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相続財産の“とりあえず共有”問題点とその解決法相続財産の“とりあえず共有”問題点とその解決法

レッツプラザ2019年1月号/執筆者:阿藤芳明

相続にあたり遺言書がない限り、相続人全員による話し合いで財産の分け方を決めなければなりません。これを“遺産分割協議”と言います。この手続きに期限はありません。
しかし、相続税が課税される場合には、申告期限は原則として10か月です。
つまり、この期限内に話し合いがまとまらなければ、望ましくない「未分割」として共有の状態に。
それでは、共有になるとどんな問題が生じるのか、そして、それを解消するにはどうすればよいのか、今回、不動産の共有について考えてみましょう。

なぜ共有になってしまうのか

では、共有になると何が問題なのでしょうか。最大の問題点は、原則として全員の合意が必要なことでしょう。原則として、と言ったのは、他の共有者と意見が異なった場合、自分の共有持ち分だけを売却や処分ができるからです。この行為に全員の合意は必要ありません。完全な単独行為です。もしその持ち分が性質の良くない部外者に移転したら、とんでもない状況になる恐れもあるのです。

そうでなかったとしても、そもそも全員の合意というのはなかなか難しいものなのです。十人十色、人はそれぞれ考え方も感じ方も違うものだからです。

さらに、アパートや賃貸マンションのように収益を生むものが共有になれば、収入も経費も持ち分に応じて分配し負担することになります。収益の分配は良しとして、とりわけ経費の負担は問題になる事が多いのです。

具体例で考えてみましょう。雨漏りの修理が必要な事態になったとします。建物の老朽化も考え、屋上の防水工事を全面的におこなうとすると1,000万円という見積もりです。片や近い将来建て直すこともあり得るので、ここはとりあえずの応急措置で凌ぐのであれば、150万円ほど。いずれの方策を取るにしても、全員の合意が得られれば問題はありません。そうではなく、大修繕派と応急措置派に分かれたら、全員の合意が原則のため方針を決められない事態になってしまいます。

ただし、同じ共有でも親と子の場合には、あまり問題はありません。親は子供に有利な事を考えてあげることも多いからです。そのため親は喜んで譲歩もしてくれるでしょう。

しかし、これが兄弟姉妹の場合、事はそれほど簡単ではありません。お互いに独身であればいざ知らず、それぞれに家庭があればそれぞれの事情もあるからです。まさに兄弟は他人の始まりとばかり、醜い争いの元にもなってしまいます。

5つの解消法

①共有物の分割

共有物の分割とは、文字どおり現物の不動産を物理的に分ける手法です。図1をご覧ください。

X土地をA、B、Cの3人で共有しています。この場合、X土地のどの部分をとっても3人の共有なので、単独では何をすることもできません。こんな時は、X土地を甲土地、乙土地、丙土地の3つに区分けし分筆登記までしておけば、3人がそれぞれの土地を自由に利用することが可能になります。

ただし、気を付けたいのは税務上の問題です。基本的には3つの土地が価額的に等価であることが必要です。そうでないと低い価額の人から高い価額の人へ贈与があったものとされる可能性があるからです。例えば、隣地を所有していて3つの土地のいずれかと地続きになる事で、利用勝手が増大する状況があったとします。その新たに区分された土地を単独で考えれば価額的に低いものでも、地続きになる事で使い勝手が飛躍的に増すこともあるでしょう。このような特別な理由がある場合、客観的なそれぞれの土地の価額は必ずしも問題とはなりません。また、価額差があっても、第三者間同士であれば、相互に贈与の意思がない限り、その心配も少ないでしょう。しかし、親子間、親族間の分割は税務署に疑いの目をもって見られるので特に注意が必要です。

②交換

交換とは文字どおり、X土地を所有するAと、Y土地を所有するBが双方合意の上で、それぞれの土地を交換する事を言います。例えば、X土地をAとBが共有している場合、X土地のA所有の共有持ち分と、Bが他に所有しているY土地の所有権を交換すれば、X土地はBの単独所有となります(図2参照)。当事者同士が等価であると認識し、金銭の調整を全くしないでおこなう場合もあるでしょう。また、価額の差額分を金銭でやり取りすることもあるでしょう。いずれにせよ、当事者同士が納得しておこなった場合でも、税務上は双方がそれぞれの土地を売却し、その代金で相手の土地を取得したと考えるのです。従って、基本的には双方が譲渡税の対象になってしまうのです。

