SUSTAINABILITY / ESG

Vol.7

2022.3.28

新規事業で挑む「食」の課題

三井不動産ワールドファーム

三井不動産グループでは、ロゴマークの「&」に象徴される「共生・共存」「多様な価値観の連繋」「持続可能な社会の実現」の理念のもと、グループビジョンに「&EARTH」を掲げています。
街づくりを通して、人と地球がともに豊かになる社会に向けた取り組みをニュースレターとしてお届けしてまいります。 Vol.7となる今号では、今後注目される食の課題解決の施策として、三井不動産の2つの「農業」の新規事業を紹介します。
農業と不動産業という一見すると少し距離のある事業が、どこでどう繋がるのか。 三井不動産ならではの視点と取り組みを、社員インタビューを交えてお届けします。

都心と近郊地域をつないでつくる
持続可能なスマート農業

現在、日本の農業は農業従事者や耕地面積の減少、食料自給率の維持など多くの課題に直面しています。三井不動産は、新規事業として2020年に三井不動産ワールドファーム株式会社(以下、MFWF)を設立し、農業に参入。これまでの「街づくり」の知見と、スタートアップとの協業などによる新しいテクノロジーの活用により、「持続可能なスマート農業」と近郊地域の雇用創出を目指しています。MFWFでは、2021年に野菜冷蔵加工工場を稼働させ、キャベツであれば最大10t/日の加工生産を実現。2022年度末には冷凍工場の竣工も予定しています。

サステナブルな農業のあり方を目指す

MFWFは、家族での運営が多かった農業に、集団農法による組織的・計画的な農業運営を導入し、生産から加工まで一体型の事業によって作業の効率化及び安定した収入の確保を実現しています。また製造をカット野菜に特化することで歩留まり率を上げフードロスの削減、働く機会と十分な収入の確保、加えてワークライフバランス、労働安全衛生の確保といった就業者のウェルビーイングにも取り組んでいきます。

都心と近郊地域を農業でつなぐ

2021年に稼働した冷蔵加工工場では、工場内にテレワークで使えるワークスペースを併設しています。フルタイムだけではなく、休日だけ関わるなど、様々な形で農業に従事したい人々が就労できる体制を整えることで、農業従事者の拡大を狙っています。さらにリモートワークの普及によって居住エリアの選択肢が増えたことで、都市の近郊エリアを巻き込んだ新しい都市モデルを形成することも目指しています。

都心と近郊地域の新たな都市モデル

PROJECT STORY
プロジェクトストーリー

新しい農業のあり方で、都市近郊エリアの未来を変える

31VENTURES 主事/MFWF 総務経理部長
石井 雄一朗

31VENTURESからMFWFに参画し、茨城の圃場と東京都心のオフィスを行き来しながら両事業を支える石井雄一朗に、MFWFでの取り組みや今後の展望を聞きました。

MFWFでは、どのような仕事を担当しているのですか。

31VENTURES 主事 / MFWF 総務経理部長 石井雄一朗(以下、石井):バックオフィス業務のほとんどを引き受けています。例えば、経理や契約まわりの対応、採用や労務管理、行政や協力会社とのやり取りなどです。
バックオフィスと聞くと、畑から遠く離れて働くイメージがあるかもしれませんが、実際には現場に近いところで仕事をする場面が多く、日々のオペレーションを観察してマニュアル化したり、スマート農業推進のために現場での検証に取り組んだりもしています。

立ち上げ時からMFWFに参加していたそうですが、当初から今のように幅広い業務を担われていたのですか?

石井:「登記上会社ができただけ」というまっさらの状態からのスタートでしたので、最初は農業の基本を学ぶところから始める必要がありました。経理一つとっても、畑や加工工場など現場で起きていることを具体的に想像しながら取り組まなくてはいけません。
一日の作業を一つひとつ教えてもらいながら、自分たちにできること、やるべきことを考え、試行錯誤しながら少しずつ体制を整えていきました。もちろん今も、理想とする農業にむけて試行錯誤の途中です。

