もうすぐ50年になる。
          日本初の超高層ビル、霞が関ビルが誕生してから。
          その建設中に、ひと組の男女が屋上で結婚式を
          あげたことをどれだけのひとが覚えているだろうか。
          
          式をあげる経済的余裕のなかった若者は
          それでも誰からも見通せる場所で
          正々堂々とした式をあげたいと思った。
          そして建設中の未来の建物に目をつけた。
          その屋上で式をあげさせてもらえないか。
          若者は手紙を書いた。
          その手紙は社長の心を動かした。
          誓いの言葉をよみあげるシンプルな式だったけれど
それはこの超高層ビルの忘れられない歴史になった。
          数年後、ふたりのあいだには双子の男の子が生まれた。
          社長がその子たちの名付け親になった。
          
          そのせいだろうか。
          大きくて強そうなこのビルは
          どこか優しい空気に包まれている。
          
          もうすぐ50年になる。
          今の私たちにこういう物語をつくる余裕があるだろうか。
          50年前の物語は、私たちに
          大切な何かを教えてくれている。
          そんな気がする。
        
        
        
        
        
        2015年1月掲載 雑誌広告