ROUNDTABLE DISCUSSIONS AMONG OUTSIDE DIRECTORS

社外取締役鼎談

当社の取締役会の実効性や、持続的成長に向けた課題、脱炭素・D&Iへの取り組みや、社長交代に伴う新体制への期待などをテーマに、中山社外取締役、伊東社外取締役、河合社外取締役3名による鼎談を実施しました。その内容をご紹介します。

社外取締役鼎談社外取締役鼎談

取締役会の実効性評価/議論の活発性

当社の取締役会の雰囲気や、議論を含めた運営についての評価を聞かせてください。

伊東|当社の取締役会は、非常に良い雰囲気のもとで闊達な議論ができていると思います。コロナ禍においても、コロナ禍を乗り越えた今でも、その印象は変わりません。我々も質問しやすく、また執行側からは的確な回答が得られており、全体的にしっかりとした取締役会が運営されている、といつも感じています。
中山|私も取締役に就任して4年が経ちましたが、伊東さんがおっしゃるように、とにかく議論が活発です。これは間違いありません。当社の取締役会は、議案に関わるプレゼンテーターだけでなく、社長が補足的なコメントを加えたり、社外取締役の質問に対しても、関係する部門責任者に加えて会長や社長が自ら回答されたりするなど、少しでも我々がより良く理解できるように努めていただいています。そうした会議の姿勢があるからこそ、活発な意見が交わされ、議論が活性化しているのだと思います。そして、この雰囲気そのものが、当社のDNAをよく表わしているように感じています。
伊東|確かに、重要な議題や案件は社長自らが前面に出てご説明される場面がありますね。とても印象に残っていますし、やはり説得力があると感じます。
河合|お二人のおっしゃるとおりです。私は取締役に就任して2年になりましたが、取締役会では、自由に活発な意見が飛び交い、質問に対してはとても丁寧にご回答くださいます。新任の社外取締役に対しても、業界知識の不足ゆえに質問をすることがはばかられるような雰囲気は一切なく、質問やコメントに対して、しっかりと反応をしてくださいます。また、取締役会に先立って事務局から非常に丁寧なご説明がいただけるので、事前段階である程度の議題のイシューがわかることも我々の理解促進につながっています。それによって、取締役会ではより本質的な部分にフォーカスして詳しく質疑できるため、時間効率の面でも良い運営になっていると思います。

取締役会の実効性評価/ステークホルダーからの意見

取締役会の実効性評価に関する意見に基づき、昨年実施した「投資家からの意見」 「社員エンゲージメントサーベイ」のフィードバックについてはどう評価していますか。

中山|ステークホルダーのなかでも、投資家の意見に対してしっかりとアンテナを立てておくことは経営上とても重要です。IRミーティング等での投資家対応に加え、投資家が当社のどのような点に強い関心を抱き、どのような点に批判的な見方をするのか、そして、当社の将来をどう見ているのか。これらをしっかり把握し、その意見を尊重することは経営に欠かせない視点だと考えます。そういった意味で、 昨年の取締役会において、度々社長から投資家との対話のフィードバックが共有されたことを評価しており、今後もより一層のフィードバックを期待しています。社員エンゲージメントサーベイに関しては、当社はとても風通しが良く自由に発言できる雰囲気があるので、サーベイの結果を見ながら、今後もそうしたカルチャーが根付き続けているのかどうかを、いろいろな部署ごとに定期的にチェックしていくことが必要だと思います。
河合|投資家の意見については、真摯に耳を傾け、対話を続けていくことが非常に大切です。我々社外取締役は、ある意味では、株主の皆様から負託を受けた代表者ですから、会社の経営に関する深い理解とともに、投資家の意見を聞くことは非常に有意義だと思います。
伊東|社員のエンゲージメントサーベイについては、現在は三井不動産本体で実施しており、非常に評価が高く素晴らしいと思っていますが、今後はグループ会社も含めて実施することで、グループ各社の評価も認識し、グループ全体としてのエンゲージメント向上につなげていくことも重要だと考えています。また、私は以前から、取締役会にかかる重要案件については、執行側での議論の内容を社外取締役にも共有してほしいと伝えており、この点については、執行側がより一層意識して説明してくれるようになったと感じます。
中山|そうですね。不動産業界の外から来た社外取締役からすると、例えば海外案件などについて、不動産のプロの視点で見るとどういう議論があったのか、大変関心が高い部分です。そういった社内議論の過程をすぐに共有してくださる点は高く評価しています。

