EPS成長・ROE向上に
財務運営・キャッシュアロケーション面から
貢献するとともに、
投資家の皆様との対話を通じて
企業価値と株価の向上に努めます。
常務執行役員 藤岡 千春
私がCFOとしてその議論と策定に携わった、当社の新たな長期経営方針「& INNOVATION 2030」においては、投資家をはじめとしたステークホルダーの皆様との双方向の対話を深化させるため、2030年度のありたい姿と、ありたい姿に向けたマイルストーンとして、2026年度の成長性・効率性・株主還元等に関する数値目標をお示しさせていただいております。
初年度となる2025年3月期(以下「2024年度」)の実績および2年目となる2026年3月期(以下「2025年度」)の業績予想は、2026年度の各数値目標に向けて、皆様に順調な進捗がお示しできているものと考えております。
2024年度の実績といたしましては、売上高、営業利益、「& INNOVATION 2030」において新設した利益指標である事業利益、経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益(以下「純利益」)のいずれも業績予想を上回り、過去最高を更新しております。
そして、株主還元については、「& INNOVATION 2030」において強化した還元方針(総還元性向50%以上、配当性向35%程度)に基づき、450億円の自己株式の取得を行うこととし、また、年間配当の期初予想30円/株から31円/株への増配(前年度分割後基準※から+3円/株の増配)を決定した結果、純利益2,487億円に対する総還元性向は52.7%となりました。
※当社は、個人投資家をはじめとする投資家の皆様がより投資しやすい環境を整えるとともに、株式の流動性の向上と投資家層の拡大を目的に、2024年4月1日付で普通株式1株につき3株の割合で株式分割しております。
また、2025年度の業績予想においては、好調な国内住宅分譲や施設営業・マネジメントセグメントにおけるさらなる収益・利益の伸長を織り込み、売上高、営業利益、事業利益、純利益は、いずれも過去最高を更新する見込みです。事業利益は、対前年度比263億円増の4,250億円を、そして、純利益は対前年度比112億円増の2,600億円を見込んでおります。
成長性に関する指標であるEPS成長率については、「株主還元の原資」となる「純利益」の成長を「1株当たりの価値」として顕す重要なKPIとして、2023年度の予想純利益2,200億円ベースでのEPS78.5円を起点として、2024年度から2026年度までの3年間のCAGRで+8%/年以上の成長という目標を掲げております。これに対し、2024年度のEPSの実績は89.3円と+13.7%/年の成長となりました。
さらに、2025年度の予想純利益2,600億円を前提としたEPSは、約94円を見込んでおりますので、2024年度から2025年度の2年間のCAGRで+9.6%/年の成長が見込まれ、こちらも目標に対して順調に進捗しております。
全社を挙げて、「& INNOVATION 2030」でお示しした事業戦略「三本の道」を通じた成長を実現させることにより、事業利益・純利益・EPS成長率といった利益目標、成長性・効率性指標の目標達成に向けて取り組んでおりますが、私はCFOとして、引き続き、特に財務運営・キャッシュアロケーションの側面から全社の取り組みを支えてまいります。
※1 2023年度業績予想EPS:78.5円を起点とする
※2 一定の仮定を前提に算出
当社では、どのようにキャッシュを創出するのか、また、その創出したキャッシュの使途をどうするのか、財務運営についてどう考えているのかなどを投資家の皆様にご理解いただき、また、投資家の皆様とのコミュニケーションを深めさせていただくため、「& INNOVATION 2030」において、2024年度から2026年度の3年間のキャッシュアロケーション計画をお示ししています。
初年度となる2024年度の1年間の実績は、キャッシュイン・キャッシュアウトともに約1.1兆円と計画に対し1/3の進捗、キャッシュイン・キャッシュアウト内のそれぞれの内訳についても概ね1/3と順調に進捗いたしました。
基礎営業キャッシュ・フローについて
当社の本業としてのキャッシュ創出力の拡大をより明確にお示しすることを企図して設定したものが、「基礎営業キャッシュ・フロー」となりますが、2024年度の1年間の実績は、約4,900億円となりました。これは、「& INNOVATION 2030」策定時に議論のベースとした2022年度の実績(3,707億円)と比べて、各セグメントの営業利益・事業利益が伸長するなどし、約1.3倍の実績となりました。
資産回収について
また、「資産回収」については、資産回転を加速する方針により、過去3年間(2021~2023年度)の回収額に比べて1.4倍に相当する規模である3年間で2兆円程度の計画に対し、2024年度は販売用不動産だけでなく、固定資産や投資有価証券の売却も含めた回収が進み、1年間の実績は約6,100億円と約3割の進捗となりました。
