三井不動産のホテル・リゾート事業では、新ステートメント「Hospitality and Beyond 〜ときめきも、超えていく」のもと、ゲストだけでなくスタッフも誇りと喜びを感じられる職場づくりを推進しています。中でも近年は、スタッフの働く環境の整備を通じてスタッフのモチベーション・サービスレベルを向上し、お客様の体験価値を高める取り組みに挑戦中です。では、具体的にどのような取り組みを進めているのか。「三井ガーデンホテル京都河原町浄教寺」と沖縄・小浜島の「はいむるぶし」の事例をインタビュー形式でご紹介します。
三井不動産グループは、「滞在価値の最大化」を目指し、国内外で多様な宿泊施設を展開しています。宿泊主体型ホテルからラグジュアリーホテル、自然や地域資源を生かしたリゾートホテルまで幅広いラインアップを揃え、お客様の多様な滞在ニーズにお応えしています。2025年時点では、グループ全体で53ホテル・約13,400室を展開し、ホスピタリティ市場において確かな存在感を築いています。
宿泊主体型ホテルでは、全国主要都市・台湾に40施設を展開する三井ガーデンホテルズ、上質感を備えたザ セレスティンホテルズ、ライフスタイルホテルであるsequence(シークエンス)の3ブランドを展開しています。
ラグジュアリーホテルでは、ハレクラニ沖縄、HOTEL THE MITSUI KYOTO が、2022年より5年連続で「フォーブストラベルガイド5つ星」を獲得しています。また、2025年10月発表の「ミシュランキー」では三井不動産グループ運営の6ホテルが選出されており、グローバル基準で高い評価をいただいています。
今期は仙台・札幌の三井ガーデンホテル2物件と、はいむるぶしのリニューアルを実施し、今後の展開としては三井ガーデンホテル岡山でもリニューアルを予定しています。また、HOTEL THE MITSUI HAKONEの開発計画や、NEMU RESORTのリニューアルなども推進、さらなるブランド価値向上と事業拡大に向けたプロジェクトが進行しています。
2023年、三井不動産のホテル・リゾート本部は事業コンセプトを刷新。新たなステートメントとして「Hospitality and Beyond 〜ときめきも、超えていく」を制定しました。

新ステートメント制定の背景にあるのが、コロナ禍を経て実感した変革の必要性です。2020年に三井不動産は大手不動産会社として初めて運営客室数1万室を達成しました。しかし、直後のコロナ禍で苦境を経験し「提供価値の重心を、量(客室数)から質(滞在価値)に転換する必要がある」と、これまでの自社の常識を“超える”必要性を痛感。
そこでこれまでの枠を超えたホスピタリティを提供するために、働くスタッフの処遇改善を見直し、働く環境の整備に着手。ホテリエの処遇改善がホスピタリティの向上につながり、ホテルのブランド力が強化される。それにより顧客が増えて売上が上がり、さらにホテリエの処遇を改善できるようになり……という、お客様もホテリエもホテルに関わる全員が“ときめく”好循環を目指すことに。
新ステートメントにはこうした三井不動産の挑戦的な思いが込められているのです。
“ときめく好循環”はすでにさまざまな場面で結果として表れています。
中でも、三井不動産グループ6ホテルが2024年より2年連続でミシュランキーを獲得したことは、ホテル・リゾート本部としても意義のある成果として捉えています。
なお、今回のステートメントはトップダウンで決まったものではありません。本部員約100名へのアンケートをもとに、現場の声から作り上げられました。“ときめき”というキーワードも、アンケートから吸い上げられた言葉のひとつです。スタッフ一人ひとりが自分ごととして捉え、誇りを持って体現できる言葉であること。それが「Hospitality and Beyond」の原点なのです。
政本:三井不動産グループのホテル・リゾート事業は、三井不動産が企画・開発を、グループ会社が運営を担う体制で展開しています。宿泊主体型ホテルは株式会社三井不動産ホテルマネジメントが、リゾート・ラグジュアリーホテルは、三井不動産リゾートマネジメント株式会社をはじめ、伊勢志摩リゾート株式会社、株式会社はいむるぶし等が運営を担っています。
また、グループ全体で「CS(顧客満足度)向上はES(従業員満足度)向上から」という想いを共有し、一丸となり様々な取り組みを推進しています。
黒岩:三井不動産ホテルマネジメントにおいても、ES向上に資する独自の施策を数多く展開しています。最近の事例としては、当社が運営するホテルの施設改善に資するアンケート回答を行うことを条件に、従業員が特別価格で宿泊することができる「ハッピークーポン」という制度を新設しました。従業員には「ハッピークーポン」を用いてゲストとして自社ホテルを体験してもらい、自社ホテルへの誇りとプライベートの充実を図って欲しいと考えています。自社の他ホテルがどのような取り組みをしているか、どのようなホスピタリティを発揮しているかなどを知ることで、日々の業務への気づきにもつながり、より良いサービスの提供にも繋がっています。
政本:さきほどのお話にもあったとおり「CS(顧客満足度)向上はES(従業員満足度)向上から」という思いのもと、「BOH(Back of House=スタッフ専用エリアのこと、以下BOH)」の改修プロジェクトに取りかかりました。事務室と休憩室を大規模改修しました。三井ガーデンホテル京都河原町浄教寺では、客室一部屋をまるまる休憩室に転用しました。客室を減らすこと自体は短期的には売上増にはつながらず、それどころかむしろコストがかかることではあるのですが、長い目で見ればESとCS、両者の向上をもたらす施策であると判断しました。

