三井不動産グループ中期経営計画について(2000〜2002年度)
平成12年5月25日 三井不動産株式会社
当社は今般、「成長性と収益性に富んだ21世紀の新しい三井不動産グループ」を目指し、2000年度を初年度とする3カ年を「新たな成長基盤を確立し経営の方向性を定める期間」として位置づける、グループベースでの中期経営計画を策定いたしましたのでお知らせいたします。
〈計画策定の経緯〉
当社は1998年度から2000年度までの3カ年において「資産収益率の向上」と「ノンアセットビジネスの伸長・強化」を基本方針とする単体の中期経営計画を実行中でありますが、その目標指標はいずれも概ね達成できる見込みであります。また既に発表しているとおり、1999年度と2000年度の2ヵ年で更なる構造改善を行い、グループレベルでの懸案事項の処理を一括して行うこととしていますが、この構造改善によってバブル崩壊後のリストラは完了することになります。これまでの構造改善により、強化された企業体質をベースにして、標記のグループ中期経営計画を策定・発表することとなったものです。
【1.単体の中期経営計画と構造改善】
(1)単体の中期経営計画の目標指標と進捗状況(2000年度見込み)
- ROA3%…2000年度の事業利益※は約600億円の見込みであり、総資産約2兆600億円で割るとほぼ3%となります。(※ 事業利益=営業利益+営業外収益)
- 有利子負債残高1兆円以下…98/3期、99/3期、00/3期と3期連続して1兆円を切っており、01/3期はリストラの影響で1兆円を超える見込みではありますが、特殊要因を除けば1兆円を切る水準を維持しております。
- D/Eレシオ2倍については、リストラの影響で約2.4倍となる見込みですが、標記の計画を実行することにより、利益の拡大を図り早期に資本の部を回復することを目指します。
(2)構造改善
- 当社は2月に発表したとおり、1999年度と2000年度の2カ年にわたって一部の保有資産の評価減と一部のグループ会社の構造改善を行うこととし、2カ年合計で約2,000億円の損失を計上する予定です。これによりバブル崩壊後の構造改善はグループレベルにおいて終了し、「21世紀の新しい三井不動産」のスタートラインにつくことになります。
【2.本計画策定の背景〜パラダイム転換とそれへの対応】
不動産に関わるパラダイムの転換が加速することによって、「21世紀の不動産業」は「不動産の価値を創出する産業」に進化をしていきます。三井不動産グループはグループで保有している「不動産の価値を創出する能力」をいかんなく発揮することによって、収益をあげ、企業価値を拡大してまいります。また、「不動産の価値を創出する」ことが我々のグループステートメント「都市に豊かさと潤いを」と合致し、都市の再生を実現するという意味でこの事業の社会的意義も極めて高いと考えております。
〈参考〉◆パラダイム転換と21世紀の不動産業
我々のビジネスに与える影響
【3.グループ中期経営計画の内容】
- 今回のグループ中期経営計画はパラダイム転換が加速化している状況下、21世紀の新しい三井不動産グループを成長性と収益性に富んだものにするための方向性を定めることを目指したものであります。
- まず、パラダイム転換後の不動産マーケットが我々の想定どおりに進化を遂げ、我々が現在実践しているアセット戦略・ノンアセット戦略が果実を結んでくると思われる時点での我々グループのあるべき姿をイメージいたしました。たとえば、ひとつの到達地点と思われる2006年時点で、総資産を増やさずにROAが5%を越える水準、営業利益が1,500億円、有利子負債残高が1兆2,000億円といったものです。
- しかしながら、パラダイムが急速に大きく転換し、環境が激変していく現在、長期の計画を固定するよりは、中期的な目標を立てて確実に実行し、パラダイム転換に合わせて自らの構造を変えていくことこそが重要であると考え、今回2000〜2002年度の3ヵ年を、「あるべき姿」の実現にむけて新たな成長基盤を確立すべく、経営の方向性を定めることとしたものです。
- 財務体質・収益力等についてこの3ヵ年で到達すべき水準を設定するとともに、その水準に達するための具体的戦略をも含めた計画としています。概要は以下のとおりです。
(1) 定量的目標(02年度)
目標とする経営指標は次表のとおりです。
連結 | 単体 | |
営業利益 | 1,050億円 | 600億円 |
有利子負債残高 | 14,500億円 | 9,450億円 |
ROA*1 | 3.9% | 3.2% |
総資産残高 | 28,500億円 | 20,100億円 |
D/Eレシオ | 3.2 | 2.1 |
営業キャッシュフロー | 1,100億円 | 650億円 |
*1 ROA(連結)=(営業利益+営業外収益+持分法による投資損益)÷総資産
ROA(単体)=(営業利益+営業外収益)÷総資産
(2)グループ全体の戦略
グループ全体を通しての戦略は次のとおりです。
- 顧客志向の経営
- [ビル事業:テナントオリエンテッドの徹底]
・エリアニーズに対応するマルチコアエリア展開を図る。
・商品ニーズに対応するリニューアルやメガキャリアー導入等のIT装備を進める。 - [住宅事業:カスタマーオリエンテッドの徹底]
・MOC(Mitsui Open Communication)をいっそう強力に展開し、顧客のウォンツに踏み込んだ商品企画を実行する。
・賃貸住宅事業を拡充、インターネット対応マンション・都心居住にも積極的に対応していく。
- [ビル事業:テナントオリエンテッドの徹底]
- アセット戦略
