トップコミットメント

持続可能な社会の実現をめざして 三井不動産株式会社 代表取締役社長 菰田正信

当社グループの街づくりの歴史は、単に建物をつくるだけでなく、社会の課題を価値創造を通じて解決する歩みでした。超高層ビルによりオフィスでのワークスタイルを確立し、埋め立て事業によって成長する日本の旺盛な需要に応え、ミクストユースの街づくりで人々の憩いや活気を生み出しました。物流施設事業を通じては、伸長するEコマースや物流効率化を支え、産業の命脈を担っています。また、住宅や商業施設、ホテル・リゾート、東京ドームをはじめとするスポーツ・エンターテインメント事業を推進することで、より豊かな暮らしを提供し、人々のクオリティ・オブ・ライフを高めてきました。事業の成長によって企業価値を高めるとともに社会的価値を生み出し続けることが、持続可能な社会に貢献すると確信しています。

2024年4月に新グループ経営理念、長期経営方針「& INNOVATION 2030」を策定しました。当社グループに受け継がれている精神である「&マーク」の理念は「共生・共存・共創により新たな価値を創出する、そのための挑戦を続ける」を意味します。まさに当社グループの価値創造に取り組む姿勢を表現したものです。そして私たちが果たしたい使命として「& EARTH」「& INNOVATION」「& PEOPLE」を掲げました。こうした想いを踏まえて、当社グループの重点的に取り組む課題「GROUP MATERIALITY」として「産業競争力への貢献」「環境との共生」「健やか・活力」「安全・安心」「ダイバーシティ&インクルージョン」「コンプライアンス・ガバナンス」を定めました。

【産業競争力への貢献】

日本の「失われた30年」という言葉に象徴される長期のデフレの時代が続きました。この30年間続いたデフレから脱却することにより、新たな付加価値が評価される時代となり、さらには付加価値創造を競い合う時代となります。つまり本気でイノベーションを起こし、圧倒的な付加価値を創り出し、産業競争力を高めることが求められています。

私は、当社グループは、「不動産デベロッパー」の枠を超えた、いわば「産業デベロッパー」という「プラットフォーマー」である、と考えています。これまでも我々は「場」「コミュニティ」を提供し産業を支えながら、オープンイノベーションによってテクノロジーの進化、新たなビジネスの成長を促し、付加価値を高めるお手伝いをしてきました。日本橋を舞台にライフサイエンスや宇宙といった領域で当社グループが「LINK-J」や「クロスユー」といった場とコミュニティを提供することによって、そこにスタートアップを含む多くの企業やアカデミアが集まり、エコシステムが形成され、新たなビジネスの芽が生まれてきています。

今後は、あらゆる分野において、自らが「需要を創り出していく」ことが大変重要になります。われわれ自らがオープンイノベーションのプラットフォームを提供し、企業や社会、それを構成する人々の英知を結集させ、新産業の創造、需要の創造を加速していかなければなりません。当社グループが一丸となってステークホルダーの皆様と共生・共創し、社会の発展とともに成長していきたいと考えています。

【環境との共生】

我々は「&マーク」の理念のもと、「開発」と「環境」を両立、共存させていく街づくりに取り組んでまいりました。東京ミッドタウンの開発では旧防衛庁敷地内に残されたクスノキや桜など約140本の高木を保存・移植するなどにより自然環境の保全を実現しています。その結果、東京都の保護上重要な野生生物種を示したレッドリストに掲載されているオオタカ、ダイサギ、トビ、モズを含め、計6目18科25種もの鳥類が確認されています。また、隣接する檜町公園と合わせて広大な緑地空間を作り出し、人々の憩いの場を提供し、災害時には防災活動のスペースにも活用しています。緑を適切に管理することによって移植された既存樹木も枯れることなく成長し、緑あふれる「経年優化」の街づくりを実現しています。

地球規模の喫緊の課題である気候変動においても、「脱炭素社会の実現に向けたグループ行動計画」を策定し、2030年度までに2019年度比で40%を削減、さらに2050年度までにネットゼロを目指すという目標を掲げ、取り組みを進めています。当社グループのGHG排出量のうち建物建設時に発生する温室効果ガスが大きな割合を占めており、脱炭素社会実現のためには建設会社や資材会社など多様なサプライヤーと協力して対応することが必要不可欠です。2023年秋よりすべての物件に当社が策定した「建設時GHG算出マニュアル」を適用し、GHG排出量の算出、削減計画書提出を義務化いたしました。当社グループがサプライチェーンと一体となって業界全体のGHG排出量削減に取り組んでいきます。

環境との共生は街のみならず、当社グループが保有する約5,000haの北海道の保有林においても取り組んでいます。日本の人工林は「林業離れ」が進み、適切な管理が行われない、成熟した人工林が木材として活用されないなど課題を抱えています。我々は苗木を「植える」、適切に「育てる」、森で採れた木を「使う」という“終わらない森”創りのサイクルを実践し、社会課題解決を目指しており、2024年1月に着工した日本橋の木造ビルにおいても当社保有林の木材活用を予定しています。また森林の適切な管理は生物多様性の保全にもつながります。留萌市所在の当社グループ保有林が環境省から「自然共生サイト」に認定されました。環境省レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類に指定されているニホンザリガニなど希少な動植物の生存に貢献していることが評価され、認定に至っており、今後もネイチャーポジティブの実現を志向してまいります。

【健やか・活力】

コロナ禍によってさまざまなサービスのデジタル化が進み、リモートワークなどデジタルの有用性が認識された一方で、リアルの重要性も再認識されたと感じています。人々はデジタルでは得られない「感動体験」や「五感で感じるリアル体験」に、より高い付加価値を見出していくと考えます。スポーツやエンターテインメントといったリアルならではの価値を追い求めるとともに、リアルとデジタルを組み合わせ、多様化するお客様のニーズに合った体験価値を提供することが求められていると考えます。

