企業価値向上の使命を胸に、
グループ長期経営方針
「& INNOVATION 2030」で掲げた
「成長・効率・還元」の取り組みに
磨きをかけてまいります。
三井不動産株式会社
代表取締役社長
皆様とともに創り上げたグループ長期経営方針「& INNOVATION 2030」を策定して以来、初めての決算となった2024年度決算においては、売上高・営業利益・事業利益・経常利益・親会社株主に帰属する当期純利益のすべてにおいて過去最高を記録しました。併せて、効率性の面でも、前長期経営方針「VISION 2025」において2025年度前後の目標としていたROE8%も達成し、「& INNOVATION 2030」の初年度として順調なスタートを切るとともに、ターゲットイヤーである2026年度の目標達成に向けてゆるぎない安心感を抱いていただける内容だったと自負しています。
3年間にわたって苦しめられた新型コロナウイルス禍が終息して2年が経ちました。
人間の本性である五感を使ってのリアルの体験を欲していたなかで、コロナ禍の終息とともに、あらためてリアルでの体験の大切さ・素晴らしさを再認識されたことと思います。
このようななか、当社は、各アセット・サービスにおいて、リアルの場だからこそ感じられる付加価値を最大限活かせるような取り組みをさまざま行ってきましたが、これが過去最高益という結果として表れたということだと考えています。
オフィス
まずオフィスについていえば、コロナ禍を契機として、その位置付けが大きく変わりました。オフィスは「事務所」と訳されますが、オフィスはもはや事務作業を行う場ではなく、五感をフル活用したFace to Faceのリアルなコミュニケーションを通じ、付加価値を創出し、イノベーションを起こすための現場とみなされ、それゆえに経営者からもオフィスは、「コスト」ではなく「投資」と見なされるようになりました。事務作業は在宅勤務で行うことができるなかで、企業の付加価値向上のために、ワーカーの皆さんが自発的に「行きたくなるオフィス」が求められています。このようなオフィスは、ワーカーの皆さんが「行きたくなる街」にあることが欠かせません。当社は、特に日本橋エリアにおいては「日本橋再生計画」のもと、2004年の「COREDO日本橋」の開業を皮切りに、「日本橋三井タワー」や「COREDO室町1・2・3」等に代表される商業・オフィス・ホテル・住宅等が融合したミクストユースの物件の開発を行ってきました。そして、建物の開発にとどまらず、福徳神社を再興させ、裏路地の整備も行うなど、官民地元一体となり、平日・土日、昼夜を問わず多くの人で賑わうウェルビーイングな街に仕立ててきました。さらに、日本橋をライフサイエンス・宇宙ビジネスの「聖地」とすべく、新産業創造の拠点となるようなコミュニティ作りも行うことで、「行きたくなる街」づくりを行ってきました。
(統合報告書2025 P.37-39参照)
また、拠点型オフィスだけでなくワークスタイリングというフレキシブルなシェアオフィスを組み合わせたワークプレイスのご提案や、特にテナント企業様の経営課題である、『付加価値創造』『人的資本経営』『脱炭素』の取り組みに資するサービスのご提案など、ハード・ソフトを組み合わせた付加価値の提供も強化してきました。このような取り組みなどにより、当社のオフィスは、「行きたくなる街」にある「行きたくなるオフィス」として差別化を図ることができていると考えています。実際、当社単体の首都圏オフィス空室率は2024年度末時点で1.3%と、東京都心5区の平均空室率:3%台後半と比べても極めて低い水準となり、増益に貢献しました。
商業施設&スポーツ・エンターテインメント
商業施設&スポーツ・エンターテインメントについても同様に、コロナ禍の終息とともに、リアルでの体験価値の重要性が再認識されました。東京ドームでは、この春にはメジャー・リーグ・ベースボール(MLB)が開催され、会場で観戦されたお客様は、五感をフルに刺激され、感動に酔いしれたことと思います。当社は、2024年度から「商業施設」と「スポーツ・エンターテインメント」を一体の組織で運営するように組織を改めましたが、さっそく、そのシナジー効果が現れ始めています。
例えば、
・東京ドームでのイベントに合わせ、渋谷のMIYASHITA PARKでイベントグッズを販売したり、コンサートやスポーツイベントのチケットやグッズを当社のオンラインECサイトで販売するという取り組みを開始しています。売上の伸長はもちろんですが、数時間で約1万人の新規会員を獲得できました。この会員の多くは、Z世代が占めており、従前の取り組みのみではアプローチしづらかった顧客層へのアクセスが可能になりました。
・さらに、昨年、当社初のアリーナ事業である「LaLa arena TOKYO-BAY」を千葉県船橋市に開業しました。(統合報告書2025 P.101参照)
