引頭 麻実社外取締役
河合 江理子社外取締役
本間 洋社外取締役
当社が2024年に公表したグループ長期経営方針「& INNOVATION 2030」が2年目を終えました。
その進捗と課題や、資本市場との対話、取締役会の実効性などについて、河合社外取締役、引頭社外取締役、本間社外取締役の3名による座談会を実施しました。
その内容をご紹介します。
本間: 就任1年目の立場から見ましても、当社の2025年度の業績は大変素晴らしいものだったと受け止めています。全セグメントで過去最高の収益・利益となり、事業利益・経常利益・純利益のいずれも過去最高を更新するという大変素晴らしい成果でした。業績にも表れているのですが、私がとても心強く感じているのが、当社らしいビジネスの推進を通じて、質を伴った成長が着実に前進している点です。日本橋の街づくりに代表されるように、「行きたくなる街」にある「行きたくなるオフィス」を徹底して追求することで、当社の提供価値が磨かれ続けていると思いますし、その結果として、市場からのデカップリング、差別化に成功しています。当社はすでに、収益源の多様化も進めていますが、賃貸、分譲、マネジメントに加え、スポーツ・エンターテインメント事業を含む施設営業が、新たな第4の柱として存在感を増してきている点も重要なポイントです。当社ならではの企業価値の向上とブランド力の強化が着実に進んでおり、心強く感じています。
河合: そうですね。グループ長期経営方針の2年目も各セグメントがバランスよく成長し、収益を伸ばしており、社外取締役としては非常に安心してモニタリングに専念できていると感じます。足もとでは金利上昇や建築費・人件費の高騰といった事業環境の変化がありますが、当社はトップラインの伸長やプランの見直し等により、事業採算性の改善を図るなど当社らしい方法で採算性を確保して事業を進めています。これも、本間さんが言及されたように「行きたくなる街」づくりで培った総合的な力が実現できている証拠だとポジティブに捉えています。加えて、ガバナンスの観点では、2025年から役員報酬制度の考え方や算定式をより明確化したことで、業績だけでなくガバナンス、資本効率の向上と役員報酬の関係性に関する説明の透明性も高まりました。これは資本市場との信頼をより強固にするものだと感じます。一方で、円安の進行によって、バランスシートや有利子負債が拡大していますので、引き続きこれらを慎重にコントロールしていく必要があると認識しており、その動向を注視していきたいと思います。
引頭: 実は、私の着任した時期がちょうどこのグループ長期経営方針の策定と重なっていました。当時、「三本の道」という考え方が示されましたが、第1の道(コア事業の成長)は見通しやすい一方で、第2の道(新たなアセットクラス)、第3の道(新事業領域)は、相応の努力が必要な領域だと感じていたのが正直なところです。しかし、2年目を終えた今、第2の道では、スポーツ・エンターテインメント事業はもちろん、新しいアセットクラスのビジネスモデルの輪郭が明らかになってきており、ラボ&オフィスやデータセンターなど、今後の成長が期待できる領域の方向性が明確になってきたように感じます。また第3の道でも、LINK-Jやcross U、RISE-Aを通じて、各業界のコミュニティ形成を支え、そこに参加されている方々と当社の信頼関係が構築されてきています。くまもとサイエンスパークへの事業参画も、その好例だと感じています。2年目を経て、数値目標を前倒しで達成するなど好調な業績が、目指していた方向性に向けて、着実に実績を積み上げているという、質を伴った成果が出てきていることが、この2年間を振り返ってとても重要だと考えています。河合さんからも言及されたように、海外事業の拡大と円安の進行によって、以前とはPLもBSも構造が変化していますので、こうした財務構造の変化を踏まえて、より強固な経営基盤を構築していくことも今後の重要な課題だと考えています。

社外取締役 引頭 麻実
大和証券(株)や(株)大和総研でのアナリスト・コンサルティング業務経験や、証券取引等監視委員会委員等を務めるなど、豊富な経験と幅広い見識を有する。2023年6月に当社取締役に就任。指名諮問委員会、報酬諮問委員会委員。
