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彼女が浴衣に着替えたら。
日本橋を訪れる外国人観光客が増えている。
銀座にも東京駅にも近いわりに、
観光の匂いよりも伝統の匂いのほうが強いからだろうか。
この街を歩くと、ひとが何に惹かれるのかがわかる気がする。
COREDO室町の地下にある日本橋案内所。
ここには外国人スタッフがいる。
アリア•カーターもそのひとりだ。
浴衣の似合う彼女の話を聞いて驚いた。
自分の言葉できちんと案内ができるように
日本橋の老舗をまわっているのだそうだ。
案内所で販売するぬれもの入れが縁で
浴衣を扱う堀井さんとアリアの交流がはじまった。
伝統を大切にしているこの町の人たちが
勉強熱心なアリアを受け入れている様子を見ていると
人は、外見や言葉などではなく、
その人そのものを見ているのだとうれしくなる。
文化の交流というのは、人間の交流のことなのだ。
堀井さんの反物でつくった浴衣もどこか嬉しそうに見えた。
日本橋案内所には老舗の商品が並んでいる。
そのひとつひとつを手に取って、
彼女が自分の言葉で説明をしてくれる。
不思議だ。
外国のひとの目を通して、もういちど自分の文化を見つめると、
大切にしなくてはいけないものにふと気がつかされたりする。
私たちの文化のなかの美しいものは
普通の毎日のなかに溶け込んでいることが多い。

「日本のかたがいらっしゃったときに
私が日本語で声をかけるとびっくりされることが多いんです」

アリアが笑う。
こういう風景がこれから増えていくのか。
優しくて幸福な風がひとつ吹いた。
いい街には、物語がある。
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2016年9月掲載 雑誌広告