キャッシュアウト・資本配分について
2024年度は、基礎営業キャッシュ・フローと資産回収による合計約1.1兆円のキャッシュをもとに、キャッシュアロケーション計画策定時の方針のとおり、借り入れの増加を抑制しながら、つまり、新規の借り入れや増資に頼らず、成長投資・戦略的資金・株主還元への適正な資本配分を行いました。
なかでも、「成長投資」については、「& INNOVATION 2030」策定時には予定していなかった、優良な投資案件の獲得も含め順調に進捗いたしております。東京都・府中市における大型の商業施設計画や、アメリカ・ボストンにおける賃貸ラボ&オフィス事業「Innovation Square Phase Ⅲ」、オーストラリア・シドニーのCBDエリアに位置するオフィス事業「55Pitt Street」、イギリス・ロンドンにおける賃貸ラボ&オフィス事業「(仮称) 大英図書館再開発計画」などがその代表例です。
新たな事業機会の獲得にあたっては、これまでアセット種別ごとのNOI利回り等を投資基準としてきましたが、海外での事業機会が増えている足元の状況や、国内でも金利上昇が始まった事業環境等を踏まえ、あらためてエリアやアセット種別ごとに、投資基準に関する議論を開始しています。
引き続き、「成長なくして還元なし」、「成長は効率的であるべき」という考え方、すなわち「成長・効率・還元」を三位一体で捉えた経営の進捗を、キャッシュアロケーションを通して、投資家の皆様にお示ししてまいります。
不動産開発や街づくり型の事業は、長期間にわたりバランスシートを大きく活用することが特徴です。2024年度末の当社のバランスシートは、直近の為替変動による影響もあり、資産総額は約9.8兆円、有利子負債は約4.4兆円となっております。「& INNOVATION 2030」では賃貸利益と分譲利益の両輪での成長を意識しつつ、資産回転を加速し、付加価値(評価益)を顕在化することなどを通じ、中長期的なバランスシートコントロールを推進することとしています。為替の変動要素はございますが、引き続き、固定資産・販売用不動産について聖域なく売却していくだけでなく、投資有価証券もトータルで捉えた資産回転により、ポートフォリオの強靭化・効率性の向上に取り組んでまいります。
なお、投資有価証券のうち政策保有株式については、「& INNOVATION 2030」において、2024年度から2026年度の3年間で50%削減することを明示し、2026年度以降も引き続き積極的に縮減することとしておりますが、2024年度においては約23%縮減、2025年度は累計で約40%縮減見込みと、早いペースでの縮減が実現できる見込みです。
また、純投資目的株式については、「これまでの売却実績に引き続き、今後の株価等を勘案しつつ、将来の成長投資などに振り向ける原資として、継続的・積極的に売却」することとしており、引き続き、時機を捉えた売却を推進してまいります。
加えて、国内では金利上昇が始まり、海外では利下げは開始されたものの想定以上に高金利状態が継続している昨今の状況を考えると、当社の安定的な事業継続のためには、引き続き健全な財務基盤を維持・構築するとともに、純金利負担を抑制していくことが一層重要になっていると認識しております。
「& INNOVATION 2030」においては、主要格付け機関におけるA格の維持が可能となるよう、D/Eレシオは1.2~1.5倍程度にコントロールする方針を掲げておりますが、これに対し、2024年度のD/Eレシオは1.40倍で落着し、2025年度は1.4倍台前半を見込むなど、目標の範囲内で推移しております。引き続き、適正な財務レバレッジコントロールを推進し、財務の健全性維持に配意してまいります。
また、昨今の国内外の金利の状況を踏まえ、純金利負担の見込みや調達方針について、投資家の皆様からお問い合わせいただく機会が増えておりますが、当社では、物件開発期間中における金融マーケット変動等のリスク低減に向け、国内の利上げによる影響が軽微に抑えられるよう、戦略的に、円貨借入の90%程度を長期・固定化しております。
そして、2024年度の純金利負担は、期初の見込みに比して、円安による増加影響がありましたが、調達先・調達方法の厳選や、為替リスクを踏まえつつも円とドルの金利差を活用した調達を行う等、金利削減策を講じて対応した結果、期初の業績予想(790億円)どおりの水準で落着(793億円)させることができております。
2025年度の金利については、国内では徐々に上昇を、米国においては年度内での利下げは見込むものの、当面は高金利状態が継続すると見込んでおります。引き続き、さまざまな金利削減策の効果も折り込み、純金利負担は、2024年度実績と同程度の800億円になることを見込んでおります。
本年5月には、トランプ政権の通商・関税政策が世界経済に与える影響について見通しが立てづらく不安定なマーケット環境下ではありましたが、円とドルの金利差を活用した調達の一環として、国内での5年債・10年債 合計1,000億円のグリーンボンドを調達し、アメリカ・ニューヨークの50 Hudson Yardsのリファイナンス資金に充当するなど、2025年度も順調な財務運営のスタートを切れていると感じております。