本間: 経営においては、決めたことを徹底してやり続けることが重要です。3年目となる2026年度は、まずは第1の道で磨き上げた当社らしい付加価値やブランドを適切に価格に反映させていくことに期待しています。加えて、第1の道から第3の道までを掛け合わせた新しいビジネスを生み出し、しっかりとマネタイズしていくことも大切です。第3の道は、「産業デベロッパー」としてエコシステムを形成していく当社らしい取り組みで、私はとても応援しています。また、海外事業についても、米国・ニューヨークの旗艦物件が安定稼働に入り、強固な収益岩盤になった今、現地パートナーとの信頼関係を維持しながら、回転アセットの売却を加速することで利益成長フェーズに移行することを期待しています。
河合: 海外事業については、総資産のうち海外資産が3割を占めるまでになっていることから、全社の利益成長を支える存在になってほしいと考えています。また海外で得た先進的な知見やビジネスモデルを国内に還流させ、新たな当社らしいビジネスモデルへと昇華してくれることを期待しています。一方で、マクロの外部環境を見ると、金利の上昇や建築費・人件費高騰などのインフレ環境下での不確実性があります。今の取り組みを着実に進めることで、2030年前後の定量目標であるEPS成長率+8%/年以上・CAGRやROE10%以上の達成は可能だと考えますが、今後はさらなる効率性を伴った利益成長に向けて、有利子負債のコントロールに関して他人資本の活用も考えていくなど、フィービジネスを拡充していってほしいと考えています。
引頭: 今、河合さんのお話しされたマクロ環境の不確実性によって、2026年度はグループ長期経営方針のなかで最も難しい年になる可能性があります。2年目で定量目標を前倒しで達成したからこそ、3年目はその先の未来を見据えた経営のかじ取りが必要です。例えば、これまで成果を上げてきた回転アセット戦略も、金利やインフレの状況を踏まえれば、同じ速度で進めるのが良いのか、あるいは状況に応じて変えていくのかスマートに判断していく必要があります。外部環境の変化に柔軟に対応しつつ、投資回収の時間軸や資本配分とともに、今後の成長につながる事業ポートフォリオのあり方を深く議論していきたいと考えています。

社外取締役 河合 江理子
京都大学名誉教授。長年にわたり海外で活躍し、経営コンサルタント、国際決済銀行(BIS)や経済協力開発機構(OECD)などの国際機関での経験も豊富。2021年6月に当社取締役に就任。指名諮問委員会、報酬諮問委員会委員。
河合: 株式市場では、短期で目に見える数値や来期のコンセンサスが注目される傾向があり、短期的な予測数値を上回ったかどうかという視点で株価が形成されているところもあるように感じます。しかし当社の真の価値は、築地地区まちづくり事業や日本橋川沿いの再開発事業のように、1年先の数字だけでは測りにくい長期的な都市開発力にあります。当社の事業は、時間をかけて価値を創出していくということを丁寧に説明し、株式市場でも同じ時間軸でプロジェクトや事業価値を評価していただけるよう、発信してほしいと思います。また、販売用不動産を含めた含み益や開発パイプラインの豊富さを踏まえた実質的なNAV(純資産価値)は、株価の下振れ局面における下支え要素になると思います。株式市場では不可避なセクターローテーションにおけるダウンサイド時を支えるためにも、将来の成長性と同時に、当社が保有する資産の価値についてもしっかりと説明していく必要があると考えています。
引頭: 私も河合さんと同じように、株価の評価は、その企業が行っているビジネスのスパンを踏まえることが非常に重要だと思います。プロジェクトの期間が長期にわたることは不動産事業の特性でもあります。そのため、短期的な株価の動向だけで当社の経営のかじ取りの良し悪しを判断することには限界があると考えます。一方で、会社が考える企業価値と時価総額の間にギャップがあるのであれば、その要因を丁寧に分析しなければなりません。短期的な株価対策を講じるのではなく、要因を探り、長期的な視点に立ったメッセージを資本市場に発信し、理解を深めていただくプロセスが重要です。
本間: 当社の実力や成長力からすると、現在の株価にはまだ大きな上昇余地があると私は感じています。株価向上に向けては、個人株主をさらに増やし、当社のファンを増やしていくことが重要です。当社には、商業施設、ホテル、アリーナ・東京ドームなど、一般の方々に当社ブランドを体験いただける強力な接点があります。その強みや魅力を、株主層の拡充に十分つなげられているとはまだ言えません。個人の方々に対しては、「難しいことをやさしく、やさしいことを深く、深いことを面白く」お伝えしていくことがカギとなります。また、機関投資家の方々に対しても、「三本の道」をそのまま概説するだけでなく、当社の成長ストーリーとして理解しやすい形で発信していく工夫が必要です。例えば「& EARTH for Nature」として発信している環境との共生の取り組みなどについては、当社が経済的価値だけでなく、どのような社会的価値を生み出しているのか、生み出している価値を統合して成長ストーリーとして翻訳して届けることが、適正株価に近付けていくためには必要だと思います。(統合報告書2026 P.66参照)

