SUSTAINABILITY / ESG

Vol.16

2024.01.11

サプライチェーン全体で取り組む
カーボンニュートラルな街づくり

三井不動産グループでは、ロゴマークの「&」に象徴される「共生・共存」「多様な価値観の連繋」「持続可能な社会の実現」の理念のもと、グループビジョンに「&EARTH」を掲げています。街づくりを通して、人と地球がともに豊かになる社会に向けた取り組みをお届けしてまいります。

三井不動産が推進する「街づくり」のサプライチェーンには、たくさんの企業やお客様がいらっしゃいます。このサプライチェーンの方々とともに、不動産業界および日本の産業全体のカーボンニュートラル実現を目指す三井不動産グループの取り組みを、プロジェクトに携わる人々へのインタビューも交えながらご紹介します。

サプライチェーン全体で目指すカーボンニュートラル

持続可能な地球環境の保全という世界共通の目標のもとで、CO2などの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の実現が各国産業界の重要課題となっています。

世界的企業の取り組みを見ると、温室効果ガスの自社による直接排出(SCOPE1)や自社での電気等の使用に伴う間接排出(SCOPE2)のみならず、建設会社やテナントを含む取引先など他者の排出(SCOPE3)を含めた排出量を開示し、供給網(サプライチェーン)全体での排出削減を目指すことがグローバルスタンダードになりつつあります。

三井不動産グループは「街づくりのプラットフォーマー」として、自社からの排出量削減だけでなく、川上・川下に働きかけ、サプライチェーン全体でカーボンニュートラルを実現することが使命だと考えています。

図:2022年度のCO2排出量

「2050年までにグループ全体の温室効果ガス排出量をネットゼロにする」というグループ目標達成のためにも、排出量全体の約90%を占める「SCOPE3」の排出削減が必須です。サプライチェーン全体を巻き込む排出削減や、新たな排出削減手法への挑戦を通して、不動産業界および日本全体のカーボンニュートラルを目指します。

2050年ネットゼロ達成に向けた3つの取り組み

(1) GHG排出量算出マニュアルを策定し、排出量算出の義務化へ

三井不動産グループではサプライチェーン内のあらゆる企業に働きかけ、GHG(温室効果ガス)排出量の「見える化」に取り組んでいます。

2022年には、排出量に占める割合が特に多い「建設時の排出」に着目し、「建設時GHG排出量算出マニュアル」を日建設計とともに新たに策定。さらに有識者や関係省庁も交えた検討を経て、2023年6月に不動産協会のマニュアルとして公表されました。

このマニュアルは従来の算定式と違い、工種や資材別に排出量を算出できるのが大きな特長です。高精度な排出量算定によって削減ポテンシャルが細かく把握でき、各企業で数値にもとづく着実な削減努力が可能になりました。

業界全体で排出削減を達成するには、算定基準等の共通ルールの普及が必要です。まずは三井不動産のサプライチェーンの企業に対し、2023年10月以降着工する全物件にマニュアルを活用した算出を義務化しました。業界初のこうした取り組みを今後業界全体に広めるべく、推進を続けてまいります。

(2)脱炭素時代を切り拓く新しい建築物のあり方を提案
~国内最大・最高層の木造賃貸オフィスビル着工~

外観 完成予想パース

国内のCO2排出量においては製造業が大きな割合を占めており、特に、鉄鋼、化学、窯業、セメント業界の排出が目立っています。

この状況のもと三井不動産グループでは、脱炭素社会の旗印となるような新しい建築物を提案しています。その一つが、炭素固定効果のある「木材」を活用したビルの建設です。

現在日本橋では、国内初適用となる木造・耐火技術を多数導入し、三井不動産グループが北海道に所有する約5,000haの保有林を含む1,100 ㎥ 超の国産木材を構造材に使用した、国内最大・最高層の木造賃貸オフィスビル計画が進行中です。同じ規模の一般的な鉄骨造オフィスビルと比較して、躯体部分において建築時のCO2排出量を約30%(※)削減することが見込まれています。このような革新的な建築物の設計・建築も、カーボンニュートラル実現を目指す取り組みのひとつです。そして、三井不動産グループが保有する森林の木材を積極的に使用することで、「植える・育てる・使う」という「終わらない森」創りのサイクルを実践し、森林資源と地域経済の持続可能な好循環にもつなげています。