政本:事務室については、ホテルの客室にあわせて木調を基準としつつ、京都ならではの特長やホテル内の装飾を親しみやすい形にリデザインし、格天井風の天井意匠を取り入れた空間に一新しました。預かり荷物の臨時保管スペースの拡張や短時間のミーティングに便利なハイカウンターを備えるなど、実務の効率性にも寄与するつくりになっています。
また休憩室については、柔らかな木目と淡い襖風のグラフィックを施し、程よい上質感の「和」を感じられる落ち着いた空間に仕上がりました。水回りを解体してミニキッチン機能が追加されたほか、靴を脱いでくつろげる小上がりが設けられました。
一番のポイントは、部屋の機能やデザインなどの改修内容が、現場のスタッフの声をもとに作り上げられていったことです。「靴を脱いでくつろぎたいかどうか」「照明はどのくらいの明るさがいいか」「和風な空間がいいか、それともモダンな部屋がいいか」など、現場で働くスタッフに何度もアンケートを取りながら決めていきました。

黒岩:当社の離職率は業界平均と比べるともともと低いのですが、近年はさらに低下しています。従業員から管理サイドに上がってくる声や意見も「ラグジュアリーホテルで経験を積みたい」「リゾートホテルのホスピタリティを学びたい」「海外のホテルで経験を積みたい」といった前向きなものが目立つようになりました。スタッフのモチベーションは確実に向上していると思います。そういった声に応えるかたちで三井不動産グループホテルのハレクラニ沖縄や当社が運営する台湾のMGH Mitsui Garden Hotel 台北忠孝への出向研修の機会を設けました。研修へ参加したスタッフは以前にも増して高いモチベーションを持ち、一人一人が自身の経験と強みを活かして新たな価値創造をしてくれています。
八馬:「はいむるぶし」は、1979年に沖縄県・小浜島で開業した老舗のアイランドリゾートホテルです。2024年11月から大規模リニューアルを実施し、2025年7月にプールやスパ、客室などを刷新しリニューアルオープンしました。改修に伴うクローズ期間中、「はいむるぶし」のスタッフ達には、三井不動産グループの各ホテルに研修という形で出向してもらいました。出向者は約半年間で50名以上に上ります。
八馬:まず、ホテルで働くことが好きなスタッフたちに「働く場を提供し続けたい」という思いがベースにあります。その上で、宿泊主体型ホテルやラグジュアリーホテルなど、「はいむるぶし」とは異なるカテゴリーのホテルでの実務を通して「ホテリエとしての視野・スキルをさらに磨いて欲しい」と考えました。他のホテルで経験を積むことで「他のホテルと比べてこれまでの『はいむるぶし』のホスピタリティはどうだったのか」という視点が生まれ、ポジティブな行動が増えてくるのではないかと思ったんですね。
八馬:ときにサービスマニュアルの枠を超えて「お客様が本当に求めていること」を汲み取った接客を実践できるようになったと思います。
例えば、ビュッフェスタイルのレストランに足腰が弱いお客様がいらした場合、マニュアルでは歩行補助カートをお貸しするところ、「何かお取りしましょうか?」と一言かけて、席までお料理をサーブするスタッフの姿も見られるようになりました。これは一例ですが、他のホテルでの実務経験を経て、マニュアルを超えて「お客様のために必要なことは何か」を考える習慣が自然と身についたのだと思います。