社外取締役 本間 洋
株式会社NTTデータグループ相談役。IT・デジタルテクノロジー等の情報通信分野での豊富な知見・経験と、経営全般に関する幅広い見識を有する。2025年6月に当社取締役に就任。指名諮問委員会、報酬諮問委員会委員。
本間: 当社の取締役会は、運営面においても議長の采配が的確だと感じています。また議論の在り方についても、事業やマーケットを非常に高い解像度で理解されている執行側の皆様とそれぞれの専門的な知見を持つ社外取締役との間で活発に指摘や質問が交わされるなど、健全な緊張感のもとで深い議論ができていると評価しています。また、当社は取締役会において、各部門から年に一度、事業の状況や課題、対応について詳細な報告を行っていただく業務執行状況報告を実施しています。これは私たち社外取締役が現場の理解を深める貴重な機会であると同時に、現場の方々にとっても自部門の課題を整理・議論する良い機会になっていると思います。 報告で終わらずにPDCAを回す仕組みとして機能している点が素晴らしいです。(統合報告書2026 P.75参照)
河合: 取締役会の開催前に事務局から丁寧な事前説明があるため、当日は議題への理解を深めたうえで、率直に意見を述べやすい環境が整っています。また、執行側の経営会議での議論の内容も共有していただいています。執行側の課題感を把握できますので、取締役会で議論する際にも論点が明確になり、有効な議論につながっています。さらに、毎年実施される取締役会実効性評価では、社外役員からのフィードバックや改善提案を事務局が丁寧に整理・分析し、取締役会の運営改善に継続的に活かしていると感じています。(統合報告書2026 P.75参照)
引頭: 経営会議の内容が共有されるようになり、取締役会で本来すべき議論に、より集中できるようになってきました。こうした取り組みが取締役会の議論の質を高めることにつながっていると思います。また、国内外の現地視察の機会も大変有意義です。昨年の台湾視察では、現場の方とも直接話す機会もあり、資料からでは理解しきれないビジネスモデルや戦略、現場の課題を肌で感じることができました。現場の方々と直接話すことは社外取締役にとって重要な機会ですので、今後も継続してほしいと思います。(統合報告書2026 P.75参照)
台湾・ららぽーと台中での見学会
引頭: 私の役割は、経営の健全なリスクテイクを支えることと考えています。「さあ、街から未来をかえよう」というメッセージを実現するためには、AIなどのテクノロジーを街づくりに取り込み、産業デベロッパーとして次世代のイノベーションを支えていく必要があります。一方で、歴史ある企業であっても、不祥事一つで企業価値を大きく損なう事例はあります。ステークホルダーの皆様からの信頼を守ることも、社外取締役の重要な責務です。成長を支える攻めの視点と、企業価値を毀損させない守りの視点の両輪で、今後も当社の持続的な価値向上に貢献していきたいと思います。
本間: 私は、守りのガバナンスと攻めのガバナンスをバランスよく担い、企業価値向上に貢献していきたいと考えています。守りの視点では、有利子負債、金利負担、地政学リスクなどをしっかり注視すると同時に、攻めの視点では、グループ長期経営方針の後半に向かうなかで、事業機会を逃さないよう、執行側の挑戦を後押ししていきたいと思います。
河合: 社外取締役には、株主の視点や社会全般の視点、そして将来世代の視点を持つことが求められると考えます。当社が手掛ける都市開発は、築地地区まちづくり事業や日本橋川沿いの再開発事業のように、長い時間をかけて街そのものを変えていくプロジェクトです。経営陣と同様に課題を深く理解して考えることは重要ですが、同時に、今の世代だけでなく、将来その街を使う人々や地域社会にとっての価値も考える必要があります。社外取締役としての客観的な視点を失わずに、違和感があれば率直に伝えることも私たちの役割です。そして長期的な時間軸と社会的視点を議論に持ち込むことで、当社がより良い未来を創造できるよう、尽力していきます。