アリーナ単体としても、初年度は土日はほぼ100%稼働と高い稼働率でのスタートとなりましたが、開業以来、来訪者が、隣接の『ららぽーとTOKYO-BAY』など当社商業施設へ立ち寄り、お買い物・飲食をしてくださるという回遊効果も生まれ、イベントによってはららぽーとの来館者数が130%程度まで増加するケースも見られています。
このようなスポーツ・エンターテインメントとの相乗効果により、顧客の体験価値を最大化するという他社には見られない唯一無二の取り組みを進めてきた効果が顕在化してきており、2024年度の全国の既存施設売上は、2023年度比+5%の増加となりました。
国内分譲住宅
住宅についても、コロナ禍を経て、出社と在宅勤務を組み合わせたハイブリッドワークが定着したことで、勤務地へのアクセスが良く、共用部の充実した都心近郊住宅へのニーズが一層高まっています。当社グループは、都心の大規模再開発を中心とする物件の開発に強みを持ち、マーケットにおいて高いシェアを有しています。この高いシェアを活かして顧客ニーズを的確に把握し、それを商品企画に反映させることで、他社との差別化を図ることができていると考えています。2024年度は、都心立地・大規模再開発で、付加価値の高い物件に仕上げたパークタワー勝どきサウスや、三田ガーデンヒルズの引き渡しが進んだことにより、利益額・利益率ともに過去最高を更新しました。
パークタワー勝どきサウス
三田ガーデンヒルズ
ホテル・リゾート
ホテルについても、ビジネス利用からレジャーやリフレッシュ等、さまざまなシチュエーションで積極的にご利用いただけるスタイルへのリブランディングを進めてきました。また、洗濯機などの家電を配備するなど長期滞在されるインバウンド旅行者向け仕様の客室の開発などによる滞在価値の最大化の取り組みや、好立地・ハイクオリティの新規ホテルの開業や既存施設のリニューアル等のポートフォリオの強靭化なども進めてきました。昨年度の当社宿泊者に占めるインバウンド比率は、東京では8割を超え、京都でも約8割と、世界中から日本を目指すインバウンドの波をうまく取り込めており、80%以上の高稼働率を維持したまま、2年連続でのADRの過去最高の更新を達成することができました。(統合報告書2025 P.99参照)
この結果、「& INNOVATION 2030」における施設営業セグメントの2026年度の事業利益目標をはるかに上回る利益を、初年度にして計上することができました。
このように、コロナ禍の終息とともに、あらためてリアルでの体験の大切さ・素晴らしさが再認識されるなかで、時代の流れを先読みしたさまざまな取り組みが2024年度の過去最高益という結果につながったと考えています。そして、2025年度の業績予想においても、営業収益は14期連続、事業利益は2期連続、親会社株主に帰属する当期純利益は4期連続での過去最高の更新を見込んでおり、「& INNOVATION 2030」の定量目標達成に向けて確固たる自信を持って経営のかじ取りを進めています。
株価に対する認識
しかしながら、株価については、極めて好調な業績や我々の今後の成長性を踏まえると未だ上昇余地があると考えており、足元の水準には忸怩たる思いを抱えています。私は経営者として、当社グループを長期的な視点で支えてくださる株主の皆様からお預かりした「資本の効率的な活用」と、それを前提とした「持続的な成長」、および成長に伴う「株主還元の拡大」、すなわち「成長・効率・還元」を三位一体で捉え、これらを安定・継続的に維持向上させていくことを重要視していますが、引き続き、私の最大の使命の一つである企業価値向上・株主価値向上に向けてさらなる取り組みを行うことで、株価という形で当社のポテンシャルを顕在化させていきたいと考えています。
具体的には、「& INNOVATION 2030」で掲げた成長戦略である「三本の道」に沿った当社の付加価値創造力の深化と進化を続けることで、
・ROEの分子となる利益の継続・安定的な成長を達成するとともに、
・ROEの分母である自己資本についても、投資有価証券の売却の推進や総還元性向50%以上の還元を行っていくことなどを通じてコントロールしていくことにより、2026年度の8.5%以上、2030年前後の10%以上というROE目標達成に向け、ROEを継続的に改善してまいります(図A)。
また、金利上昇の局面にあっても、投資家の皆様がご認識される株主資本コストが上昇していかないよう、当社の成長力や利益成長への自信について理解を深めていただくとともに、リスクが過度に織り込まれないように情報開示・対話の充実を図ってまいります。
また、今回ガバナンスに関し、女性取締役の増員や役員報酬制度について改定を行いましたが、引き続き、ガバナンスの充実・改善などに取り組んでまいります。
これらの取り組みを通じて、ROEと株主資本コストとのエクイティスプレッドを拡大させることで、企業価値の向上につなげてまいります(図B)。