また、「日本橋に森をつくる」というコンセプトのもと、木造オフィスビルならではの新たな価値創造に挑戦しています。木ならではのやすらぎとぬくもりを五感で感じられる空間を創出し、生産性の向上等、木造オフィスビルだからこそ実現できる「行きたくなるオフィス」の実現や、 緑豊かな歩行空間の整備や生物多様性の保全に貢献する環境づくりを通じ、オフィスワーカーや来館者、周辺住民の方が都心のなかでも憩える新たな緑の拠点を創出いたします。さらに、各種環境認証の取得を目指すほか、次世代の環境配慮型オフィスビルとして、フィルム型ペロブスカイト太陽電池の実証実験や竹中工務店の建築廃材のアップサイクル等の先進的な取り組みも実施予定です。

本物件の詳細については、下記ニュースリリースをご参照ください。
https://www.mitsuifudosan.co.jp/corporate/news/2024/0111_01/

※林野庁「建築物に利用した木材に係る炭素貯蔵量の表示に関するガイドライン」に基づく木材利用にともなう二酸化炭素固定量、および林野庁「森林による二酸化炭素吸収量の算出方法について」に基づく製造に要した木の伐採後植林した木が吸収するCO2量を含む。

(3)入居テナントや生活者の行動変容を促す働きかけ

物件入居者・購入者による温室効果ガス排出は、三井不動産グループ排出量の約20%を占めます。この領域の排出削減に向けて、入居テナントや生活者への働きかけにも取り組んでいます。

入居企業に対するグリーン電力提供サービスの提案、住宅購入者への電力グリーン化メニューの提案を通して、入居企業や購入者の脱炭素に向けた取り組みをサポートし、川下での温室効果ガス排出量削減を目指しています。

また分譲物件に暮らす生活者に向けて、業界初のスキーム「くらしのサス活」を展開。各住戸ごとにCO2排出量を「見える化」し、省エネ行動によるCO2削減量をポイント化してインセンティブと交換可能にし、楽しく省エネに取り組み続けられる環境を構築しました。
2022年以降に設計を開始した、首都圏における三井不動産レジデンシャル社分譲物件で標準導入(原則全物件導入)し、2024年より本格稼働いたします。

街に暮らす一人ひとりに脱炭素化に向けた「新しい暮らし」を提案し、社会全体でのカーボンニュートラル実現を目指してまいります。

PROJECT STORY
プロジェクトストーリー

脱炭素の「共通言語」をつくるマニュアル策定と普及の道のり

サステナビリティ推進部長 山本 有

三井不動産グループのカーボンニュートラル実現に向けた取り組みのうち、代表的なプロジェクトのひとつが「建設時GHG排出量算出マニュアル」の策定です。今回のマニュアル策定の背景や普及に向けた取り組みについて、プロジェクトを率いるサステナビリティ推進部長の山本 有に話を聞きました。

社内でこのプロジェクトが立ち上がった経緯を教えてください。

サステナビリティ推進部長 山本 有(以下、山本):カーボンニュートラルに向けた国際的な動きとして、自社で排出するSCOPE1やSCOPE2だけでなく、他者排出分であるSCOPE3を含め、サプライチェーン全体の排出量を把握しようという流れがあります。

三井不動産グループでは、2019年度のCO2排出量438万tのうち約9割がSCOPE3にあたり、さらにその半分以上が建物をつくるプロセスで排出されています。だからなんとしても、建物をつくるときの排出量を減らさないといけません。

そんな中で2021年の11月に、会社としての脱炭素行動計画が定められました。「建設時GHG排出量算出マニュアル」の作成プロジェクトも、この行動計画の検討と並行する形で進められてきました。排出量を「見える化」するツールを作り、それをもとにサプライチェーンに働きかけて、温室効果ガスの排出を減らしていこうということになったのです。

現在は、どのようにCO2排出量を算出していますか?

山本:国際的に認められている排出量算出の手順に、「GHGプロトコル」があり、SBT※もこれに準拠しています。日本では環境省と経産省がGHGプロトコルに則ったガイドラインを出しています。

しかしこのガイドラインに則って算出をすると、「工事金額×一定の係数」ということになり、現場の実態に即していない部分がありました。例えば、「同じ建物でも工事金額が変わるとCO2排出量も変わってしまう」「どの工種の排出量が多いのかわからない」「せっかく低炭素素材を使っても、その成果が数字に反映されない」などの問題があったのです。

つまり、ガイドラインに基づいた算出手順でCO2排出量の少ない建物を作ろうとすると、工事金額を安く抑えるしか方法がない。また、どこをどう減らせば良いのかがよくわからない。そういう状態では、現実的にCO2の排出を減らすことにはつながりませんよね。

今回公表されたマニュアルが、従来と違う部分はどこですか?

