重要文化財「三井本館」(一階営業場)
天井装飾の復元塗装(補修・修復)工事を実施
平成13年8月16日 三井不動産株式会社
三井不動産株式会社は、重要文化財である「三井本館」(東京都中央区日本橋室町2-1-1所在地上7階、地下2階建、建築面積4,559m2)の一階営業場吹き抜け天井部分の装飾復元のため、塗装(補修・修復)工事を8月17日より実施いたします。工事期間については、平成13年12月上旬迄を予定しておりますが、当該部分は、現在も三井住友銀行、中央三井信託銀行両行の営業店舗となっており、営業を続けながらの工事実施となります。
「三井本館」は、三井財閥を形成する三井合名会社、三井銀行(現三井住友銀行)、三井信託銀行(現中央三井信託銀行)、三井物産、三井鉱山等の主要各社の本社が入る、いわば財閥の拠点的な機能を持つ建物として造られたものです。昭和4年3月に竣工し、竣工後72年を経過して現在にいたっております。
「外壁を貫いてそびえるコリント式の列柱や1階の銀行・信託銀行の営業室インテリアは、團琢磨のデザインポリシーをよく示すもので、建築作品としてみた場合に極めて優れている」という意匠評価と、「アメリカの技術を導入して建設された初期のオフィスビルディングとして、我が国の昭和初期を代表する建築物で現存する最古のアメリカンタイプのオフィスビル」との歴史的評価を受け、さる平成10年12月に複数の会社が入居する大規模なオフィスビルとして初めて重要文化財に指定されました。
当社は、「三井本館」のオフィスビルとしての機能を保ちつつ、重要文化財指定後については更に、その意義・重要性・影響等を十分に認識しながら建物価値の維持・保存に努めておりますが、今回の工事はまさにその一環にあるといえます。
工事対象の天井装飾部分は、「壮麗・品位・簡素」という建築時の設計意図をよく表わした部分であり、特殊顔料や金箔による装飾が巧みに施された仕上げになっています。実際の工事にあたっては、ただ単に新しい上塗りを施すということではなく、文化財としての価値を充分踏まえ、本来の精緻な仕上げを蘇らせる為に、材料・工法等はじめ、様々な観点において建築当時と同じ要領での作業を目指し、忠実な「復元」を実施してまいります。なお、天井塗装工事は昭和31年に一度実施しており、今回の工事は45年ぶりのものとなります。
現在当社は、東京都が創設した「重要文化財特別型特定街区制度」第一号の適用を受け、「三井本館」を含む当街区において、都市部再開発における「保存と開発の両立」の実現に先鞭をつける事業として、「三井本館」を保存しながら「三井室町新館」の建設を行うという再開発計画も鋭意進捗させております。これら一連の対応も含め「三井本館」については、今後も、文化財保護ならびに同保護法のあり方にも大きく係わる「近代建築物の(動体)保存」という観点にもたって、鋭意維持・保存に努めてまいる所存です。
以上
【三井本館の歴史・概要について】
(1)旧三井本館の建て替え
大正12年関東大震災により旧三井本館が罹災し、補修か建て替えかの議論があり、最終的に三井合名会社社長三井八郎右衛門高棟,理事長團琢磨により「建て替え」の決定がなされました。
(2)「近代化されたアメリカの建築生産方式への期待と優秀な工業化製品の活用」を意図し、下記に依頼
- 設計トローブリッジ・アンド・リヴィングストン事務所(当時ニューヨーク三大建築事務所の一つ)
- 施工ジェームス・スチュアート社(在ニューヨーク)
(3)團琢磨のデザインポリシー
「Grandeur(壮麗)、Dignity(品位)、Simplicity(簡素)」
(4)総事業費
2,131万円(当時の一般的なビルの建築費は、3.3m2あたり200円程度でしたが、三井本館は約10倍の2,200円かかっております。)
(5)建築期間
地鎮祭 | 大正15年5月31日 |
---|---|
上棟式 | 昭和2年11月10日 |
竣工 | 昭和4年3月23日 |
落成 | 昭和4年6月11日 落成式挙行 |
開館 | 昭和4年6月15日 開館式挙行 |
*工事日数964日(2年8ヶ月)
*従業延人員588,193人
(6)規模
敷地面積 | 5,610m2 (約 1,700坪) |
---|---|
延床面積 | 31,660m2 (約 9,580坪) |
建築様式 | アメリカ型の古典主義建築(アメリカンボザールのなかのクラシカルリヴァイバル) |
階数 | 地上7階、地下2階 |
主体構造 | 鉄骨鉄筋コンクリート造 鉄骨使用数量9,600トン(坪当たり約1トン、現在では0.3〜0.5トン) 鉄筋使用数量470トン |
仕上げ | 外装茨城県稲田産花崗石積、東西南3面に合計22本の「コリンシャン」丸柱を並列 |
内装 | 玄関・営業場は壁面柱とも全部イタリア産大理石を使用 特別室の高羽目、腰羽目は楢、胡桃、樺、桜、「マホガニー」、「チーク」を使用 |
(7)その他
- 三井本館は、三井合名会社のほか三井物産株式会社、三井鉱山株式会社、株式会社三井銀行(現株式会社三井住友銀行)、三井信託株式会社(現中央三井信託銀行株式会社)などの三井財閥直系各社を収容するために建設されたもので、三井財閥にふさわしい豪華なビルの建設を目論んだものでありますが、その内容はむしろ控え目に公表されたため、学術的な側面での認知度は低かったようです。
- 三井銀行営業場金庫、および信託会社保護預庫の円形扉は「モスラー」社製で重量は50トンありますが、重量制限のため日本橋上を運ぶことを許可されず、新常盤橋際まで船で運び陸上げし、深夜、現場まで運びました。
- 平成元年6月に、三井本館が竣工後、60周年を迎えたのを記念して、記念誌「三井本館」を発刊いたしました。
- 平成2年9月に、東京都の「歴史的建造物の景観意匠保存事業」の第1号の補助をいただき、第二次世界大戦当時に金属の供出に協力して撤去した鎧戸(西・南・東の入り口に7ヶ所、14枚)を復元いたしました。