取締役会の実効性評価/社外取締役への情報提供

社外取締役の理解促進を目的に、現地見学会や社外役員ミーティングなどを開催しています。 こうした取り組みは社外取締役としての活動にどのように役立っていますか。

伊東|「東京ミッドタウン八重洲」で実施された現地見学会は、当社の強みや事業の方向性に確信を持てる素晴らしい機会でした。昨今、オフィスビルのリーシング競争が激化しているなかで、あの巨大な物件が全フロア成約する様子や、街を丸ごと新しく変えていくという発想が具現化した姿を見ることで、未来を見据え「経年優化」の街づくりを推進している三井不動産の強みをあらためて感じることができました。
中山|そうですね。「街づくり」「経年優化」「リアルエステート・アズ・ア・サービス」といった言葉は、当初、紙に書かれたコンセプトだけではあまりイメージが湧きませんでしたが、実際に「東京ミッドタウン八重洲」や「柏の葉スマートシティ」を視察し、物件に触れることで、非常に理解が深まり、今まで私が「街づくり」に描いていたイメージも全く異なるものへと変わりました。当社の事業コンセプトを理解するためにも、実物を見る必要があると感じます。社会的にはまだ「経年優化」や「リアルエステート・アズ・ア・サービス」という言葉の概念が浸透していませんから、そこは今後しっかりPRしていくべきだと思います。
河合|そうですね。私も「経年優化」という言葉や考え方は、まさにサステナビリティそのものですから、三井不動産の街づくりのコンセプトを伝えるうえで、とても良いフレーズだと思っています。私は「東京ミッドタウン八重洲」のほかにも、昨年、日本橋の街づくりを見学しましたが、やはり実際に現地を見て、どのような空間がどのような想いをもって開発されてきたのかを体感することは、地図を見ながら机上で教えていただくこと以上に得るものが大きかったと実感しています。