石井さんが理想とする農業のあり方とは、どういったものでしょうか。

石井:一言で表すと、「これまでのイメージを覆すような農業」です。具体的には、きちんとした労務管理のもとで、最新のテクノロジーも駆使しながら、効率的に取り組める農業を目指しています。
少々乱暴な言い方になりますが、「農業はきついし、儲からない」というイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。しかし、技術の進歩も相まって、工夫次第で農業を効率化できる環境が整ってきています。
都市の近郊地域では今、豊かな農地が十分活用されずに放置されてしまうという問題が起こっています。そのような農地を「働きやすく、しっかり収入を得られる職場」として活用できれば、人口流出というもう一つの大きな課題に関しても、解決の糸口が見えてくるはずです。

MFWFでは新卒採用を実施しているそうですが、求職者の反応はどうですか?

石井:たくさんの応募があり、MFWFの提案する新しい農業のあり方に期待を持ってくださっていると感じています。
一般的に農業分野の就職先として人気が高いのは、有機野菜やブランド果実など、付加価値の高さがわかりやすいジャンルなのですが、MFWFで取り組んでいるのは特に華やかとはいえないキャベツで、しかもハウス栽培と比べて生産環境が厳しいとされる露地栽培です。
それでもMFWFに多くの応募をいただいているのは、組織としての魅力が大きいからではないかと思います。ワークライフバランスを取りながら安定した収入を確保できる環境に加えて、スマート農業に積極的に取り組む姿勢や、生産から加工まで一貫して対応するという事業形態も、求職者の方々から評価されているようです。

MFWFの拠点は茨城にありますが、石井さんは栃木県宇都宮市に住み、東京都心のオフィスに出勤することもあるとのこと。オフィスで働きながらの就農を実際に経験してみた感想はいかがですか?

石井:東京から宇都宮に引っ越してきて、近郊エリアの魅力に気付きました。景色が広大で、毎日の生活で「気持ちがいいな」と感じる回数が増えたのです。一方で便利な施設はきちんと揃っており、暮らしの中で困ることはまずありません。新幹線の駅があるので、都心へのアクセスもスムーズです。
2つの拠点で2つの仕事を持つことのメリットも大きいと感じています。複数の居場所を行き来することは気分転換になりますし、「身体も頭も動かす」ことによる相乗効果が生まれているとも思います。
MFWFでも今後、私のような働き方を提案していく予定です。最近はリモートワークの普及により、都心での活動と農業を両立しやすくなりました。こうした新しい就農のかたちと魅力を多くの人に伝えていきたいです。

農業を通じて都心と近郊地域との交流が生まれると、近郊の街も新しい様相を見せそうですね。不動産会社として、街づくりに関する取り組みも始まっているのでしょうか。

石井:現在重点的に検討しているのは、交通網の活用です。例えば、宇都宮市では、圃場のあるエリアにLRT(ライトレールトランジット)が通る予定があり、都心との行き来が便利になることによって、人やサービスの交流がさらに促進することも期待されます。
将来的には、既存の道の駅や観光農園など、農業という文脈のなかで魅力的な施設やコンテンツとの連携ができれば、更に農業型街づくりの可能性が拡がっていくのではないでしょうか。
これまで都心を主なフィールドとしてきた三井不動産にとって、「農地を農地として活用し、それを通じて近郊の街づくりにも取り組む」というのは新しい試みです。持続可能な街づくりのためには収益を生み出す必要もありますが、都心とは異なる環境でどのような収益化が理想的なのか、根本的な方向性から検討しているところです。

最後に、今後の目標を教えてください。

石井:組織としての目標は、事業を軌道に乗せることです。昨年稼働が始まった冷蔵加工工場に続き、来年度末には冷凍加工工場が竣工予定で、新たな体制づくりのフェーズに入っていると感じています。圃場面積の拡大も見据えて事業全体のマネジメントのあり方も改善したいです。スマート農業をさらに推進するため 、テクノロジー活用に力を入れたり 、31VENTURESでつながったITスタートアップの力を借りたりできると理想的ですね。
そして私個人は、街づくりを通して近郊地域の魅力を発掘し、MFWFが提案している新しい農業のかたちとあわせて、より多くの方に伝えることを目指しています。
地域に愛着を感じている地元の方が「ここに残りたい」と、いったん都市に出た地元出身者が「戻ってきたい」と、そしてこれまで縁のなかった都心の人が「ほかのどこでもなく、ここに住みたい」と思える街とは、どのような街なのか。それを見出すことを楽しみながら、都市近郊エリアの課題解決に貢献していきたいと思います。