- [最小投資による収益拡大(最小の投資でプロジェクト全体の事業機会を獲得)]
ex. ビル賃貸 「汐留B街区」等におけるパートナー型の他人資本導入
「新日鉱ビル」等におけるSPC活用SC賃貸 「ショッパーズモール・福岡マリナタウン」におけるSPC活用 住宅分譲 マンション分譲事業におけるSPC活用
「パーク・ノヴァ乃木坂」「ファインコート鶴川」における不動産特定共同事業(匿名組合方式)の活用 - [資産回転率の向上(主に住宅分譲事業において)]
・IRRを用いた投資管理を行うとともに事業スケジュールの短縮を徹底する。 (これを実践することによりマーケットリスクの極小化を図る)
- [最小投資による収益拡大(最小の投資でプロジェクト全体の事業機会を獲得)]
- ノンアセット戦略
- パラダイム転換がすすみ、所有から切り離された不動産に関わる各種のマネジメント業務の事業機会が増えることが期待される中、自らのアセットのマネジメントで培ったノウハウや経営資源を最大限に活用して、事業の拡大を図る。
- 最小投資でプロジェクト全体をマネジメントし、ノンアセットビジネスの伸長・強化を図る。
- ビル、商業施設、住宅の賃貸収益のうち、プロパティマネジメントやリーシングマネジメントによる収益はノンアセット収益として分別管理することにより、一層の利益管理・コスト管理を徹底する。
- プロパティマネジメントやリーシングマネジメントをサービス業化することにより、外部からノンアセットビジネスを受注できる体質・コスト構造への転換を目指す。
- 最適なバリューチェーンの構築
- 不動産に関わるパラダイム転換が進むことにより、ビル、商業施設、住宅等の各事業は開発・建設・運営・管理といった機能別分解が進むことになるが、それぞれの機能についてグループ内にマネジメントスキルを集積した子会社群が存在する。これらを束ね直し、シナジー効果を最大限に発揮し、付加価値創造を行う。
- 同一機能の会社の統合・再編も含めてグループの最適化・効率化を目指す。
- 必要に応じグループ外の経営資源も柔軟に取り入れて、ベストメンバーでバリューチェーンを構築する。
- 新たなビジネスモデルの構築
(a)証券化関連事業- オフィスビルファンド事業
不動産投資市場創設の主導的役割を果たすべく、規模の拡大と早期の上場を目指す。ファンド所有物件の売買関連ビジネス、ファンドマネジメント、オフィスマネジメントなどノンアセットビジネスの事業機会獲得を目指す。 - ファンド事業の発展可能性の模索
賃貸住宅の不動産投資ファンドやSC・ホテル等を組み込んだ不動産投資ファンドの可能性を検討する。
- 多様なニーズを持つ賃貸志向層の増加に対応し、賃貸住宅ウェブサイト「AXIS VIEW」を開設し、グループレベルで情報発信と顧客ニーズの取り込みを目指す。
- 定期借家制度創設に伴う事業機会の増大を好機と捉えて、住宅分譲事業で培った開発力・商品企画力、グループ会社のノウハウを活用し事業を拡大する。
→土地所有者から、デベロップメント、コンストラクション、リーシング、プロパティーの各段階のマネジメント(ノンアセット事業)をトータルに受注することを目指す。 - 証券化スキームを利用して資本市場資金を導入し、日本版賃貸住宅REITを検討する。
- 少子高齢化という社会構造の変化に対応するため、これまでのパイロットプロジェクトで蓄積したノウハウを本年4月新設の専門組織「ケアデザイン事業室」に集約して、「医療・介護・健康」関連ビジネスを推進する。
- 「ケアデザインプラザ(玉川高島屋)」、雑誌「ケアデザイン」、NECとの提携による「ケアデザインネット」を活用し、早期に介護コミュニティを形成する。
- 顧客ニーズを的確に把握してビジネスモデルを構築する。
- オフィスビルファンド事業
(3)グループ全体の戦略実施にあたっての基本姿勢
グループ全体の戦略実施にあたって共通する基本姿勢として以下の二点があります。
- [環境との共生]
グループ・ビジョンに謳っている「&マークの姿勢」の一環である「環境との共生」を、各商品本部のミッションにも盛り込み、住宅の商品企画やビルの管理システムなど具体的なプロジェクトの各段階でこの姿勢を重視していく。 - [ITの活用]
ITによるビジネスモデルの転換に関し高感度に対応し、我々の目指す「付加価値創造」にITを戦略的に活用する。
(4)グループ中期経営計画遂行のための環境整備
グループ中期経営計画遂行のための環境を整備するという意味で以下の課題があります。
- [統合的なリスクマネジメント体制の構築]
ファンドビジネスなど広範なノンアセットビジネス推進に向け、顧客が安心して資産を預けられるコンプライアンスルールの確立、情報化に伴う情報セキュリティの確保、適切なリスク・リターン認識を行いトータルリターンを向上させる評価手法の充実を早期に実現する。 - [グループで価値創造を行うために最適な組織]
グループの経営組織体、企業統治のありかた等について、「顧客価値の創造」「株主価値の増大」といった観点から最適な組織を模索し、実現する。
本計画は、単に定量的目標設定に留まらず、21世紀にむけて不動産に関わるパラダイム転換が更に加速するという認識のもと、「成長性と収益性に富んだ21世紀の新しい三井不動産グループ」の実現を目指して、経営の方向性を定め、この3ヵ年で着実に新たな成長基盤を確立して行こうというものであり、今後役職員一丸となってこの計画達成に向けて努力してまいる所存です。
(注)前述の将来の業績に関する計画、見通しなどは、現在想定できる経済状況や会計基準・慣行等に基づき経営者が合理的と判断したもので、実際の業績は様々な要因の変化により異なることがありえますことをご承知ください。