2024年3月期の業績は、営業収益は12期連続、営業利益、経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益(以下「純利益」)は2期連続で過去最高を更新いたしました。
そして、2024年4月11日に公表した当社の新たなグループ長期経営方針である「& INNOVATION 2030」において強化した新たな株主還元方針(総還元性向50%以上、配当性向35%程度)を2024年3月期決算から前倒しして適用することとし、年間配当84円/株へ上方修正(前年度比+22円/株)するとともに、自己株式取得400億円を行うこととしたため、当期純利益2,246億円に対する総還元性向は52.7%の予定となりました。
2025年3月期の業績は、固定資産・販売用不動産・投資有価証券をトータルで捉えた資産入れ替えの加速による利益の伸⾧や、好調なホテル・リゾートにおける、さらなる収益・利益の伸⾧を織り込み、営業収益、純利益は2024年3月期に引き続き過去最高を更新する見込みです。
また、「& INNOVATION 2030」においては、新たに「事業利益」という項目を新設いたしました。この指標は、従来の「営業利益」に「持分法投資損益」と「固定資産売却損益」までを加えた合計値で構成したものですが、いわゆる当社の本業によって創出した付加価値を直接的に表現する指標であり、販売用不動産だけでなく固定資産まで含めて、積極的に資産入替を行っていく経営の意思の表れとして設定いたしました。
「事業利益」の2025年3月期業績予想は、対前年度比238億円増の3,700億円を見込んでおります。
そして、純利益は対前年度比103億円増の2,350億円を見込んでおります。
「& INNOVATION 2030」においては、投資家をはじめとしたステークホルダーの皆様との双方向の対話を深化させるため、2030年度の「ありたい姿」に向け、マイルストーンとして2026年度の成長性・効率性・株主還元等に関する数値目標等を示させていただき、2026年度における利益目標としては、事業利益4,400億円以上、純利益2,700億円以上を掲げました。2024年度は、この利益目標達成に向け、想定どおりの順調なスタートと考えております。
EPS成長率についても、「& INNOVATION 2030」において2026年度における目標として+8%/年以上(CAGR)を設定いたしましたが、「& INNOVATION 2030」に記載のとおり、2024年3月期業績予想ベースの純利益2,200億円を起点とすると、2025年3月期業績予想の純利益2,350億円におけるEPS成長率は7%台前半(公表済みの400億円の自社株式取得考慮後)であり、2026年度のEPS成長率目標に対しても順調なスタートと考えております。
全社を挙げて、「& INNOVATION 2030」でお示しした事業戦略「三本の道」を通じた成長を実現させることにより、事業利益・純利益・EPS成長率といった利益目標の達成、そして効率性目標の達成に向けて取り組んでまいりますが、CFOとして、特にキャッシュアロケーション面・財務面でこの取り組みを支えてまいります。
※1 2023年度(予想)→2026年度(予想)
※2 2023年度実績:親会社株主に帰属する当期純利益 2,246億円/EPS 80.2円
※3 2024年4月公表済の自己株式取得予定額400億円分を控除した株式数をベースとして仮算出
「& INNOVATION 2030」においては、当社としてどのようにキャッシュ創出を行うのか、また、その創出したキャッシュの使途をどうするのか、財務運営についてどのように考えているのかなどをご理解いただき、また、投資家の皆様とのコミュニケーションを深めさせていただくため、今後3年間のキャッシュアロケーションをお示しいたしました。
今般お示ししたキャッシュアロケーションにおけるポイントとしては、次の3点と考えております。
まず1点目は、「今後3年間の基礎営業キャッシュ・フローの最大化」です。
当社はこれまで、販売用不動産の投資・回収規模が大きいため、いわゆる「営業活動によるキャッシュ・フロー」の毎期の増減が激しく見えてしまい、本業としてのキャッシュ・フローの安定・継続的な成長が外部からは見えにくい状況にありました。
