気候変動に対する認識
産業革命以降の人間のエネルギー消費などの活動により、大気中の二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの濃度が上昇し、地球温暖化が進みつつあります。有効な対策を取らず温暖化が進めば、気候が大きく変動し、海水面の上昇や異常気象などを引き起こし、人やその他の生物の生息環境に大きな影響をもたらすこととなります。また、当社グループの事業活動においても、異常気象による被害を受けるリスクが高まることとなります。
当社グループは、地球温暖化を抑制して、自社グループの気候変動によるリスクの低減と、人やその他の生物が生息できる環境を守り持続可能な脱炭素社会を形成していくため、エネルギー消費を抑え温室効果ガスの排出が少ない建物や街をつくり提供・運営していくことが、不動産デベロッパーとしての大きな社会的使命と考えています。
取り組み方針
グループ環境方針に基づき、エネルギー消費や温室効果ガスの排出が少ない建物や街づくりを推進するとともに、共同事業者やテナント企業、出店者さま、お客さまとともに省エネルギー活動などの地球温暖化対策を進め、脱炭素社会の形成をめざします。
2021年11月にグループ行動計画を策定しました。2030年度までに40%削減(2019年度比)、2050年度までにネットゼロという当社グループの温室効果ガス排出量の削減目標達成に向け、サプライチェーン一体となって行動を推進しています。
- 行動計画①
- 新築・既存物件における環境性能向上
- 行動計画②
- 物件共用部・自社利用部の電力グリーン化
- 行動計画③
- 入居企業・購入者の皆様へのグリーン化メニューの提供
- 行動計画④
- 再生可能エネルギーの安定的な確保
- 行動計画⑤
- 建築時のCO2排出量削減に向けた取り組み
*その他の重要な取り組み 森林活用、オープンイノベーション、外部認証の取得、街づくりにおける取り組み、社内体制の整備、インターナルカーボンプライシング(ICP:社内炭素価格制度。社内でCO2排出量に価格付け5,000円/t-CO2を行ない脱炭素への取り組みを促す仕組み)の導入、等
「脱炭素社会実現に向けたグループ行動計画」の詳細については、以下をご覧ください。
⇒ https://www.mitsuifudosan.co.jp/esg_csr/carbon_neutral/
主な取り組み
省エネ・創エネ・蓄エネ
当社グループは、省エネに加え、太陽光発電やコジェネレーションシステムなどの創エネ、大型蓄電池による蓄エネなどにも積極的に取り組み、エネルギー消費と温室効果ガスの排出が少ない建物・街づくりを進めています。また、共同事業者やテナント企業、出店者さま、お客さまとともに省エネ活動にも取り組んでいます。
オフィスビルでの省エネ・創エネ・蓄エネ
「東京ミッドタウン日比谷」での取り組み
「東京ミッドタウン日比谷」(東京都千代田区)では、熱負荷を低減する外装や高性能ガラスの採用、昼光を利用した照明の制御などの省エネ設備や高効率設備機器の採用、ガスコージェネレーションシステムの排熱利用などのほか、太陽光発電設備(発電能力約20kW)を設置して創エネも行っています。これらの省エネ・創エネ設備等により、東京都建築物環境計画書制度におけるPAL・ERRの「段階3」およびCASBEEにおける「Sランク」を達成しています。
また、地域冷暖房(DHC)のサブプラントを新たに設置し、日比谷エリアにある既存のDHCプラントと連携することで、地区全体で高効率なエネルギー供給を実現しています。
「東京ミッドタウン日比谷」の環境への取り組み概要
「日本橋髙島屋三井ビルディング」での取り組み
「日本橋髙島屋三井ビルディング」(東京都中央区)では、東京都建築物環境計画書制度におけるPAL・ERRの「段階3」を達成しています。
都内のオフィスビルで東京都の
「優良特定地球温暖化対策事業所」の認定更新
2010年度より、東京都内のオフィスビルについて、東京都の「優良特定地球温暖化対策事業所」※の認定取得・更新を進めています。
これらのオフィスビルでは、省エネ設備への切り替えのほか、CO2削減推進協議会を開催し、テナントとの協力体制を強化し、省エネ活動を推進しています。
なお、2023年4月1日現在、「優良特定地球温暖化対策事業所」の認定を受けている当社のオフィスビルは、トップレベル事業所が6事業所(6棟)、準トップレベル事業所が4事業所(6棟)となっています。
※東京都の「優良特定地球温暖化対策事業所」:東京都が規定する温室効果ガス排出削減の管理体制・建物設備性能・事業所設備の運用に関する全213項目の審査項目について、地球温暖化対策の推進の程度が特に優れた事業所を認定し温室効果ガス排出削減義務率を緩和する制度で、トップレベル事業所(評価点80点以上)と準トップレベル事業所(評価点70点以上)があります。
東京都の「優良特定地球温暖化対策事業所」認定一覧
(2023年4月1日現在)
※「室町東三井ビルディング」・「室町古河三井ビルディング」・「室町ちばぎん三井ビルディング」は3棟で1事業所の扱いとなります。
大型物流施設での省エネ