日本を含め各国の今後の金利動向は注視が必要と考えておりますが、CFOの重要な責務の一つとして、引き続き、借入年限・借入方法などその状況に応じて柔軟に対応し、金利のコントロール・財務健全性の維持・向上に努めてまいります。
※2025年8月5日時点
ROEについては、投資家の皆様からお預かりした「資本」の活用を通じて利益成長を実現する際の「効率性」を顕わす重要なKPIである一方、その水準について未だに課題がある状態という認識のもと、「& INNOVATION 2030」において、「2026年度にROE8.5%以上、2030年度前後にROE10%以上」という定量目標を設定しております。この目標に向けて、2024年度は、期初業績予想において7%台中盤と申し上げていたところ、純利益が伸長することで8.0%の落着となり、また、2025年度は8%台前半の見込みと着実に向上の歩みを積み重ねております。
ROEの向上に向けては、分子となる「利益の拡大」、分母となる「自己資本のコントロール」の分子・分母双方の取り組みが重要です。分子の状況につきましては、「& INNOVATION2030」で掲げた、マーケットからのデカップリング、つまり、付加価値を価格に反映する意識改革が進み、「賃貸」「分譲」「マネジメント」「施設営業」の主要4セグメントのそれぞれにおいて、2024年度の事業利益が過去最高を更新する成果を挙げております。特に、「マネジメント」「施設営業」においては、セグメント別の2026年度目標を2024年度にすでに前倒しで達成しております。加えて、投資有価証券の売却も進捗することで、2026年度の「事業利益:4,400億円以上、純利益:2,700億円以上」の目標に着実に近づいてきております。
分母である自己資本につきましては、従前の総還元性向「45%程度」から「50%以上」に拡充した「& INNOVATION2030」の新たな還元方針に基づき、自己株式の取得を決定するなどにより、積み上がりをコントロールしております。
また、本年、取締役および執行役員等の報酬の一部をEPSやROEと連動させる取り組みも開始しました。CFOである私自身も含め、経営陣がEPS成長やROE目標にコミットすることで、さらなる企業価値と株価の向上を目指してまいります。(統合報告書2025 P.85参照)
株主資本コストについては、さまざまな議論があることは承知しておりますが、最も一般的な算出方法であるCAPMを用いると、足元での多少の上下はあるものの、昨年来の金利上昇に伴い、計算上の資本コストは上昇しているものと認識しています。一方で、当社の業績の安定性やリスクに対する耐性の強さに鑑みると、機械的な計算よりも実際の資本コストは低いと考えております。
いずれにしてもCFOとしては、企業価値や株価の向上のためには、ROEを向上させること、そして、ROEと株主資本コストのエクイティスプレッドを拡大させていくことが重要だと考えております。
引き続き「& INNOVATION 2030」に掲げたROEをはじめとする各定量目標の達成・向上に全力を傾けるとともに、IR対話の積極化等を通じて資本コストの低減に向けてしっかりと取り組んでまいります。
企業価値や株価の向上にあたっては、投資家の皆様の当社に対する深い理解が不可欠と認識しております。このため、投資家の皆様との対話はCFOとしての私の一番重要度の高い業務の一つと考えております。
2023年度にCFOに就任してから、投資家の皆様との数多くのミーティングを重ね、直接、率直なご意見を伺い、また、当社としての考えをご説明するなど、双方向での対話を心掛けてまいりました。対話の内容については積極的に社内・経営メンバーにフィードバックし、経営の議論につなげ、「& INNOVATION 2030」にも反映させてまいりました。
とりわけ2024年度は、「& INNOVATION 2030」の内容を投資家の皆様にご理解いただくべく、私がCFOとして先頭に立って説明・対話を重ねる1年となり、2023年度に約50件あった私が参加した投資家の皆様との面談回数は、2024年度には約85件と大幅に増加いたしました。また、個人投資家向け説明会の実施や個人投資家向け情報提供オンライン媒体を通じた企業情報の発信など、個人投資家の皆様に向けた取り組みも強化しております。今後も、特に、当社の社会的価値と経済的価値の創出に向けて、競争優位性や差別化戦略、ESG推進への取り組み、資産ポートフォリオの強靭さ、将来における業績の安定性・継続性などについて発信を強化してまいります。
今年は私のCFOとして3年目の年になりますが、引き続き、「& INNOVATION 2030」で掲げた「成長・効率・還元」を三位一体で捉えた経営を着実に推進し、数値目標達成に向けて、KPIとした各数値を向上させるとともに、IR対話を積極化していくことで、投資家の皆様をはじめとしたステークホルダーからの信頼感・安心感の獲得に努め、企業価値や株価の向上に貢献してまいります。