そこで、今般「営業活動によるキャッシュ・フロー」から「販売用不動産の投資回収のキャッシュ増減」を除外し、固定資産や有価証券売却益といった「資産回収にかかる損益」などを加算したものを「基礎営業キャッシュ・フロー」として新たに設定いたしました。
今後3年間で、①新規物件の開発や既存物件のトップラインの伸長等による安定・継続的な賃貸利益の伸長、②賃貸利益と分譲利益の両輪での成長を意識しつつ、安定・継続的な資産回転を通じた「付加価値の顕在化」等の本業を通じたキャッシュ創出力の強化を通じて、約1兆円の基礎営業キャッシュ・フローを創出してまいります。
2点目は、「資産回転を通じた3年間で約2兆円の資産回収」の実行です。
分譲利益と賃貸利益の双方を向上させることができるよう配意しながら、販売用不動産だけでなく、固定資産や有価証券の売却も含むバランスシートコントロールを推進し、約2兆円の回収を行ってまいります。
これは過去3年間(2021年度〜2023年度)の回収額に比べて1.4倍に相当する規模となりますが、半分は国内住宅分譲を想定しており、既に契約済みの物件も数多く積み上がってきております。また、投資家向け分譲についても国内・海外を通じて多くの売却に適した資産があることから、しっかりと達成していけるものと考えております。
3点目は、「3年間のキャッシュイン合計約3兆円の資本の配分」です。
キャッシュアウトについては、基礎営業キャッシュ・フローと資産回収による合計3兆円のキャッシュをもとに、借り入れの増加を抑制しながら、成長投資・戦略的資金・株主還元への適正な配分を行ってまいります。
具体的には、コア事業への成長投資として約2兆円、また戦略的資金の枠を新設し将来の事業ウイング拡大にむけたM&A投資やバランスシートコントロールの資金として約6,000億円、そして今般強化した株主還元として約4,000億円へと振り向けてまいります。
不動産開発や街づくり型の事業は、長期間にわたりバランスシートを大きく活用することが特徴です。
しかしながら、当社のバランスシートは、近年の優良な事業機会の獲得や成長投資の順調な成果に加え、直近の為替変動による影響もあり、2023年度末の総資産額は約9.4兆円、有利子負債は約4.4兆円と、想定水準よりも膨らんだ状態と認識しております。
このため、「& INNOVATION 2030」では賃貸利益と分譲利益の両輪での成長を意識しつつ、資産回転を加速し、付加価値(評価益)を顕在化することなどを通じ、2026年度における総資産を9兆円程度、有利子負債を4.5兆円程度で維持するよう、中長期的にバランスシートコントロールを推進してまいります。
資産回転の加速につきましては、固定資産・販売用不動産について聖域なく売却していくだけでなく、投資有価証券もトータルで捉えて行ってまいります。
投資有価証券のうち、政策保有株式については、これまでも売却方針を掲げておりましたが「& INNOVATION 2030」におきましては、2024年度から2026年度において50%削減することを明示し、2026年度以降も引き続き積極的に縮減することといたしました。
また、純投資目的株式については、「これまでの売却実績に引き続き、今後の株価等を勘案しつつ、将来の成長投資などに振り向ける原資として、継続的・機動的に売却」することといたしました。時機を捉えた売却を推進してまいります。
これらの取り組みを推進することにより、当社ポートフォリオをより強靭化し、資産・負債を増加させることなく、利益成長を実現するとともに、効率性を向上させてまいります。
また、海外における金利の高止まり、今後、日本でも金利のある世界に移行していくことを考えると、当社の安定的な事業継続のためにも引き続き健全な財務基盤を維持・構築するとともに、純金利負担を抑制していくことが重要になっていると認識しております。
このため、当社においては、主要格付け機関におけるA格の維持を目指します。また、D/Eレシオは1.2〜1.5倍程度にコントロールするなど適正な財務レバレッジコントロールを推進し、財務の健全性維持に配意してまいります。