山本:まず大きく違うのは計算方法です。従来の「工事金額×係数」というざっくりしたものでなく、見積書をベースに工事で使った部材や資材をもとに算出できるものになっています。

ベースになっているのは、日本建築学会さんの「建物のLCA指針」です。このLCA指針は学術的で、専門知識のある研究者が研究に使用するものですが、選択肢がとても多かったり、読む人によって解釈に違いが出たりと、実務者にとっては難解な側面がありました。

そこで今回のマニュアルでは、建設会社や設計会社の実務者にもわかりやすいように「こういう読み方をしてくださいね」と解説しています。また恣意的な解釈がなされないよう、同じ建物なら誰が計算しても同じ排出量が算出できるように工夫しました。

身近な例でたとえるなら、世界中のカレーライスの作り方やその歴史をまとめた大著をもとに、「日本式カレーの作り方はこうです」と簡潔に手順をまとめ、家庭で料理をする人が迷わないようにしたようなものですね。

今回のマニュアルは最初に三井不動産で策定された後、不動産協会での再検討を経て、協会名で公表されています。その経緯をお聞かせください。

山本:不動産デベロッパーは、実はみな同じ課題を抱えています。やはり既存のガイドラインに基づく排出量算出手順には問題があると、皆さんわかっています。そこで、ほかの会社さんにも呼びかけて、より使いやすいものを作ろうということになりました。

まず不動産協会さんに相談に伺ったら、ぜひやりましょうと言っていただきました。また、行政機関にも相談すると、良いお返事をいただき、そのように芋づる式に、どんどん仲間が増えていきました。
数多くの関係者で座組をつくって検討したので、三井不動産が「こうあるべき」という理想を押し付けるものではなく、スタートとしては皆が合意できる、最大公約数のようなマニュアルになっています。

現実的な部分でも、不動産協会で検討したことのメリットが生じます。例えば財務会計の数字を外に出すときは、監査法人にお墨付きをもらいますが、それと同じようにCO2排出量も、公表にあたり監査法人のチェックが必要です。そのとき自社製のマニュアルで算出した数字だと、なかなかOKが出ません。自社に都合の良いように設計されているかもしれませんからね。一方、「不動産協会」という業界団体で、有識者も交えて作った客観的なマニュアルにもとづいていれば、納得してもらいやすい。

そのようなわけで、「皆で一緒に作ったマニュアルだ」ということが、普及のためにとても重要だと思っています。これを共通言語として、今後改訂を重ねて脱炭素に取り組んでいけたら理想的だと考えています。

現在の普及状況はいかがですか?

山本:三井不動産では、2023年10月1日以降着工する物件については全て、このマニュアルを利用してCO2算出を義務化しています。

不動産協会としてはこのマニュアルを「選択肢の一つ」ということにされていますが、実は他社さんでも少しずつ、義務化の動きが出始めています。別の大手デベロッパーさんから、今回のマニュアルで計算するというルールを見積もり要綱に取り入れる方針だと伺ったときはとても嬉しかったですね。

また、世の中の関心はとても強いと感じています。各ゼネコン・設計会社だけでなく他業界の方からも、いろいろな方がヒアリングしたいとお声掛けしてくださいます。

運用や普及にあたって苦労することはありますか?

山本:会社と会社の取引の話になると、やはり大変なこともありますよ。例えば、ゼネコンさんが社内で使われている見積もりシステムと今回策定したマニュアルとの連携がしづらいケースもあります。そういったところで、ご負担をおかけしている部分もあると思います。

でも先日、あるゼネコンさんが、社内の見積もり算出をこのマニュアル向けに変換するシステムを作り始められたと聞きました。少しずつですが、業界の中にムーブメントが起き始めています。

そういう流れを見ると、やはり三井不動産が旗振り役を務める意味があると感じます。サプライチェーンの真ん中に位置するデベロッパーが音頭を取ることで、ゼネコン、建材メーカー、素材メーカーと、どんどん周囲へと波及していくと思います。

逆に、僕らがそれをやらないと「脱炭素なんて無理だからやらなくていいよね」みたいな空気感が醸成されてしまうおそれもあります。そういった意味で、今回のマニュアルづくりは小さいけれど大切な一歩だと思っています。

今後に向けての課題はありますか?