2022年度決算の評価と当社の課題

2022年度決算の評価と、当社の今後の持続的成長を考えるうえで、課題を感じている点があれば聞かせてください。

伊東|2022年度の決算はすばらしい業績であったと思います。コロナ禍において、特にホテル・リゾート事業や商業施設事業は厳しい環境が続きましたが、それらの事業を回復軌道に乗せるとともに、全社を挙げて一定の利益成長をしっかりと示した点は大いに評価すべきであると思います。また、マーケット環境の変化があったとしても急激に業績が悪化しないという点では、不動産業はパンデミックに強い部分もあると感じています。2022年度の前半はまだ厳しい状況が続いていましたが、その後はコロナ禍を乗り越え、2023年度以降はVISION 2025で掲げる目標数値の達成に向けて、さらなる成長が示せると思っています。なお、海外事業においては、米国をはじめとする急激なインフレーションを背景に金利水準が上昇するなど、さまざまな外部環境の変化が見られていますが、米国ニューヨークの「50ハドソンヤード」もリーシングが順調に進捗し大きなマイナス要因もなく、まさに市場との差別化が実現していると感じます。地政学的リスクや、今後の日本での金利動向などは注視していく必要がありますが、それらに対しても、全社を挙げてしっかりと乗り越えていく力を十分に持っている、と私は見ています。
中山|国内では確かにこの2、3年、特にホテル・リゾート事業や三井のリパークは苦戦しました。しかし私は、10年ぐらいの長期スパンで考えると、逆にこの経験が結果的に当社の足腰を強くすることにつながっていくと思っています。今まで当社は、外部環境とともに右肩上がりで成長を実現してきましたが、今回のパンデミックをきっかけに、ポストコロナを見据えたビジネスモデルの改革や収益構造の見直しなどに着手しました。2022年度の決算は、まさにそうした努力が結実したものだと見ています。今後、インバウンドの増加という大きな伸びしろが期待されるなか、コロナ禍において経営基盤を強化できたことは、将来における新たな事業機会獲得の可能性をより大きくするものだと思います。その意味では、ピンチをチャンスに変えたと高く評価しています。また、欧米を中心とする成熟した不動産市場において、現地の強力な事業パートナーとのコラボレーションを軸に、「郷に入れば郷に従え」の手法で開発事業を進めていく施策は、とても安全性が高いと思います。加えて、アジアでは、日本での経験を横展開する形で「ららぽーと」などの商業施設を順次展開しています。このような欧米・アジア両面での事業展開を推進するなかで、直近では「50ハドソンヤード」のようなフラッグシップ物件も竣工しており、海外事業は一段と強化されてきたと感じています。利益全体のうち約30%を海外で稼ぐ、という方向性を示しながらも、比較的慎重なスタンスで事業運営を継続してきた結果、昨今の金融環境の大きな変化のなかでもリスクを最小限に抑えられており、長期調達や固定調達を中心にコンサバティブに進めてきた財務戦略の成果も含めて、堅実な海外施策が推進されていると考えています。
河合|そうですね。特に海外では、これまで低金利を支えとして不動産事業を展開してきた海外企業が今回の金利急上昇によって打撃を受けた結果、足元の投資を手控えざるを得ないケースも出ていますが、その裏返しとして、財務体質の強固な当社にお声がかかる案件が増えるなど、ビジネスチャンスはむしろ膨らんでいます。日本はまだ低金利が続いていますので、そうしたアドバンテージも追い風にしながら、そのなかで適正なリスクコントロールを利かせて、長期視点で保守的に事業機会を獲得していくことが、海外戦略としてはとても重要だと思います。ニューヨークのフラッグシップ物件である「50ハドソンヤード」や、米国サンベルトエリアの賃貸住宅を中心とした開発案件など、これまでも上手に事業機会を見つけて、一つひとつ丁寧に事業を進めてきた印象を受けていますが、今後の金利の見通しがいまだ不透明である点には注意が必要です。利上げの状況や不動産キャップレートなどの動向を踏まえ、市場環境を注視しながら、さまざまなシナリオを想定していく必要があると思います。
中山|私はもともと銀行員でしたから、企業の資金繰り、キャッシュフローを必ずチェックすることを重視してきました。不動産業界のなかでも、当社は特に、資金繰りなどを含めキャッシュベースでの懸念はありません。また8兆円規模のアセットを保有するなかで、現在のデッド・エクイティレシオは健全な水準を維持していると思います。しかし、これからの時代、グローバルに金融環境が大きく変化していく可能性があるなかで、その時代に相応しいバランスシートの構築を検討していくべきであり、BSコントロールを一層重視した経営を推進していく必要があると思っています。
また、加えて意見を言うならば、PR戦略についても改善の余地があると考えています。当社グループの広告を見ていると、良く言えばグループ各社のカラーが出ていますが、一方で三井不動産グループ全体としての統一的なブランド・コンセプトが消費者に伝わり切っていない部分もあるように思われます。どのようにグループとしてのブランド戦略を構築し世の中に発信していくのか。これについては、今後の課題の一つとして深掘りしていくべきであると感じています。
河合|そうですね。私も当社のPRについては、もったいなさを感じる場面がいくつかあります。当社は、日本橋や「柏の葉スマートシティ」をはじめとして数多くの魅力的な街づくりを手がけてきましたが、当社がデベロッパーとして街づくりに関わることで、街にどのような付加価値が加わるのか、経済的価値だけでなく社会的価値も含め、もっと積極的に発信していくべきだと思います。

中山恒博中山恒博

ESG・サステナビリティの取り組みに対する評価

当社は「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」や「脱炭素」を経営の重要課題に掲げ、これまでESG・サステナビリティの取り組みを進めてきました。
当社の取り組みに対する評価や課題について聞かせてください。