「しぜんと、生きる。」GREENCOLLAR
二拠点生産で新たな農業を提案

2019年に設立された三井不動産発の社内ベンチャー企業「株式会社GREENCOLLAR」は、日本と季節が逆のニュージーランドの両国で日本品種の高品質な生食用ぶどうを生産し、世界中へ販売する事業を行っています。日本とニュージーランドでの二拠点生産を通して、通年雇用、早期の技術習得を実現させるとともに、年2回「旬のぶどう」を提供しています。
一方、日本の農業は高齢化、耕作放棄地の増加など、多くの課題を抱えております。GREENCOLLARでは二拠点生産、ICT活用、大規模化など新しい農業のかたちを実現するとともに、生産現場へのボランティアの受け入れなどを通じ、都市と近郊、消費者と生産者の距離を近づけ、農業をより身近に感じてもらう取り組みも行っております。
GREENCOLLARは「しぜんと、生きる。」をヴィジョンに掲げ、大自然のなかで身体と頭と感性を使い、仕事も余暇も充実させる生活スタイルを追求することで、人も地球もサステナブルな生き方を実現していきます。

通年生産と通年雇用

極旬バイオレットキング

ぶどうの生産は繁忙期と閑散期の労働時間差が大きいため、これまでは従業員を通年雇用することが困難でした。GREENCOLLARでは季節が逆のニュージーランドで生産を行うことで、通年雇用を実現しています。年2回の生産活動により、1人あたりの生産性が倍になるとともに、技術の習得スピードも格段に速くなることで、生産性向上と高付加価値化を実現いたします。

ぶどうの生産スケジュール

生産現場と消費者の架け橋へ

従来、生産現場と消費者の間には明確な線引きがあり、消費者にとって生産現場は遠い存在でした。GREENCOLLARではD2C販売、ボランティアの受け入れなどを通じ、消費者を生産現場に近づける取り組みを行っています。この取り組みを加速することで、「都市」と「郊外」をクロスオーバーさせ、多様な価値観に対応する生活スタイルを生み出します。

世界でのアイデンティティ奪還

近年、日本の品種が海外へ無断で持ち出されたことなどにより、海外における高級ぶどうの主要プレーヤーが日本から他国へシフトしつつあります。
GREENCOLLARは自社ブランドである日本品種のクラフトぶどう「極旬」を年に2回、世界へ向けて販売することで「Japan Quality」の再認知を図っています。また、新品種開発にも着手し、さらなる国際競争力の強化を目指しております。

「農業をあこがれの職業に。農業が抱える様々な課題 をGREENCOLLARが解決していく。」

株式会社GREENCOLLAR
代表取締役:鏑木裕介(写真左)、大場修(写真中)、小泉慎(写真右)

GREENCOLLAR代表取締役 鏑木 裕介

GREENCOLLARの発想の原点とは

鏑木:2014年からNZでぶどう生産を行っている葡萄専心社 樋口社長と出会い、日本とNZを往来しながら、大自然に囲まれた環境で、魅力的なぶどうを生産するライフスタイルに魅力を感じました。
また、日本品種のぶどうは魅力がある一方、繁閑差が大きいため通年雇用が難しく、投資額が大きく回収が遅いという構造的な課題があり、この点に事業としての伸びしろ、可能性を感じた部分もあります。

GREENCOLLARはどんな社会課題を解決するのか

鏑木:二拠点生産やICT活用による大規模で効率的な生産体制と、国内外への販路開拓などを通じたブランド化によって収益性を向上、さらに労働条件を改善させることで、農業をあこがれの職業にして、日本の農業の発展に貢献していきたいです。
また、日本品種の海外流出や、海外での大量供給により、日本の国際競争力は相対的に低下しています。さらに農業におけるイノベーションの源泉である、品種開発力の低下も懸念されております。
GREENCOLLARは世界で「日本品種」と「日本品質」を前面に打ち出したブランディングと、ライセンスビジネスを視野に入れた品種開発を進めることで、海外における日本の農作物の地位を向上させ、日本品種のアイデンティティを奪還する取り組みも行っています。