利益の継続・安定的な成長の取り組みについては、「& INNOVATION 2030」において「三本の道」としてお示ししたところですが、ここからは、足元の進捗状況についてご説明させていただきます。
(1)第1の道「コア事業のさらなる成長(深化と進化)」
❶ 市場からのデカップリング
まず、第1の道である「コア事業のさらなる成長(深化と進化)」の「市場からのデカップリング」につきましては、先ほどご説明したとおり、すでに取り組みの効果が現れてきていると感じていますが、さらなる取り組みも進捗しています。
オフィス事業
まずオフィスについては、これまで取り組んできた日本橋・八重洲エリアの街づくりの効果が、街全体のオフィスの募集賃料となって現れてきています。図Cは、三幸エステート株式会社が公表しているエリア別のオフィス募集賃料データですが、丸の内・大手町エリアのオフィスの募集賃料がほとんど変わっていないなかで、日本橋本町・室町、八重洲・京橋・日本橋のオフィス募集賃料が大幅に上昇していることがご覧いただけます。COREDO室町1が開業した2010年以降、当社の街づくりも寄与し、街の価値が向上し、界隈のオフィスビルの募集賃料の上昇がもたらされたと考えています。先日、策定・公表させていただきました当社グループの街づくりにおける環境との共生宣言である「& EARTH for Nature」において、再開発前後における緑化面積の比較も掲載させていただいておりますが、日本橋の開発物件6物件で、緑化面積が開発前に比べ4.4倍になりました。また、先ほど申し上げたように、神社再興の取り組みも行っていますが、このような自然も人も地域もより豊かになる街づくりを通じて、豊かな環境づくりを行ってきたという社会的価値向上の取り組みが経済的価値として現れてきている好例だと考えています。
(統合報告書2025 P.62-64参照)
※ 三幸エステート(株)データより作成。1フロア200坪以上の大規模ビルの共益費込募集賃料
そして、来年竣工予定の日本橋一丁目中地区の再開発プロジェクトのオフィス区画はすでにリーシングが完了し、満床とご案内させていただいておりますが、先ほどの八重洲・京橋・日本橋エリアの募集賃料をはるかに上回る東京駅周辺のトップ賃料でリーシングできており、まさにデカップリングの象徴とも考えています。日本橋一丁目中地区計画の再開発プロジェクトのオフィス区画は、さまざまな競合物件があるなかで、お客様からは、日本橋の街が変化・発展していく様子に自社の変化・発展をなぞらえて、街とともに変化・発展していきたいという想いで入居を決めた、というお声もいただいております。今後も、日本橋・八重洲エリアにおいては、2028年度竣工予定にもかかわらず、すでにオフィス区画のリーシングが一部決まり始めている八重洲二丁目中地区第一種市街地再開発事業のほか、数多くの再開発プロジェクトが進行しています。
再開発等を通じて豊かな環境づくりを進めてきたことにより、オフィスマーケットが丸の内・大手町一強の「富士山型」から、日本橋・八重洲地区などピークが連なる「八ヶ岳連峰型」に変わってきていると考えていますが、日本橋・八重洲地区をさらに「行きたくなる街」にすること、そして、ソフトとハードを組み合わせた「行きたくなるオフィス」を創り上げていくことにより、当社オフィスの付加価値をテナント企業様にご理解いただきながら、エリアトップの水準にある賃料をさらに高めるよう努力してまいります。
日本橋一丁目中地区
八重洲二丁目中地区
日本橋一丁目1・2番地区
商業施設事業
続いて商業施設についてですが、昨年10月に府中市朝日町における事業機会を獲得したほか、今年7月にはトヨタ自動車株式会社の子会社であった株式会社トヨタオートモールクリエイトを連結子会社化するとともに、トレッサ横浜・カラフルタウン岐阜の持ち分を取得いたしました。首都圏中心に戦略的な地域における事業機会を獲得することができ、当社の事業機会獲得能力の高さをあらためて実感したところです。そして、東京都府中市における計画では、スポーツ・エンターテインメントの要素も取り入れた大型商業施設を計画していこうとしていますが、私としては、商業×スポーツ・エンターテインメントとのシナジーに「無限の可能性」を感じており、今後、取り組みをさらに加速させていきたいと考えています。コト消費志向の高まりのなか、スポーツ・エンターテインメント分野に関するニーズは今後も拡大していくと考えていますが、一方で、受け皿となるアリーナは不足しており、成長余地が大きいことから、次なるアリーナを名古屋市の再開発地区「みなとアクルス」で着工いたしました。本アリーナ計画と、ららぽーと名古屋みなとアクルスを一体的に運用し、「観戦体験」を楽しんでいただく仕掛けづくりに取り組み、シナジー効果を発揮させてまいります。