政本:BOH改修プロジェクトで休憩室が生まれ変わったことで、間違いなく働くスタッフのモチベーションは上がったと感じています。小上がりで思い思いにくつろいだり、窓のない事務所空間でも自動調光照明によってストレスが軽減することで、休憩の質・職場環境が大きく改善したことが大きいと思います。
八馬:「はいむるぶし」ではスタッフ同士のコミュニケーションが増え、部門間の連携が強化されたと感じています。例えば、宿泊部が現場でお客様の記念日を把握した際には、即座に料理部へ共有し、特別な一品を用意してもらうといった連携も自然と行われるようになりました。スタッフが部門間の連携を他のホテルで学んだことが生きていると思います。
黒岩:三井ガーデンホテル京都河原町浄教寺は、アンケート調査の結果、ESとCS両方のスコアが過去最高値まで上昇しました。ESが向上した理由は、先ほども触れた離職率の低下がその象徴ではないかと思います。CSの向上についても、「スタッフの対応が良かった」というお客様からの評価が増えていることが結果として表れているのだと実感しています。

政本:BOHはもはや単なる”裏方”ではありません。私たちはこれを「Best of Our House」と呼ぶようになりました。スタッフが誇りを持ち、家族や友人にも自慢できる“わが家”のような場所──そんな職場こそが、良いサービスの源だと考えています。何より大切なのは、トップダウンではなく、現場の声をしっかりと取り入れる”全員参加型”ということです。
今回のプロジェクトは、三井不動産ホテルマネジメント社が主体となり、三井不動産は設計・調整等の面でサポートするなどグループ一丸となって進捗しています。BOHへの投資は短期的な指標だけでは測れない“人財への投資”ですが、現場で働く人のエンゲージメント向上に寄与し、それがブランド力の強化に繋がっていくことで、長期的にはホテル事業の価値を更に高めていくものと確信しています。

今回は三井ガーデンホテル京都河原町浄教寺の事例を挙げましたが、今後3か年かけて全ホテルのBOHを改修する予定です。”改修完了=完成”にはせず出発点にしていくことで、引き続き現場がより良いBOHを目指して主体的に改善していく文化も醸成していきます。
最後になりますが、共に推進してくださっている三井不動産ホテルマネジメント社をはじめ、すべての関係者に改めて心から感謝します。また、このような有意義なプロジェクトのメンバーの一員となれたこと大変嬉しく思います。これからも一緒に、誇れる職場をつくっていきましょう。
三井不動産グループは、「共生・共存・共創により新たな価値を創出する、そのための挑戦を続ける」という「&マーク」の理念に基づき、「社会的価値の創出」と「経済的価値の創出」を車の両輪ととらえ、社会的価値を創出することが経済的価値の創出につながり、その経済的価値によって更に大きな社会的価値の創出を実現したいと考えています。