三井不動産がなぜ、ぶどうの生産販売に取り組んでいるのか、三井不動産らしさがどのような点に表れているのか

鏑木:デベロッパーの本質である土地の価値最大化という意味では、実は不動産会社らしい事業だと考えています。ぶどう生産は初期投資が大きく、投資回収までリードタイムが比較的長く、その後は長期間の安定収益が得られるといった特徴があり、不動産ビジネスに似ているところがあります。
三井不動産は、「経年優化」という思想の元、長期的なスパンで街のあり方、そこに住まわれる人々の暮らし、さらには環境問題への配慮を考えて街づくりを行っています。GREENCOLLARでも短期的な利益だけではなく、地方や農業のあり方、農業に従事する人々の生活を長期的に考えて事業を行っています。
また、三井不動産の街づくりの知見を活かし、山梨にある大自然に囲まれた農場を、地方と都市の相互交流を行う場として捉え、都市に住まわれている方を積極的に地方へ呼び込む取り組みも行っています。農業のある暮らしを体験していただき、地方と農業をより身近に感じていただくことで、農業そのもののイメージも変えていけると考えています。

新規事業を生み出す社内プログラム

三井不動産は、新規事業を事業横断で生み出すために社内に複数のプログラムを有しています。MFWFやGREENCOLLARもこれらのプログラムを活用して生まれました。

伴走支援をするプログラム「BASE Q」

経営ビジョン策定に始まり、ビジネスモデルの検証、具体的な事業計画の策定を支援します。MFWFでは三井不動産グループとのシナジーの構想から伴走し、事業検討開始から約6ヶ月というスピードで、農業事業への参入の決定に至りました。

事業提案制度「MAG!C」

GREENCOLLARは、三井不動産社内ベンチャーの第1号で、2018年に開始した事業提案制度「MAG!C」から生まれました。毎年、年に一度、事業案を募集し、その中から審査や事業化研修などのサポートを経て事業化を推進するプログラムで、発案者が事業責任者としてビジネスを立ち上げるもの。MAG!Cは2021年までに累計で269件応募があり、14件が事業検討に着手、うち2件が事業化しています。

スーパーマーケットの廃棄野菜を、生きものミュージアムの動物の餌に

三井不動産グループが運営するEXPOCITY(大阪・吹田市)では、施設内の廃棄食材をユニークな形で活用しています。スーパーマーケット「デイリーカナートイズミヤ」のミニトマトやニンジン、大根、キャベツ、ブロッコリー、小松菜などの野菜や果物を、同じEXPOCITY内の生きているミュージアム「NIFREL(ニフレル)」の動物たちに定期的に届けています。
野菜や果物はいずれも売り場に並べる前の加工・包装のプロセスで取り除かれた部分や、入荷後の点検で商品としてそぐわないと判断されたものが主で、売場に並べたのち棚から外したものもあります。この取り組みは、「NIFREL」から隣接する「デイリーカナートイズミヤ」で出る廃棄食材を生きものの餌に活用できないかとの相談を受け、EXPOCITY職員がお引き合わせしスタートいたしました。複合商業施設を運営する当社ならではのフードロス削減の取り組みです。

三井不動産グループのSDGsへの貢献について

三井不動産グループは、「共生・共存」「多様な価値観の連繋」「持続可能な社会の実現」の理念のもと、人と地球がともに豊かになる社会を目指し、環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)を意識した事業推進、すなわちESG経営を推進しております。さらに「重点的に取り組む6つの目標」に取り組むことで「Society 5.0」の実現や、「SDGs」の達成に大きく貢献できるものと考えています。

重点的に取り組む6つの目標

  1. 街づくりを通した超スマート社会の実現
  2. 多様な人材が活躍できる社会の実現
  3. 健やか・安全・安心なくらしの実現
  4. オープンイノベーションによる新産業の創造
  5. 環境負荷の低減とエネルギーの創出
  6. コンプライアンス・ガバナンスの継続的な向上

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