また、アリーナ事業のほかにも、エンタメ業界にはいろいろなレイヤー・収益の機会があると考えており、さまざまな連携を模索しているところですので、今後の当社の商業・スポーツ・エンターテインメントのさらなる取り組みの深化と進化にご期待ください。
(仮称)名古屋アリーナ
国内住宅分譲事業
そして、国内住宅分譲事業につきましては、2000年台初頭には80,000戸以上あった中高層住宅の供給戸数が、2024年は約23,000戸と1/3以下まで減少していることや、都心部の好立地物件の供給も相次いでいる影響もあり、分譲マンション価格が上昇しています。今後は、そうした傾向のなかで、立地・エリアや商品・価格等のバランスによって優勝劣敗が生まれてくると考えています。当社グループは、2億円以上の高額マンションにおけるシェアで過半を占めるなど、富裕層との深いリレーションがあるとともに、これまで培ってきたブランドの信頼性があります。さらに、当社グループは、今後2025年度以降のパイプラインとして約26,500戸分の事業用地を確保しているなかで、図Dのように都心物件を多く供給予定です。このような物件は富裕層だけでなく、今後も「賃金と物価の好循環」の恩恵を受けやすい共働き世帯(パワーカップル)を中心とした底堅い需要が見込まれます。デフレの時代には付加価値が正当に評価されてきませんでしたが、我々供給者側もそして消費者側も、「付加価値は価格に表現される」という考え方にマインドセットを変えていきながら、当社グループの住宅の優位性を向上させてまいります。
⚫︎2025年度計上
※数字は会計年度 地図使用承認©昭文社 第65G042号
パークコート北青山
THE TOYOMI TOWER MARINE&SKY
ホテル・リゾート事業
ホテルについては、昨年は築地や京都など、インバウンド需要の強いエリアでホテルを開業いたしました。今後も、2030年度に向けて、インバウンド需要の見込まれる大阪において三井ガーデンホテルプレミアを開業予定です。また、ラグジュアリーホテルについては、箱根において最高級ラグジュアリーブランド「HOTEL THE MITSUI HAKONE」を、日本橋においてヒルトンの最上級ブランド「ウォルドーフ・アストリア東京日本橋」を開業予定です。規模の拡大だけでなく質にもこだわり、需要のすそ野を広げることでさらなる成長を図ってまいります。
あらゆるアセット・サービスにおいて多様な「付加価値」を生み出すことでマーケットとのデカップリングを図り、これらを価格として表現させていただくことで、トップラインおよび利益の伸長を実現してまいります。
❷ 資産回転の加速
2024年度は、都心SクラスビルであるOtemachi Oneタワーや、固定資産である横浜三井ビルディングの持ち分の一部売却、データセンターであるMFIP多摩の外部投資家への売却など、約6,100億円の原価回収を進めることができました。
これは「& INNOVATION 2030」でお示ししていたキャッシュアロケーションの資産回収:約2兆円の30%であり、順調に資産回収が進捗しています。2025年度もすでに固定資産売却損益・持分法投資損益を含む「投資家向け分譲・海外住宅分譲」セグメントの事業利益業績予想:800億円に対して約8割分について契約が進捗しています。また、直近では八重洲二丁目中地区第一種市街地再開発事業において、当社が所有するオフィスフロアの一部権利を本田技研工業株式会社(以下、「Honda」)に売却することとしました。同時に、東京都港区南青山に所在するHonda所有のHonda青山ビルについて、一部権利を三井不動産レジデンシャル株式会社にて取得し、Hondaと共同での建て替えを行うこととしました。本取引は、事業の早期段階で、将来の分譲利益の目途を付け、資産の効率性の改善などにつながる取り組みであることに加え、将来の事業機会も得ることができるものとなっており、資産回転の加速にもますます自信を深めています。
Otemachi One タワー
横浜三井ビルディング
一方、資産回転の加速につきましては、国内で進行しつつある金利上昇により、Cap Rateが上昇することで、分譲利益が減少するのではないか?というご懸念をいただくこともあります。しかしながら、不動産経済研究所による2025年6月末時点でのプライム立地のオフィスCap Rateは、2024年12月以前と変わっていない状況です。金利上昇にもかかわらず、Cap Rateが変化していない理由については、①日本における収益不動産の限られた供給に対する需要の強さや、②豊富なドライパウダー、つまり日本の不動産投資への待機資金の存在、③足元で我々も鋭意努力している賃料上昇の不動産価格への織り込みの進捗、が主な要因と考えています。
また、日本よりも早期に急激な金利上昇を経験した米国・英国の状況を見ても、高稼働を維持し、キャッシュ・フローが安定していたエリアやアセットクラスについては、金利の大幅な上昇に比べて、Cap Rateの上昇は比較的緩やかなものにとどまっています(図E・図F)。