当社は、大型物流施設「三井不動産ロジスティクスパーク(MFLP)」において、LED照明や太陽光発電設備の導入を進めています。MFLPは、地域社会との共生ならびに周辺エリアの賑わい創出を目指した街づくり型物流施設とし、敷地内の太陽光発電設備の導入や「グリーン電力提供サービス」の積極活用等により環境負荷低減を実現しています。
MFLP 船橋Ⅲ
MFLP 船橋Ⅲ
MFLP 市川塩浜Ⅱ
住宅における取り組み
三井ホームでは、2022年4月に脱炭素社会モダンデザインをコンセプトとした新商品IZMをリリースしました。本商品は大開口や大きな吹き抜けがある大空間でも、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)基準を満たし、また、太陽光発電システムなどの創エネ設備や、蓄電システム、V2Hなどとの連携も可能のため、日常生活でのランニングコストの削減はもとより、有事の際の非常用電源確保など、レジリエンス性向上にも寄与します。デザインでは、新たに開発した屋根型である「ウィングルーフ」、シンボリックなエクステリア壁「プライバシーウォール」などで構成された直線基調でモダンな外観や、建物の内外がボーダレスにつながる多様な半戸外空間「ラナイ」など、子育て世代を中心とした層のお客さまが、自分らしく、自由で豊かな暮らしを叶えるための様々な空間を提案しています。
また、外からの視線を遮る「プライバシーウォール」については、建物と一体で木造にするなど、人と地球環境にやさしいサステナブルな建築資源である「木」を最大限に活用し、工期短縮や高い環境性能を実現しています。
メガソーラー事業
当社はメガソーラー事業を行っており、2024年3月31日現在、太陽光発電所(メガソーラー)5施設が稼働しています。全5施設の合計発電出力は72MW、2023年度の発電電力量は84,294,414kWhで、一般家庭の年間消費電力量約2万1千世帯分(注)に相当します。
注)環境省令和4年度家庭部門のCO2排出実態統計調査による
エネルギーマネジメントシステム
当社グループは、オフィスビルや商業施設、マンション、戸建住宅などにおいて、それぞれに最適なエネルギーマネジメントシステムの導入を進めています。また、これらの個別の建物のエネルギーマネジメントシステムを連携させ、街区全体でエネルギーを管理するエリアエネルギーマネジメントシステムなどの導入も進めています。
エネルギーマネジメントシステムの導入事例
- 注)
- BEMS:Building Energy Management Systemの略。
- HEMS:Home Energy Management Systemの略。
- MEMS:Mansion Energy Management Systemの略。
- AEMS:Area Energy Management Systemの略。
- TEMS:Town Energy Management Systemの略。
スマートメーターの導入
当社開発物件のすべてにおいて、パルス付き計量器(スマートメーター)を必要箇所に設置することで、電気使用量等を把握しやすくしています。
自動車からのCO2排出抑制
当社グループは、自動車からのCO2排出抑制のため、電気自動車用充電器等の設置や商業施設での公共交通機関利用促進サービスの提供などに取り組んでいます。三井不動産リアルティ㈱は、「三井のリパーク」の時間貸駐車場に電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド自動車(PHV)用の充電器 の設置を進めています。また、「ららぽーと湘南平塚」(神奈川県平塚市)などの商業施設や「パークシティ武蔵小杉 ザ ガーデン」(川崎市中原区)などの分譲マンションの駐車場においても、EVやPHV用の充電器の設置を進めています。
「『三井のリパーク』変なホテル舞浜 東京ベイ駐車場」(千葉県浦安市)のEV・PHV用充電器
グリーンリース制度
三井不動産および三井不動産ロジスティクスパーク投資法人では、より一層環境に配慮した施設の運営を推進するため、テナントとの賃貸借契約に関して、グリーンリース条項を順次導入していきます。
グリーンリース条項の導入は、テナントと一体となって環境に配慮した改修や運用を行ための取り組みです。入居テナント企業を巻き込んでESGを推進していくことを目的としています。
TCFDに基づく気候関連財務情報開示
TCFDと当社の考え方
三井不動産グループは、企業等に対して気候変動関連リスクと機会に関する情報開示を推奨する気候関連財務情報開示タスクフォース「TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」の提言に賛同することを表明しました。三井不動産グループでは、グループ長期経営方針「VISION2025」において「街づくりを通して、持続可能な社会の構築を実現」することを目指す方向として掲げ、人・街・社会の課題解決に資する街づくりやサービスを展開しています。気候変動に伴う異常気象による被害など、自社グループの事業活動へのリスク低減と、人やその他の生物が生息できる環境を守り持続可能な脱炭素社会を形成していくため、この度の賛同を起点として、気候変動が事業に及ぼすリスクと機会についての分析と対応、関連する情報の開示を進めてまいります。
