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コラム

 

 
Vedi Atami, e poi muori 復活した静岡県熱海市

 

 

 「街のちから」とはつまるところ、「街の魅力」でもある。街に魅力があれば経済力も成長力もいろいろな力が後から付いて来る。しからば、街の魅力とは何か?魅力ある街とは?それが解れば誰も苦労はしないのだが、今回取り上げた静岡県熱海市が辿った繁栄→衰退→復活という経過に謎解きの糸口がありそうだ。街の盛衰と軌を一にして、街の魅力の方も消失→再出現という経過を辿っているはずだからである。

 

 

熱海の海岸風景4択クイズ
(答え:1・3が熱海、2がナポリ、4がモナコ)

 日本有数の温泉観光地としての繁栄ぶりや、その後の衰退については本題ではないので詳細は省くが、観光地としてのピークがちょうど東京五輪から大阪万博にかけての高度成長期であったことは象徴的だ。当時は社員の慰安旅行に代表される団体客をターゲットとした大型宿泊施設がメインで、宴会や温泉など旅行目的がほぼ館内で自己完結してしまい、観光客が街に出て、その魅力に触れる機会は少なかった。しかし時代と共に利用客が団体客から個人客へと移っていくと、顧客の来訪目的も宴会や館内施設ではなく、観光地そのものへと変わっていく。

 一方で団体客相手に特化していた宴会歓待型の大型宿泊施設がハード・ソフトともに個人客向けに転換するのは、資金的にも経営的にも容易ではなく、結果として個人客からも見放され、衰退の道をたどっていった。しかし、2011年を底に宿泊者数が増勢に転じ始める。実数で見れば最盛期の530万人に対し、300万人を回復した程度に過ぎないのだが、この停滞・縮小社会にあって増加トレンドに反転させたことは注目に値する。街から何かが消え、何かが蘇った。街から消えていったのは宿泊施設であり、蘇ったのは人気(ひとけ)である。前者は半減した後も総数は上向いていないが、人気(ひとけ)の方は観光客が増加している。観光客の増加については単なる数字以上に、街を歩いている人の表情や雰囲気などの定性的な中味が重要だ。例えば商店街再生の成功例と評される熱海銀座を行き交う若い人の流れからは、空き店舗が再生されてバールやジェラート屋、ゲストハウスなどに生れ変わった新感覚のスポットに引き寄せられて来ている様子が窺える。

 そこには魅力というものの存在が見え隠れしているようだ。魅力というのは、モノや空間だけではなく、そこから生じ何か別のものに化体した力でもある。今の時代は、モノそのものよりも、それにまつわるイメージやブランド、あるいはストーリーやメッセージ、そうした「情報」の方に価値の主体が移っている。熱海銀座の例では、古い小さな商店街の小さな一角がリノベーションされ、新しいスペースに新しい使い手を呼び込んでいった動きに物語性というか、ある種の「情報化合物」が生じ、そこに若い感性が反応している。それが意外に大きな力となって、人の流れを呼び込んでいるのだ。

 

 

 熱海は湾曲した海とそれに迫る山並みとの関係性が素晴らしい。この海と山との恵まれた地形を最大限活かすべきだ。アレックス・カー氏が嘆くとおり、我が国土の景観破壊は確かに酷いが、逆にそれはチャンスでもある。つまり日本に無いような本当に綺麗な街を創ることが出来れば、大きなアドバンテージになるということだ。かつて友人が「熱海はナポリに似てるなぁ」と呟いた言葉を思い出す。そう、小稿のタイトルのように「熱海を見て死ね」と言われるようになれば大成功だ。



  池田 磨佐人
2019年8月8日 街のちから(三友新聞)




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