当社が保有する物件は、希少な立地におけるスペック等が高い物件が多く、空室率も低く、キャッシュ・フローが非常に安定しています。このようなことから、当社物件は、これまでの取引の際に強い引き合いをいただいていたように、今後も、特にCap Rateの上昇には見舞われにくいであろうと考えています。
また、仮に10bp程度の上昇があった場合でも、含み益への影響は1,500億円程度と、約3.7兆円ある含み益の水準からすると軽微と考えています。
以上のとおり、金利上昇によるCap Rate上昇は限定的と考えられ、仮に上昇したとしても、当社の含み益等への影響はごくわずかと考えておりますので、ご安心いただきたいと考えております。
一方で、海外においては、今はまだ金利・Cap Rateともに高止まっており、売買マーケットにおける取引水準もコロナ禍前の状況に戻ったとは言えない状況と認識しています。このため、海外物件については、引き続き、地球儀を俯瞰し、各エリアの事業環境を踏まえ、ローカルマーケットを注視しながら、売り時、買い時をスマートに判断し、販売用不動産・固定資産をトータルで捉え、資産回転を加速することで、当社資産が生み出すキャッシュ・フローを向上させ、ROA・ROEといった効率性指標をさらに改善させてまいります。
❸ 海外事業の深化と進化
「海外事業」につきましては、昨年度、当社の旗艦物件であるニューヨーク・マンハッタンに所在する「50 Hudson Yards」のリーシングが完了しました。当社はニューヨーク・マンハッタンを中心に、米国東海岸において約1兆円のオフィス・ポートフォリオを有していますが、50 Hudson Yards・55 Hudson Yards・1251 Avenue of the Americasの旗艦3物件において約9,000億円の含み益を有しています。これは、当社の含み益全体(約3.7兆円)の約1/4を占める規模であり、当社の海外事業の成功を物語るに十分と考えています。
同時に、当社が日本の一不動産デベロッパーではなく、グローバルなデベロッパーであるということを、内外に知らしめるに十分な実績だと考えています。実際、このプロジェクト以降、「あのHudson YardsのMitsui Fudosanと仕事をしたい」と多くの案件が海外子会社に持ち込まれるようになっています。
このようなグローバル・プレーヤーとしての認知度向上も追い風に長期的な視野を持って当社の開発クオリティをグローバル規模で拡大し、各国の力強い成長を取り込むことを目的として海外事業に取り組んでいます。そのなかでも特に、米国のサンベルトエリア・オーストラリア・インドといった人口成長・経済成長が見込まれるエリアで事業を拡大しています(図G)。
[サンベルト]
[シドニー]
●55 Pitt Street
[サンベルト]
[インド]
●RMZ Eco world 30
[サンベルト]
まず米国のサンベルトエリアについては、コロナ禍とそれに続く金利上昇により、新規の商業用不動産に対するコンストラクションローンが付かなくなっていたことから、特に2025年度以降、サンベルトにおける賃貸住宅の供給が先細っていくという状況が見えていました。我々の戦略は、このような状況において、自己資金で投資できるという強みを活かし、特に成長が期待できる都市の都心部の優良物件をチェリーピックし、機動的に投資を行うというものでした。2024年度に供給した3物件1,050戸を皮切りに、サンベルト7都市において15物件、合計約5,000戸の賃貸住宅開発に参画しておりますが、開発工事は順調に進み、事業費もセーブしつつ、リーシングは順調に進捗し始めています。米国の賃貸住宅は、物件規模が300〜400戸と大きく、リースアップまでに2〜3年程度かかるため、利益貢献には時間を要しますが、不動産売買マーケットの再開がスローな米国のなかでも、サンベルトの賃貸住宅の売買事例を見ますと、コロナ禍でストップしていた取引事例も増加しており、足元では4%台のCap Rateで取り引きされていることからも、将来的には、資産回転による分譲利益が期待できる物件に仕上がり、花開くと自信を持っています。
また、オーストラリアではシドニーのCBDエリアにおいて、きわめて希少性の高い新築オフィスビルプロジェクトである55 Pitt Streetに参画し、リーシングが順調に進捗しています。インドにおいても、ベンガルールにおいて10万坪規模のオフィス開発に参画しており、昨年度竣工した1期目約5万坪についてはすでにリーシングが完了し、来年度竣工予定の2期目の残り約5万坪についても1期目にご入居いただいたテナントの増床要望もあり、順調にリーシングがスタートしています。
引き続き、日本国内・海外で高い成長が見込めるエリアにおける利益をバランスよく成長させていくことにより、当社の利益の引き出しを多様化させるとともに、強化してまいります。