河合|D&Iの取り組みのなかでもジェンダーの多様性について言えば、今回、新たに社外取締役として引頭麻実さん、社外監査役として三田万世さんが加わりましたが、当社は短期間で多様性の拡充を推進中であり、この背景には経営トップの姿勢が強く反映されていると思っています。経営の最重要課題の一つとしてD&Iを掲げて全社グループの方向性を示し、社内役員における女性比率の向上に向けた取り組みや、2年連続での「なでしこ銘柄」選定など、着実な進捗が見られており、非常に良い形で、スピード感をもってあるべき方向に進んでいるのではないでしょうか。また、脱炭素に向けた取り組みも、2050年度のネットゼロ達成に向けた具体的なロードマップを公表しており、今年3月には「三井不動産グループ生物多様性方針」も策定し、コミットメントを公表しました。具体的な数値目標を伴う会社の方針を社外にコミットしたことは、トップの強い意志を感じ、大変高く評価しています。
中山|そうですね。D&Iについて、2030年には女性管理職比率を20%、女性採用比率を40%と、はっきりとした数値目標を出している点は重要ですね。正直なところを申し上げると、不動産業は、建設業と並んで女性比率を上げるのが容易ではない業界です。過去の採用人数が将来の管理職候補の人数を大きく左右しますから、女性管理職比率を向上させていくうえでは、現時点では女性の中途採用者を増やしていくしかありません。そのようななかでも、明確に数値目標を打ち出したことの意義は大きいと感じます。脱炭素に向けた取り組みも同じです。数値目標の公表はもとより、2022年を「脱炭素行動計画の実行元年」と称し、よく短期間でここまで体制を整えたと感心しています。取締役会などの議論も、単なる体制の構築で終わらせることなく、しっかりと実行を伴って推進していこうとする強い意識が、社長をはじめとするトップから伝わってきます。やはり社外に向けてコミットすることは、非常に重要であると思います。
伊東|女性の活用に関しては、私も4年くらい前に、「なぜ女性社員がこんなに少ないのか」と随分と意見を申し上げてきました。最近では、より積極的に女性の中途採用者を増やしており、かなり徹底して実行に移していると感じます。脱炭素に向けても、風力発電やメガソーラーなど、さまざまな打ち手を通じて非常に真剣に取り組んでいると評価しています。また、Scope3への対応は難しい部分も多いと思いますが、しっかりと前に進めているという印象を持っています。
中山|D&Iに関しては、国籍の多様性拡充についての議論もあります。しかし私は、国際性の視点は国籍だけの視点で語るのではなく、経験やスキルなど総合的なバックグラウンドで見ていく必要性を感じます。私は米国企業に勤めていた経験がありますが、その当時は相当強引にD&Iを進めていきました。やはり自動的に多様性が拡充されるのではなく、そこに向けた企業の強い意志も必要です。そのように考えると、現在の日本のジェンダー平等への取り組みはとても遅れていると考える人がいますが、他の国も、かつては皆、高い意識をもって努力して変革してきた歴史がありますので、日本もこれからどんどん変わることができると思っています。国際性やジェンダーについては、形式的な議論に陥らず、「当社にとって長期的に本当に必要な多様性とは何か」を冷静に考えながら議論を深め、少しずつ移行していくことが大切であると考えています。
伊東|コーポレート・ガバナンスについても、どういう機関設計が先進的か、といった議論ではなく、当社にとって最も適切なガバナンス体系で進めていくことが重要です。三井不動産は良い意味での日本的経営が浸透しており、むしろそのことに自信を持って良いと私は考えます。
河合|コーポレート・ガバナンスに関しては、どのように運用するかも非常に大切です。その意味では、当社は自らの意志を持って、当社にふさわしい形のコーポレート・ガバナンスを志向していると感じています。

伊東信一郎伊東信一郎

新社長への期待

最後に、今回の社長交代を受け、植田新社長に期待することを聞かせてください。

中山|長期のプロジェクトを手がける当社においては、トップは短期間で交代せずに、長期的な目線で経営していくことが大事だと考えます。次期経営方針で植田社長が新しい道筋を示し、しっかりと着実に各種戦略・施策を実行していただきたいと思います。植田社長は、これまでも日本の産業をサポートするデベロッパーとしてのスタンスを持ち、相当数のプロジェクトを推進してこられた実績をお持ちです。その豊富な経験をもとに、菰田会長と役割を分担しながら、当社の経営を行っていくことに全く不安を感じません。当社取締役会も、取締役が4人、監査役が3人交代し、新たな体制に刷新されました。次のステップに進む転換期として、植田社長の手腕に期待しています。
伊東|三井不動産の歴史は「妄想、構想、実現」の歴史であり、不動産デベロッパーの枠を超え、いわば産業デベロッパーというプラットフォーマーとして、これからも歩み続けていく、と植田社長は言われています。例えば、現在進行している日本橋再生計画では、宇宙関連産業を活性化させるオープンプラットフォームとして街の活性化を図っており、そうしたビジョンには植田社長ご自身の熱い想いがこもっています。過去に経験されたさまざまなご苦労や、投資顧問会社への出向といった社外でのご経験が、社長ご自身の広い視野にもつながっており、大いに期待しています。
河合|植田社長は、社外のさまざまなご経験を活かして、クリエイティブな発想で新しい価値を創造してこられたと思います。今期から新たな取締役体制となりましたが、ジェネレーションの多様化はさらに進むと思います。風通しの良い当社の社風のなかで、これまで以上に若い人たちとのコミュニケーションを活性化し、多様性を活かしてイノベーションを進め、新しいビジネスにつなげていくことを期待しています。

河合江理子河合江理子
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