SUSTAINABILITY / ESG

Vol.24

2025.09.29

人と街の賑わいをめざして
都心で育む生物多様性

三井不動産グループは2025年4月、街づくりにおける環境との共生宣言「& EARTH for Nature」を策定し、自然と人・地域を一体で「環境」と捉え、持続可能で豊かな環境のネットワークを日本橋はもちろん、東京、日本全国へ広げ、次の世代へとつないでいく街づくりを推進しています。

本宣言のもと、緑地の創出や生物多様性の保全への取り組みなども行っていますが、今回は、生き物の生息状況を観測し、その情報を社会に発信・開示することで街の価値向上につなげるという、ユニークな挑戦に取り組む、サステナビリティ推進本部の竹澤正浩と齋藤誠晃にインタビューしました。

実は東京都心の日本橋には多様な野鳥やチョウも生息しており、三井不動産が創造する「環境」がビジネスにもつながるという、さまざまな意外な話が語られました。

PROFILE

三井不動産株式会社 サステナビリティ推進本部
サステナビリティ推進部 企画グループ
竹澤 正浩(左) 齋藤 誠晃(右)

まず、「& EARTH for Nature」について簡単に教えてください。

齋藤:当社は、自然と人・地域のひとまとまりで「環境」と捉えていて、それらがうまく循環して輝きを増していくことで社会が豊かになると考えています。以前からその考えに基づいて街づくりを進め、東京のみならず北海道から沖縄まで全国で豊かな環境のネットワークを広げることを目指しています。今回の宣言には、そんな当社の環境への姿勢を体系的に落とし込んでいて、長期的な取り組みや発信につなげていきたいという思いのもとで策定されています。

竹澤:宣言の中では、重点的に取り組む課題として「緑を守り育む」「水の魅力を生かす」「生態系を豊かにする」「地域の想いをつなぐ」「自然資源を循環させる」という5つを設定しています。

三井不動産が地域の方とともに街づくりをすすめている日本橋では、「日本橋室町三井タワー」周辺に植樹をして憩いのスペースを作ったり、日本橋川の水質調査にも取り組んでいます。ここでのポイントは、単に緑を増やすのではなく、その地の歴史や文化を生かすこと。そこで、一時はビルの屋上に祀られていた「福徳神社」の社殿の再建や水運の要所だった日本橋の舟運の再興にも力を入れてきました。

重点課題のひとつである「生態系を豊かにする」についてですが、都心においての生き物の保全とは、どういうことをやっているのでしょうか?

竹澤:実は、都心部にも生きものがたくさんいるんですよ。日本橋エリアでは、1,000平方メートル超の福徳の森の整備をはじめ、当社日本橋エリアの6物件で緑化に取り組み、緑地面積は1990年代に比べて4.4倍に増えています。

昨年から日本橋室町三井タワーと福徳の森周辺で生物調査を実施していて、今年の調査だとジャコウアゲハやモンシロチョウなどのチョウ、イソヒヨドリやシジュウカラといった野鳥というようにさまざまな生きものが新たに発見されています。個人的には鳥が好きで、趣味で写真を撮ることもあるので、次の調査でどんな鳥が見つかるのか楽しみにしています。

生物調査を通じて印象的だったことはありますか。

竹澤:日本橋川でも生物調査を行なっていて、ウナギやハゼなどの魚がいたのは意外でした。江戸時代にはハゼ釣りが親しまれていた歴史がありますし、日本橋はウナギ屋が多いから歴史的に関係があるのかなと想像をして面白いなと。今後、首都高速道路の地下化や周辺再開発が進む中でどのように日本橋川の水をきれいにして、魚が生息できる環境を作っていくか、あるべき姿に想いを馳せることが大切です。

齋藤:私は今年4月に異動してきたばかりでいろいろと勉強中ですが、竹澤さんや同じ部署の皆さんの影響で都市の自然や生きもののことに興味を持ち始めました。直近で言うと、日本橋川の調査を見学して、DNAを調べてそこから生息する魚を分析するという高度な調査をしていることにまず驚きましたね。

日本橋では、水辺と連動した先進的な街づくりが進んでいるそうですが、どのようなものを目指していますか。

竹澤:2025年6月、日本橋川を中心とした5つの再開発区域およびその周辺一体のエリアである「日本橋リバーウォーク」について情報発信が開始されました。2040年頃には、首都高地下化と連動した5つの再開発により、幅約100m・長さ1,200mにわたる親水空間が東京駅至近に誕生します。

当社は5つの再開発のうち4つに関わっていて、日本橋川沿いの緑化や在来種の保護など自然環境の回復を目指すことで、多様な生き物が共生できる空間の実現を目指します。日本橋の歴史や文化を受け継ぎながら、水辺の賑わいと豊かな自然が調和するまちづくりを推進し、地域コミュニティと連携した持続可能な生態系を創出していきたいと考えています。