(2)第2の道「新たなアセットクラスへの展開」
第2の道である「新たなアセットクラスへの展開」についても、着実に進捗しています。「スポーツ・エンターテインメントを活かした街づくり」につきましては、先ほど、名古屋エリアの取り組みについて触れさせていただいたところですが、賃貸ラボ&オフィス事業は、国内において2024年11月「三井リンクラボ新木場3」竣工、2025年4月「(仮称)三井リンクラボ東陽町1」の着工と、着々と事業を進めています。また、2025年5月に「三井リンクラボ柏の葉2」において米国Cellares社が再生医療等製品のアジア初の開発・製造拠点を開設することとなった旨を発表しましたとおり、コミュニティからのニーズを踏まえて事業展開していることもあり、リーシングも順調に進捗しています。
また、海外においても、米国ボストンの「Innovation Square Phase Ⅲ」についてリーシングが完了し、着工しています。さらに、当社初となる英国における賃貸ラボ&オフィス事業を含む複合開発事業「(仮称)大英図書館再開発計画」への参画を発表いたしました。本事業の予定地である大英図書館の所在するキングスクロスエリアは、ロンドンの主要鉄道駅でユーロスターが発着するセントパンクラス駅など4駅と近接しており、その総乗降客数が年間で2億人を超えるような立地です。JR東京駅の年間乗降客数も2.5億人超ですので、東京駅同等の駅近接の立地とお考えいただければと考えています。さらに、本事業予定地は欧州最大のライフサイエンス研究所であるフランシス クリック インスティテュートと隣接しているうえに、本エリアは、2000年代から再開発が行われ、グーグル社など世界的なテック企業がオフィスを構えているほか、AI研究機関などの集積も進んだ非常にポテンシャルの高いエリアとなっています。
このように、賃貸ラボ&オフィス事業は、計画中を含め、国内10棟、米国5棟に、英国でも1棟加わり、計16棟規模になり、今後の投資予定を含めると累計投資額5,000億円超まで拡大してきています(図H)。
[ロンドン]
[日本]
[ボストン]
[日本]
データセンター事業につきましても、昨年7月に日野市における計画を公表させていただきましたが、本件を含め、今後の投資予定も含めて足元で7物件、約3,000億円の投資となっており、テナントまで決まっている開発計画規模としては国内最大級と自負しております。さらに直近、関西において新規開発が決定いたしました。今後も適地の探索能力・ハイパースケーラーやオペレーターとのリレーション・電力会社とのリレーションをフルに活用し、パイプラインを拡大させてまいります。
(3)第3の道「新事業領域の探索、事業機会獲得」
第3の道である「新事業領域の探索、事業機会獲得」につきましては、昨年度、新本部を立ち上げました。ライフサイエンス分野はもちろん、宇宙産業、産学連携等を所管する部門や、新産業の創造・M&Aを集中的に行う部門で構成しており、「産業デベロッパー」として当社が関与すべき新事業領域の探索を進めています。
ライフサイエンスにつきましては、場とコミュニティである「LINK-J」を立ち上げ、活動10年目を迎える今年に会員数が1,000を超える見込みであり、年間1,000回超のイベントを開催しています。このような活動を通じ、国内での賃貸ラボのニーズを入手することができたことで、賃貸ラボ&オフィス事業のビジネスとしての実現可能性を検証しながら、1棟、また1棟と、徐々に事業を大きくしてきたところです。このように、場とコミュニティを構築することで、広範な人脈・ネットワークを獲得し、このインナーサークルを通じた業界動向・最新情報へのアクセスの機会を得ることが可能となり、業界が抱える課題を発見し、課題への解決策としての新規ビジネスを創出することができると考えています。また、このようにテーマを絞った場とコミュニティを立ち上げ、その拠点の所在する街である日本橋を「聖地」化していくことで、当社テナント企業が日本橋という街にいる必然性をつくり出しています。そして、このことが第1の道の「市場からのデカップリング」にもつながり、当社利益の安定性・成長性にも貢献し始めていると強く実感しています。
場とコミュニティの構築テーマとしては、ただいま申し上げたライフサイエンスのほか、2023年には、これに続き、「宇宙産業」のコミュニティを設立しておりますが、2025年7月には、半導体を活用した産業イノベーションを支援するためのコミュニティ「RISE-A」も設立いたしました。すでに半導体関係企業が三井リンクラボシリーズに入居いただいている実績もあるほか、2026年夏に竣工予定の「(仮称)三井リンクラボ東陽町1」においては、工業専用地域の特性を活かして、半導体領域の研究開発ニーズをサポートするなど、既存の取り組みが応用できる可能性も感じております。このほか、世界的半導体企業の集積が進む熊本エリアで、半導体関連企業や研究機関の皆様と連携しながら、生産、研究、物流といったさまざまな企業活動の場はもちろん、産学連携を通じた人材育成や研究開発の促進の場を創出させるべく、日本型サイエンスパークの検討を開始しています。