※ 2024年8月2日時点
また、2024年3月期における純金利負担については、世界的なインフレの進行に対する欧米における金融政策引き締めの長期化により、金利の高止まりの継続が予想されたことから、期初業績予想では純金利負担を800億円(2023年3月期の539億円に対して約260億円の負担増)と見込んでおりました。
これに対し、円とドルの金利差の活用や調達先、調達手法の厳選などにより、柔軟に金利削減策を講じて対応した結果、期初の業績予想における純金利負担800億円から約80億円改善させ、723億円で落着させることができました。
今後、米国において利下げが開始されると想定しておりますが、当面は高金利状態が継続すると見込んでおります。
また、円貨借入は、長期・固定が90%程度であるため、利上げによって大きな影響を受けるものではないと見込んでおりますが、国内においても、金利が徐々に上昇していくと想定しております。
このように、日本を含め各国の今後の金利動向は注視が必要と考えており、CFOとして、借入年限・方法などその状況に応じて柔軟に対応し、金利のコントロール・財務健全性の維持・向上に努めてまいります。
①まずは、各事業セグメントの利益の成長により、2026年度において事業利益を2023年度実績の3,461億円から4,400億円まで高めてまいります。各セグメントにおける増益は、それぞれ、以下の取り組みにより達成してまいります。
・賃貸: 新規物件の竣工による賃貸利益の増加や、既存物件の賃収増加による賃貸利益の増加
・分譲: 分譲利益と賃貸利益の双方の向上に配意した固定資産・販売用不動産の聖域なき売却
・マネジメント: AUM拡大等によるマネジメントフィーの増加。その際、大規模開発において、着手段階からの第三者資金(他人資本)の積極的な活用も検討し、当社シェア分の収益に加えて、ノンアセット収益であるマネジメントフィーを獲得することにより、事業の効率性を上げることを検討
・施設営業: ホテルリゾートのADRのさらなる向上、東京ドーム顧客数の増加など
②併せて、投資有価証券の売却も進めてまいります。
これらにより、純利益を2023年度実績の2,246億円から、2026年度には2,700億円以上まで増加させてまいります。
同時に、分母である自己資本については、総還元性向を従前の「45%程度」から「50%以上」に拡充したことなどにより、コントロールしてまいります。
また、株主資本コストについてはさまざまな議論があることは承知しておりますが、最も一般的な算出方法であるCAPMを前提とすると当社の株主資本コストは7%前後であると認識しております。
企業価値や株価の向上のためには、ROEと株主資本コストのエクイティスプレッドを拡大していく必要があると考えており、ROE向上の取り組みをしっかりと進めてまいります。
企業価値や株価の向上にあたっては、投資家の皆様からの当社への深い理解が不可欠と認識しております。
このため、投資家の皆様との対話はCFOとしての私の一番重要度の高い業務の一つと考えております。
昨年度CFOに就任してから、投資家の皆様との数多くのミーティングを重ね、直接、率直なご意見を伺い、また、当社としての考えをご説明するなど、双方向での対話を心掛けてまいりました。
対話の内容については積極的に社内にフィードバックし、経営での議論につなげ、「& INNOVATION 2030」にも反映させてまいりました。
目下、「& INNOVATION 2030」の内容を投資家の皆様にご理解いただくべく、私が先頭に立って説明を重ねておりますが、今後も、特に、当社の社会的価値、競争優位性や差別化戦略、ESG改善の取り組み、資産ポートフォリオの強靭さ、将来における業績の安定性・継続性などについての発信を強化してまいります。
そして、「& INNOVATION 2030」で掲げた「成長・効率・還元」を三位一体で捉えた経営を着実に推進し、数値目標達成に向けて、KPIとした各数値を向上させるとともに、IR対話を積極化していくことで、投資家の皆様をはじめとしたステークホルダーからの信頼感・安心感の獲得に努め、企業価値や株価の向上に貢献してまいります。