江戸橋上空から首都高速道路の高架橋が撤去された『日本橋リバーウォーク』を望む
※本パースは、イメージであり実際の計画詳細を説明するものではありません。

日本橋のほかにはどのような取り組みがありますか。

竹澤:「東京ミッドタウン(六本木)」は、港区立檜町公園と一体的な整備をしているため、周辺に豊かな緑があります。まだSDGsとかサステナブルという言葉も言われていなかった2000年代の開発ですが、緑地をしっかり確保されていて、当社が自然の空間を大切にする姿勢をもともと持っていたことが伺えます。ここではオオタカやトビという猛禽類も確認されていて、池にはサギも来ます。都心に位置していながら非常に貴重なことだなと思います。

また、「東京ミッドタウン日比谷」では生きものの隠れ家になるエコスタックや人が入れないバードサンクチュアリ的な緑地空間を設けたり、床やベンチにはエコマーク認定を受けた木材を使ったりと、環境に配慮しています。東京ミッドタウン(六本木)は、環境省などが生物多様性の保全が図られている区域として認定する「自然共生サイト」に認定され、また東京ミッドタウン日比谷は一般社団法人いきもの共生事業推進協議会(ABINC)の認証を取得しています。

都市の中で自然が増えることによってどんな価値や意義が創造されるのでしょうか。

竹澤:まず純粋に、人にとって緑の空間というのは気持ちがいいですよね。たとえば、東京ミッドタウン(六本木)のミッドタウン・ガーデンは、憩いの場所になっていますし、いろいろなイベントも開催して地域につながりを生み出しています。自然と人と地域が一体となる環境づくりが当社らしさであり、価値があるものだと思っています。そういう空間を作っていくことで、結果として各種認証も得られ、さらに物件としての価値も上がっていくというのがいい循環だと感じています。

齋藤:身近で感じるのは、たとえば福徳の森は緑があって比較的涼しいので夏のイベントでよく使われたり、周辺のオフィスワーカーもお弁当を食べたりする場所として使っていますね。自然のおかげで、人が行き交う空間になっていると言えると思います。

物件の緑化や生態系の保全は、ビジネスにおいても武器”にもなりますか。近年では、サステナビリティへの貢献を重視する投資家も増えています。

齋藤:企業におけるサステナビリティやウェルビーイングの取り組みは、社会的な注目度が非常に高まってきています。投資家の方々を中心としたあらゆるステークホルダーに向けて「サステナビリティレポート」を毎年発刊しているほか、「TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)レポート」も開示しています。今後、ホームページや動画で当社のサステナブル関連の活動をよりわかりやすく伝えていきたいです。

竹澤:投資家向けの情報開示も私たちのメインの仕事で、TNFDレポートには生物調査の結果も盛り込んでいます。なぜ記載するかといえば、自然環境に街は支えられていると考えているからです。緑があると憩うことができる、川のおかげで舟を運行できるというように、自然は事業上、重要なキーになっていると投資家の方々にもお伝えしています。逆に自然環境が悪化すれば、それだけ物件価値が下がる可能性もある。そうしたリスクをコントロールする重要性は今高まっています。

サステナビリティレポート(左)、TNFDレポート(右)

最後に今後の展望を教えてください。

竹澤:まず、すでに当社として全国で環境に貢献している取り組みがたくさんあるので、わかりやすく一般の方にも投資家向けにも発信していきたいと思っています。これからも自然と人と地域が一体となった空間を全国に広げていきながら、プラスアルファ、グループとして取り組めることを考えたいです。

三井不動産グループのサステナビリティについて

三井不動産グループは、「共生・共存・共創により新たな価値を創出する、そのための挑戦を続ける」という「&マーク」の理念に基づき、「社会的価値の創出」と「経済的価値の創出」を車の両輪ととらえ、社会的価値を創出することが経済的価値の創出につながり、その経済的価値によって更に大きな社会的価値の創出を実現したいと考えています。

GROUP MATERIALITY(重点的に取り組む課題)

  1. 産業競争力への貢献
    企業や社会、そこに生きる人々の英知を結集する役割を担い、社会の付加価値の創出や、新産業の創造に貢献します。
  2. 環境との共生
    持続可能な地球環境を次世代へつなぐために、気候変動への対応をはじめ、広く自然環境との共生を目指します。
  3. 健やか・活力
    ひとり一人が健やかに、生きがいと共に生きていくために、感動体験を届け、活力に満ちた社会の実現に貢献します。
  4. 安全・安心
    ハード・ソフトの両面において、安全・安心な社会の実現に努めます。
  5. ダイバーシティ&インクルージョン
    すべての人が能力を最大限発揮し活躍できる社会の実現に向けた取組みを進めます。
  6. コンプライアンス・ガバナンス
    法令・社会規範の遵守はもとより、企業倫理に従った公正で透明性の高い企業活動を遂行します。