このような大規模なサイエンスパークの整備なども一つのソリューション候補と認識しており、今後の活動を通じて産業発展のために貢献できることを模索し続けていきたいと考えていますが、ライフサイエンス領域と同じく、今後、半導体産業の各領域における活動を通じて業界への理解を深めるとともに、産業発展のエコシステムに欠けているピースを探索し、ソリューションを提供することで、業界発展に貢献してまいります。
本分野は、まさに当社のDNAである「進取の気性」と「顧客志向」が活きる分野と感じています。M&Aや業務提携等の手法も絡めながら、当社のありたい姿である「産業デベロッパーとして社会の付加価値の創出に貢献」の実現を目指していきたいと考えています。
(4)まとめ
米国の予測不能な通商政策や、これまでにない水準での世界規模の地政学的リスクの高まり、国内における建築費高騰や人手不足、金利上昇などのリスクにより事業環境は極めて不透明な状況ではあります。しかしながら、金利上昇については、当社の円貨の借り入れは90%程度を長期・固定化しているため、影響は軽微ですし、当社の多様で強靭なポートフォリオとこれをベースにした多様な稼ぎ方が、岩盤となる利益を形づくっています。
そして、これに加え、これまで申し上げてきたとおり、第1の道から第3の道にわたり、各種事業の深化と進化、そして、将来の利益創出に向けた種まきが、初年度から順調に進んでおり、今後のさらなる当社の成長に期待していただける状況になってきていると自負しています。つまり、このような状況は、当社の安定した業績を示す良いチャンスですので、実績としても、主要KPIであるEPS成長率およびROEについて、着実に向上させていきます。
なかでもROEの向上については、分子・分母両面にわたる改善の取り組みが必要です。分母については、まず、株主還元につきましては、四半世紀以上にわたり配当を維持・向上させてきたなかで導入を決定した「累進配当政策」のもと、2024年度は配当を31円/株に増配させていただくとともに、自己株式取得450億円を決議し、総還元性向を52.7%としました。また、投資有価証券について純投資株式の売却を進めるとともに、政策保有株式も2023年度末簿価に対し、23%の縮減を進めました。引き続き、総還元性向:50%以上による株主還元の実施や投資有価証券の縮減により分母への取り組みを進めていきます。
また、分子の向上=利益創出のためには、成長投資が必要です。投資が花開くことにより、「利益成長」と「キャッシュ創出力の向上」が実現でき、さらなる利益成長のための再投資と利益成長に伴う株主還元の拡大が可能となり、好循環が回せるようになると考えています。このため、将来の利益成長・キャッシュ創出力向上のための種まきについて、当社のコア・コンピタンスである事業機会獲得能力を遺憾なく発揮することで、しっかりと進めていきます。
これまで申し上げたような、当社のような不動産会社が経済的価値を生み出していくための活動は、社会や環境に大きなインパクトを与えますし、我々はそれを理解しています。私たちは「マーク」の理念のもと、さまざまな社会課題の解決を通じた社会的価値の創出を目指し、時を経るごとに魅力を増していく「経年優化」という思想を大切に、街づくりを通じて、新たな価値創造への挑戦を続けてきました。
特に、環境との共生に関しては、「& EARTH 自然とともに、未来をともに」という理念を掲げ、かねてよりさまざまな取り組みを重ねてきましたが、私たちが街づくりにおける環境との共生を通じて目指す姿を、あらためて、広く社会の皆様に知っていただくことが重要と考え、三井不動産グループの街づくりにおける環境との共生宣言「& EARTH for Nature」を策定しました。
脱炭素の取り組みはもちろん、環境への配慮は企業としての社会的責任であるとともに、持続可能なビジネスを実現するために重要な要素です。自然と人、そして地域を一体で「環境」と捉え、それぞれの魅力が循環し、時を経るごとに輝きを増す、豊かな「環境」を生み出し、社会的価値を創造していくことは、先ほどご説明させていただいたような街の価値向上を通じたオフィス賃料という経済的価値向上に現れてくると考えています。
今後も、我々の創造している「豊かな環境」づくりについて定量的にお示しするとともに、これがどのように経済的価値につながっているのかについても、説明に努めてまいります。
また、社員との一体感を醸成し、「One Team」とするために、社長就任後の2年間で計84回の社内ミーティングを開き、従業員と胸襟を開いて語らいました。(統合報告書2025 P.53参照)
