。例えば、オーナーの承諾を得ることなくおこなわれた修繕についての費用はオーナーに請求することができないとの特約がなされた場合には、それが具体的な事情のもとで、賃借人の利益を一方的に害する特約であると認められない限り、有効であると解されます。こうした特約を通じて、濫用的な修繕を防止していくことも可能かと思われます。

※本記事は2018年9月号に掲載されたもので、その時点の法令等に則って書かれています。

江口 正夫
海谷・江口・池田法律事務所 弁護士 江口 正夫
東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、民事訴訟法改正問題特別委員会副委員長、NHK文化センター専任講師、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。

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