山本:現在のマニュアルでまだ拾えていない工事項目を増やしていくことが大きな課題です。特に、マンション向けの項目を充実させて、今年度末には改良版として2023年度版を発表できる見込みです。

あとは使える原単位ももっと増やして、使いやすいマニュアルにしていきたいですね。
まだ本当にスタートラインについたばかりだと思っているので、今後も不動産協会を主体とした枠組みで、改良を重ねていきたいと思います。

マニュアルに限らず、脱炭素の取り組み全体について考えておられることがあればお聞かせください。

山本:三井不動産グループでは、テナントさん向けにグリーン電力提供サービスを実施しています。そういったテナントさん向けの取り組みにはとても意味があると思います。今ご契約いただいているのは比較的規模が大きい会社さんが多いですが、少しずつ裾野が広がっていけば、世の中全体での脱炭素に向けたムーブメントにつながるのではないでしょうか。

住宅においても、グリーン電力提供サービスが始まっていますので、一般消費者の方の意識や行動の変化にも期待したいですね。

最後に、今後の展望をお聞かせください。

山本:今回のマニュアルについて「三井不動産のルールを業界のスタンダードにしようとしている」と思われるかもしれませんが、実際は全く逆で、「不動産協会で最大公約数的なマニュアルを策定できたこと」が大きな成功でした。

そして、行政と連携できたことも大きかったと思っています。検討会のオブザーバーとして、国交省・環境省・経産省の方々に入っていただきましたが、彼らに応援、後押ししていただきました。

実は今、「ゼロカーボンビル推進会議」という国交省の補助事業に委員として参加していますが、実はこの会議でもスタンダードモデルとして不動産協会のマニュアルを検討する動きがあるんです。

近い将来、国でつくる枠組みの中で今回のマニュアルが活用される日が来るかもしれません。これからも未来の地球環境のために、プラットフォーマーの一員として、貢献を続けていきたいと思います。

※SBT(Science Based Targets):2015年のCOP21で採択されたパリ協定が求める⽔準と整合した、企業が設定する温室効果ガス排出削減⽬標のこと。

COLUMN プロジェクトメンバーからの声

三井不動産エンジニアリング株式会社 取締役建設技術本部長 中村 仁からのコメント

まだ運用を開始したばかりで具体例は多くありませんが、期待以上に設計会社や施工会社がしっかりとした算定をしてくれるケースも増えており、高い興味を持っていることが感じられます。施工者側から積極的に建設時CO2削減の提案があるなど、設計や施工技術に新たな視点が入り始めたと感じられます。
さらに、メーカーだけではなく、鉄鋼など材料系の企業や、鉄道・通信などの企業からも問い合わせがあり影響の大きさを実感しています。

住宅用ペロブスカイト太陽電池に関する共同研究

三井不動産では、脱炭素化を加速させるオープンイノベーションや産学連携の促進にも積極的に取り組んでいます。その一例が、住宅用ペロブスカイト太陽電池に関する京都大学発のスタートアップでペロブスカイト太陽電池の開発を手掛けるエネコートテクノロジーズとの共同研究です。本研究は、京都大学若宮 淳志教授の研究室とも連携し、産学連携でペロブスカイト太陽電池の実用化を加速するものです。

ペロブスカイト太陽電池は、高い発電効率と薄く軽量で曲がる特性、製造工程の少なさを特徴とする電池です。従来のシリコン型太陽電池より製造エネルギーが少なく、コスト削減効果も期待されています。

今回の共同研究では、ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けて三井不動産レジデンシャルのマンションで実証実験を行い、安全性や効率性を検証します。マンションの共用部分やインテリアにペロブスカイト太陽電池を設置し、日中の太陽光を蓄電して夜間利用などに役立てる計画です。

ペロブスカイト太陽電池の特性を活かし、再生可能エネルギーの活用はもちろん、意匠性・利便性の高い活用方法の開発を通して、潤いのあるすまいと暮らしに貢献してまいります。

三井不動産グループのSDGsへの貢献について

三井不動産グループは、「共生・共存」「多様な価値観の連繋」「持続可能な社会の実現」の理念のもと、人と地球がともに豊かになる社会を目指し、環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)を意識した事業推進、すなわちESG経営を推進しております。さらに「重点的に取り組む6つの目標」に取り組むことで「Society 5.0」の実現や、「SDGs」の達成に大きく貢献できるものと考えています。

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重点的に取り組む6つの目標

  1. 街づくりを通した超スマート社会の実現
  2. 多様な人材が活躍できる社会の実現
  3. 健やか・安全・安心なくらしの実現
  4. オープンイノベーションによる新産業の創造
  5. 環境負荷の低減とエネルギーの創出
  6. コンプライアンス・ガバナンスの継続的な向上