S&E総合研究所 三井不動産 サイトマップ 三井不動産
情報発信

コラム

 

 
「日本」のアイコン 飛騨高山

 

 

 飛騨高山と言えば、国内外から多くの訪問客を集める観光都市して名高い。ご多分に漏れず昨今インバウンドで活況を呈しており、偶々先般訪れる機会があったので、見聞した状況を寸描してみたい。

 

 

海外インバウンド客で賑わう伝統的建造物群
保存地区の古い街並み(筆者撮影)

 街のなかでは外国人旅行者の姿がとにかく目につく。ちなみに昨年高山を訪れた外国人は50万人を超え、この10年間で4倍近い伸びである。何より特筆すべきは、その内容だ。日本全体では中国本土と韓国からの訪日外国人で40%を占めるが、高山では両国併せても10%に過ぎない。国別データによると、欧米豪を中心に世界広域から誘客できている。この傾向は京都によく似ているが、そのバラエティの豊かさは京都をも凌ぐほどの堂々たる国際観光都市である。
 なぜこの街が世界中から多くの外国人旅行者を集められるのか。いろいろ理由を挙げることは可能だ。その情緒ある街並みや日本三大美祭の一つ「高山祭り」など魅力ある観光資源に恵まれている。近隣に白川郷、下呂や奥飛騨温泉など有力な観光地を擁していることも大きなアドバンテージだろう。

 だが、そうした通り一遍の説明だけではどうもしっくり来ない。例えが拙くて恐縮だが、仮に「観光地曲線」なるものがあったとすれば、高山はその座標曲線から明らかに外れた、尖点のような存在である。要するに特異点なのであって、そこには特異な条件があるはずだ。

 まず一つ他との違いを言えば、高山のインバウンド戦略は昨日今日始まったものではないことだ。それは1986年の国際観光都市宣言にまで遡る。昭和末期、世の中がこれからバブル最盛期に向かおうかという時期に、この街はインバウンドへと舵を切っている。それ以来営々と誘客プロモーションや受入サービス整備が行われてきた。多言語化などは後者の典型例であるが、例えば観光協会のホームページは10言語・11種類、散策マップは11言語・12種類が用意されている。ただ、こうしたことは宿泊・飲食・二次交通・案内所・誘導標識などと同様に、観光における周辺サービス機能であって、核心的かつ決定的な要因ではない。

 

 

 それでは何が外国人を惹きつけているのだろうか。先進国からのお客様が多いことがヒントになる。先進国、すなわち西欧近代文明およびその価値観が浸透している国の人々ほど高山を好むのである。そもそも人は何ゆえに異国を旅したがるのか、それは自国では味わえないエクスペリエンスを求めてのことであろう。この基本に立ち返って考えてみれば、欧米とはまったく異なる価値観を持つ日本の原風景を色濃く残す街がデスティネーションに選ばれるのは理解できる。
 巷間言われることだが、欧米のキリスト教的世界観では自然は支配・管理する対象であり、人間と自然は主体と客体として分離され対峙する関係にあるのに対し、日本的神道的自然観においては人間は自然の一部として一体であり、両者は共生・協調する関係にある。高山に来るとその「日本らしさ」を鮮烈に実感できるということなのだろう。古い歴史的景観の中には、一位一刀彫や春慶塗などの伝統工芸や祭りを守る人々の暮らしが息づき、毎日開かれる朝市にはこの土地でしか味わえない人との触れあいがある。
 表層に見える美しい景色だけではなく、精神の非常に奥深いところでの共鳴、共感が深い満足をもたらしている。その深さが世界各国の旅行者を惹きつける意味において、飛騨高山は日本そのもののアイコンであると言えよう。

 



  池田 磨佐人
2018年11月29日 街のちから(三友新聞)




調査研究報告
寄稿記事
刊行物
ケアデザインネット
あなたを想うことからページの先頭へ
三井不動産のプロジェクト