当社はこのような時代を先読みして東京ドーム社をTOBしたほか、東京ドーム社の持つスタジアム運営のノウハウを活かし、秩父宮ラグビー場の建て替え事業にも取り組んでいます。

2024年5月には「LaLa arena TOKYO-BAY」が開業いたしました。バスケットボール千葉ジェッツの本拠地として利用されるほか、隣接しているスケートリンクの「三井不動産アイスパーク船橋」を含め、スポーツ以外にも、コンサートなどのエンターテインメントイベントが行われます。

今年度より、従来の商業施設事業とスポーツ・エンターテインメント事業を統合した本部を設立しました。当社グループは、両事業の融合による新たなシナジーによって、付加価値創造力をより一層強化し、他社にはない当社独自の強みと競争優位性を獲得していきたいと考えています。

また、ウェルビーイングな社会の実現という文脈においても、スポーツを通じた街づくりが貢献しています。楽しみながら身体を動かせるボルタリングウォールやスケート場、200m陸上トラックなどを商業施設に設置し、入居企業の従業員が参加するバスケットボールのイベントを開催するなど、街の人々がスポーツに触れられる場とコミュニティを提供しています。企業の健康経営に貢献する&wellのサービスにも取り組み、街全体で活気あふれる社会の形成を目指しています。

【安全・安心】

近年、自然災害は頻発・激甚化しています。気候変動によって地震のみならず台風や豪雨なども規模が大きくなっており、さまざまな災害への備えが重要です。建物のハード面での安全性はもちろんのこと、人々が安心できるレジリエントな街づくりが求められています。

迅速な災害への対応のために専用の「災害対策本部室」を本社に常設し、24時間365日災害が発生しても対応が可能な体制を構築しています。また、外来の帰宅困難者受け入れ体制の構築や自治体と災害時の協定を締結するなど、共生・共助の精神で地域一体となった防災への取り組みを進めています。

日本橋などで展開しているスマートエネルギープロジェクトでは、災害などで広域停電が発生した場合でもエネルギーセンターから周辺地域の建物に一定の電力および熱の供給を継続します。高い耐震性をもつ中圧の都市ガス導管により安定的なエネルギー供給を実現し、中圧の都市ガスを燃料とした大型コージェネレーションシステムと系統電力による電源の多重化により、災害時・非常時の企業の事業継続に貢献します。

自然災害のみならず、感染症などの社会的課題への対応も、人々の安全・安心の実現のためには不可欠です。当社グループは「三井不動産9BOX感染対策基準」の策定など、コロナウイルスを含む感染症への対策に取り組んでまいりました。デジタルも活用しストレスフリーな街づくりに取り組み、誰もが不安なく過ごせる社会の実現に貢献していきたいと考えています。

【ダイバーシティ&インクルージョン】

女性の社会進出による共働き世帯の増加、少子高齢化による高齢者人口の増加などにより、育児・介護や仕事とのワーク・ライフ・バランスがますます重要視されています。また基本的人権の尊重のもと、性別や年齢、障がいの有無などにかかわらず、すべての人が活躍できる社会が求められています。当社グループは街づくりの主役は「人」であると考え、人々がイキイキと暮らし、働き、遊び、憩うことができる街づくりに取り組んでいます。バリアフリーな建物や育児・介護に貢献する施設づくりに加え、デジタルも活用したソフトサービスを提供し、多様なニーズに応えていきます。

また、こうしたお客様からのニーズや社会からの要請に応え続けていくためには、当社グループ自身が「多様性」を包摂することが不可欠であると考えています。当社グループの戦略を支える中核を為すものはD&Iであり、組織の意思決定層まで含め、多様な人材で構成されていることがこれからの必須条件となります。当社グループは、さまざまなバックグラウンドや価値観を有する多様な人材が、互いに尊重しながら持てる力を最大限に発揮し、情報や意見を融合させ化学反応を起こし、新たな付加価値を創造する企業集団を目指します。そして、その実現に向けて、「人材力の底上げ」と、「イノベーションを加速させる新たな人材・知見の獲得」にグループ全体で取り組み、多様な人材の活躍を支え、当社グループの力を結集させるOne Team型組織をさらに深化させていきたいと考えています。

このような考えの下、当社グループはD&Iの推進を重要な経営戦略の一つと位置付け、グループ一体となって推進しています。具体的には「育児・介護などとの両立支援」や「働く場所と時間の柔軟性のための環境整備」などの多様な人材のための様々な取り組みを行っています。D&Iの重要テーマである女性活躍推進においては「長く働き続けられる環境整備」と「キャリア形成支援」を両輪で進めています。こうした取り組みが、「プラチナくるみん」の認定取得や「なでしこ銘柄」3年連続選定など、社会的評価の向上にもつながっています。

【コンプライアンス・ガバナンス】

当社グループが事業を推進していくにあたって根幹となるのがコンプライアンスです。企業倫理に従った公正な業務推進なくして、ステークホルダーの皆様からの信頼を得ることはできません。「三井不動産グループコンプライアンス方針」に基づきコンプライアンスの実践をグループ経営の最重要課題と位置付けています。

コーポレート・ガバナンスにおいては、このたび「& INNNOVATION 2030」を実現するために必要な取締役会の体制についても検討を重ね、企業経営に関する見識とともにファイナンスや資本市場に関する幅広い見識を併せ持った社外取締役を1名増員し、社外取締役比率の向上を図りました。取締役会の多様性は重要な要素であり、引き続き、経営の健全性・透明性・効率性の向上を意識してまいります。