ただし、次の条件をすべて満たしている場合には、特別に課税の対象とはしていません。その条件とは、㋐譲り渡す資産は、1年以上所有していた固定資産であること、㋑取得する資産は相手方が1年以上所有していた固定資産で、かつ、交換のために取得したものでないこと、㋒譲渡した資産と取得した資産が、宅地と宅地、建物と建物のような同じ種類の固定資産であること、㋓取得した資産を、譲渡した資産の譲渡直前の用途を変えず、同一の用途で利用すること、㋔交換時において、取得した資産と譲渡した資産の価額との差額が、いずれか多い方の価額の20%以内であること、等々です。

③売買(売却)

共有の解消法で最もわかりやすいのが売却処分でしょう。換金化したうえで持ち分に応じて分配すればよいだけです(図3参照)。誰の目にも納得のいく、公明正大な方法でしょう。ただ、現実には反対者が一人でもいると、実行は非常に困難になります。反対なら自分が他の共有者から買い取ればよさそうなものですが、その金は用意できない。ならば売るしかないのに、それは嫌だと堂々巡りの繰り返しも。

④贈与

お互いに良好な関係であれば、その持ち分を一方から他方へ贈与することも考えられます(図4参照)。お金もかからず移転自体は簡単ですが、ここでも問題は税務です。とりわけ不動産は価額的にも多額になることが多いので、一度の贈与では贈与税の負担が大き過ぎることもあるでしょう。そのような場合には、年度を分け数年かけておこなうことも可能ではあります。 

それをあえて一度でおこなおうとすれば、ここで詳述はしませんが“相続時精算課税制度”を活用することも考えられます。ただ、この制度を一度選択すると、それ以降は、毎年110万円までの非課税枠がある暦年の贈与ができなくなりますので注意が必要です。

一般論としては相続税より贈与税の方が負担が重いので、相続を待つことも多いでしょう。しかし、贈与税の税負担が重くても、収益物件の贈与であれば、その後の収益が受贈者(贈与を受けた人)に帰属することになるので、総合的に判断することが必要でしょう。

⑤信託

信託とは信頼できる者に財産を託し、契約次第では運用のみに留まらず、売却・処分までをも依頼する法律行為です。信託の登場人物は3人。ⓐ自分の財産を託す人(「委託者」と言う)、ⓑその財産の運用や処分等までを引き受け、実行する人(「受託者」と言う)、ⓒその財産から生じる利益を享受する人(「受益者」と言う)の3人がそれです(図5参照)。

信託をすると不動産であれば登記簿上は受託者名義となりますが、その利益を享受する人はあくまで受益者。従って、委託者以外の人が受益者になると、委託者から贈与があったものとされ、贈与税が課税されてしまいます。そのため基本的には委託者=受益者で信託をおこないます。この信託が何故解消法になり得るのでしょうか。

例えば委託者Aが高齢のため、共有者の一人として所有する収益物件の管理が困難になってきたとしましょう。そのままではAは他の共有者Bに自己の意思表示もままならず、共有状態の不動産の維持・管理に支障をきたす恐れがあります。

そこで、Aは自己の持ち分を息子であるCに信託します。するとCが受託者としてAに代わり、契約に定めたことは何でもできるようになります。ただ、Cはあくまで受託者に過ぎないため、その収益自体はAのもの。贈与税が課税されないよう、委託者=受益者としてあるためです(図6参照)。

もちろん、これだけでは共有の解消にはなりません。しか し、 Aに代わって他の共有者Bにモノを言い、行動していく事で、共有状態を活性化させ、場合によっては持ち分の買い取りや売却を促すことにもなり得るのです。その意味では、信託も共有解消のひとつの方法と考えられるでしょう。

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