対話を通じ、私自身、あらためて従業員のモチベーション・多様性・エンゲージメントの高さを感じることができました。当社グループの特徴は、事業規模から想像される以上に限られたメンバーで、質の高い成果を生み出している点にあると考えていますが、このコンパクトな組織体制だからこそ、風通しの良い環境を自然とつくり出すことができていると考えています。私をはじめとする役職者が、このような素晴らしい人材ポートフォリオの一人ひとりが持つ可能性をしっかり磨いていくとともに、社員一人ひとりが、お客様が本当に求めているものを深く洞察したうえで、形式主義や前例主義に陥らずに自由な発想で挑戦できる組織・風土へと耕し続けることで、新たな付加価値を創造する企業集団を創り上げていきます。
そして、先ほど、企業価値向上に向けた株主資本コストとガバナンスの関係について述べさせていただきました。昨年度は、社外取締役を1名増員させたほか、任期を1年とするなどの改善を行いましたが、今年度におきましては、投資家の皆様からも改善すべきというご意見をいただいておりました取締役の報酬制度について、グループ長期経営方針「& INNOVATION 2030」のKPIと連動させる形へと改善しました。また、取締役会構成についても、社内から女性取締役を1名推挙し、株主総会においてご承認をいただきました。また、本統合報告書において取締役会における議題を掲載させていただくように改めましたほか、社外取締役に長期経営方針策定後1年間の取り組みへの評価だけでなく、課題等についてもご議論いただき、掲載するようにいたしました。
このように、ガバナンスについても、企業価値向上に関する経営上の重要な課題と捉え、改善を積み重ねてまいります。
そして、企業価値向上のためには、IR対話を充実・深化させることで、発行体と投資家の皆様の情報の非対称性を解消していくことも重要と考えています。CFOやIR部門からは毎週、投資家の皆様との間でどのような質疑がなされ、また、どのような意見をお寄せいただいているかの報告を受けていますが、私自身、代表取締役社長に就任して以降、投資家の皆様とは、決算および長期経営方針に関する説明会や、投資家の皆様とのミーティングで直接に意見交換をさせていただいています。ご意見等をさまざまな意思決定にあたって参考にさせていただくべく、引き続き、私自身も投資家の皆様と意見交換させていただく機会を設けてまいります。
当社はこれまで、変化する産業社会のニーズに応えながら成長してきました。高度経済成長期に工業用地の不足を補うために埋立事業を行ったり、都心において土地の有効活用等を図るために日本初の超高層ビルである「霞が関ビルディング」を創造したり、都市防災機能の向上と人々のクオリティライフの向上のために再開発事業を推進したり、当社は、街づくりにおけるプラットフォーマーとして事業を発展させてきました。
そして今、当社グループは、「マークの理念」のもと、街というプラットフォームを提供し、「コミュニティの構築」と「場の整備」を通してさまざまな人や企業が集い、エコシステムが形成され、そこから新たな需要やニーズが生まれ、イノベーションが起こり、新しい産業や価値が創り出される未来を志向し、さまざまな取り組みを進めています。
このような未来を、さまざまな「妄想」を持つことからスタートし、その大義のもと仲間が集まることで「構想」に仕立て、さらに行動する勇気を持って「実現」させようとしていますが、同時に、私の一番重要な使命の一つである「企業価値の向上」も継続的に実現していかなければならないと強く感じています。金利のある時代に戻り、建築費・人件費などのコストが上昇していく時代に、これらを上回る付加価値を生み、お客様にご理解いただくことは容易なことではありません。当社は街・建物というハードをつくる会社ですが、それだけでは大きな付加価値は生み出せません。また、今やっていることを漫然と続けているだけでは、いつの間にか後れをとるということになりかねません。形式主義・前例主義に陥らず、「妄想・構想・実現」の力で新たなことに挑戦していかなければなりません。このため、全役員・社員一人ひとりが「自分の仕事は一体、どういう付加価値を生んでいるのか?」を常に問い・行動する組織へと進化させ続けるとともに、当社グループの未来に共感いただける長期投資家の皆様との対話を重ね、目指すべき方向性を共有しながら、私自身が先頭に立ちつつ社員一丸となって、昨年度公表させていただいた「& INNOVATION 2030」の成長戦略・財務戦略を実行してまいります。そして、お示ししたKPIを可能な限り早く・高い水準でクリアしていくことで、社会的価値と経済的価値を両輪で創出し、当社グループの「価値創造」「企業価値向上」の実現に取り組んでまいりますので、引き続き、皆様の変わらぬご支援を賜りますようお願い申し上げます。