シナリオ分析
【前提条件と分析対象】
シナリオ分析の実施に使用するシナリオとして、国連IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次評価報告書における気候変動シナリオを参照し、1.5℃シナリオと4℃シナリオを選択しました。分析の時間軸としては、不動産事業における資産のライフサイクルの長さを考慮し、2050年頃における気候変動の影響を対象としています。今回のシナリオ分析では、三井不動産グループの主要事業かつ気候変動の影響が比較的大きいと考えられる「住宅」「オフィス」「商業」を分析対象としました。
【分析のプロセス】
2017年6月に公表されたTCFD最終報告書に沿って、4つのステップで検討を進めました。
①重要なリスク・機会の評価
三井不動産グループの事業に大きな影響を与えうる気候変動リスクおよび機会を、関連するレポート等の調査によって洗い出しました。
②将来世界の定義
①で特定した重要なリスク・機会について、IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)のシナリオや、IEA(International Energy Agency)のSDSシナリオ、NPSシナリオ、NZE2050シナリオ等、外部専門機関の予測に基づき、2050年に想定される社会・政府・お客様・サプライヤー等の変化を1.5℃シナリオ/4℃シナリオのそれぞれで整理しました。
③事業インパクトの試算
②で収集した外部情報に基づいて、三井不動産グループの事業に与える財務影響を試算しました。なお、定量的なデータが入手困難なリスクおよび機会については、定性的な分析としています。
④対応策の検討(今後実施予定)
事業影響の特に大きい気候変動リスク・機会への対応方法を検討しました。具体的な対応策は、今後更なる検討を予定しています。
【分析結果1.主なリスクと機会】
不動産事業における主な気候変動リスク・機会を外部情報に基づいて整理し、それぞれのリスク・機会に関する将来予測データを収集しました。TCFD最終報告書やその他の気候変動に関するレポート等を参考に、脱炭素社会への移行に伴うリスク・機会(政策/規制、業界/市場、技術)と気候変動に起因する物理リスク・機会(慢性、急性)について検討し、三井不動産グループ中核3事業に2050年までに影響を与える重要なリスクと機会を下表のとおり特定しました。
住宅事業においては、1.5℃シナリオでは炭素税の拡大が原材料価格や輸送費を通じて調達コストを上昇させたり、ZEHや省エネリフォームの普及が進む一方で、4℃シナリオでは猛暑日の増加による労働生産性等の低下を通じて新築建設コストが上昇する可能性があります。また、オフィス事業においては、1.5℃シナリオにおいて住宅事業と同様の調達コスト上昇、オフィスからのGHG排出への課税、ZEB建設拡大に伴うコスト増加が考えられる一方、事業機会として環境性能の高い物件の賃料の上昇が期待されます。4℃シナリオではオフィスの空調コスト増加や高潮・洪水による被害の発生が懸念されます。最後に商業事業においては、1.5℃シナリオでは住宅・オフィスと同様のコスト増、AI空調システム等の省エネ・再エネの浸透に伴う光熱費の削減が期待されますが、4℃シナリオでは、沿岸部に立地する商業施設の高潮・洪水リスクが顕在化することが考えられます。
【分析結果2.事業インパクトの試算】
入手可能な定量データやリスク・機会の重要性を考慮し、主なリスク・機会の一部について、2050年に三井不動産グループの事業に与える財務インパクトを試算しました。1.5℃シナリオにおいては、炭素税の拡大や省エネ基準の強化への対応コストが事業に与えるマイナス影響が比較的大きい一方で、三井不動産グループが強みを持つ環境性能の高い建築物によるビジネスチャンスの拡大や、先進的な省エネ技術による光熱費削減に伴うプラス影響が相殺効果を果たすことがわかりました。また、4℃シナリオでは、高潮・洪水による実損被害は軽微と想定され、大きな財務影響のある要因は1.5℃シナリオと比較して少ない結果となりました。
分析から得られた結果
今回のシナリオ分析の結果から、今後2050年にかけて世界が1.5℃シナリオ/4℃シナリオのいずれかの気候変動シナリオに進んだ場合であっても、三井不動産グループの事業は継続可能であり、一定のレジリエンスを有していることが確認されました。三井不動産グループは、GHG原単位の削減や省エネの推進などを通じて、炭素税の引き上げや規制強化等の気候関連リスクへの対応を推進しています。また、環境性能の高い建築技術を有しているゼネコン等サプライチェーンの皆様と協働したスマートシティ等、環境配慮型まちづくりを国内外にて展開していることは、市場優位性の強化を通じ、脱炭素社会への移行に伴うビジネスチャンスを拡大することに繋がります。今回のシナリオ分析により、これまで進めてきた環境取り組みの方向性を改めて確認することができました。三井不動産グループでは、今後シナリオ分析の精緻化・深化や対応策としての各種取り組みの推進を通じて、レジリエンスの向上と機会の最大化に努めてまいります。