変化の大きな時代を新たな価値創造の
機会(チャンス)と捉え、
当社の競争優位性を最大限に活かし、
企業価値向上を力強く推進してまいります。
三井不動産株式会社
代表取締役社長

皆様とともに創り上げたグループ長期経営方針「& INNOVATION 2030」を対外公表して以来、2度目の決算となりましたが、2025年度決算は、私自身、当社グループの
競争優位性と成長戦略の正しさをあらためて証明する決算であったと考えています。売上高、営業利益、事業利益、経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益のすべてにおいて過去最高を更新しただけでなく、グループ長期経営方針「& INNOVATION 2030」で2026年度の目標として掲げていた事業利益、当期純利益、ROEといった主要指標を1年前倒しで達成することができました。(統合報告書2026 P.39参照)
これは単なる好業績ではありません。私たちが長年にわたり磨き上げてきた優良な事業機会を獲得する力、開発力、これらの付加価値を収益へと転換する力が、着実に収益として結実していることの証左であり、当社の持続的な成長力を示す結果であると確信しています。さらに、2026年度の業績予想では、親会社株主に帰属する当期純利益2,850億円を見込んでいます。これは「& INNOVATION 2030」で掲げた2026年度目標を150億円上回る水準です。
当社は、オフィス、商業施設、ホテル、物流施設、住宅、海外事業など、多様な事業領域において、「リアルな場だからこそ生み出せる価値」を徹底的に追求してきました。人々が集い、働き、学び、楽しみ、新たな価値を創造する場を提供することこそが当社の使命であり、その価値が収益として顕在化し始めていることを非常に心強く感じています。
一方で、株価については率直に申し上げて、当社の実力や将来の成長力が十分に評価されているとは考えていません。この1年間を振り返ると、好調な業績やインフレ環境への期待を背景に、当社株価は2026年2月に上場来高値を更新しました。しかし、その後は中東情勢をはじめとする地政学リスクや長期金利上昇への懸念などから、不動産セクター全体が軟調に推移しており、当社も例外ではありません。もちろん、マーケットにはマーケットなりの判断があります。しかし、私は経営者として、現在の株価水準は当社の本源的価値を十分に反映したものではないと考えています。なぜなら、当社には将来にわたり利益成長を実現するための極めて強固な競争優位性があるからです。
私は当社の強みを、「事業機会の獲得能力」「高付加価値な街・施設・サービスを創造する力」「その付加価値を収益へと転換する力」という3つの力に集約できると考えています。
第一に、圧倒的な事業機会の獲得能力です。国内外における長年の信頼関係やネットワーク、そしてトップクラスの実績を背景に、当社には他社にはない数多くの事業機会が集まります。
第二に、高付加価値な街や施設・サービスを創造する力です。単に建物を開発するのではなく、人々が集まり、新たな交流やイノベーションが生まれる場を創出することが当社の強みです。
第三に、その付加価値を適正に評価いただき、収益へと転換する力です。どれほど優れた施設であっても、その価値を顧客に理解していただき、賃料や利用料金、ひいては販売価格として表現し、収益化できなければ意味がありません。当社はこの点においても業界トップクラスの競争力を有していると自負しています。
この三位一体の強みこそが、当社の利益成長の源泉です。そして、この強みによって、投資家の皆様が不安視されている建築費や金利負担の上昇によるコスト上昇圧力を跳ね返し、良質なリターンを確保し、継続的に利益成長を行っていくことができると確信しています。
また、資産価値の観点から見ても、当社の評価余地は大きいと考えています。賃貸等不動産の含み益に加え、投資家向け分譲用資産の含み益も考慮した実質的な1株当たりNAVは約2,550円と試算しています。時価総額ベースでは約7兆円に相当する水準です。さらに、開発中資産や住宅分譲資産、マネジメント事業の価値など、現時点の数字には十分反映されていない将来価値も数多く存在しています。そうした観点から見ても、当社の企業価値には依然として大きな評価余地があると考えています。
このような観点から、当期は初めて期初段階で400億円の自己株式取得を決定し、すでに取得を完了しました(5月15日~27日で取得済み)。また、すでにアナウンスさせていただいているとおり、今期、追加の自己株式取得の検討も行ってまいります。私は株価水準によっては、自己株式取得が効率的な投資であることも十分認識しています。今後も資本効率や株価水準を踏まえながら、機動的な自己株式取得を含めた資本政策を実行していきます。
もっとも、私が最も重視しているのは、短期的な株価対策ではありません。持続的な利益成長を実現し、その成果を株主の皆様に還元し続けることです。私は「成長」「効率」「還元」を三位一体で捉えた経営を推進しています。
事業戦略である「三本の道」を着実に推進し、利益成長を実現すること。
投資有価証券の売却や自己株式取得などを通じて資本効率を高めること。
そして、その成果を株主還元としてお返しすること。
この好循環を力強く回し続けることで、2030年前後の目標であるEPS成長率+8%/年以上(CAGR)、ROE10%以上を当然に達成してまいります。
当社には、2031年度以降に収益貢献する日本橋・神宮外苑・築地等の豊富なパイプラインがあり、当社の強い事業機会獲得力により、さらなるパイプラインの拡充も進んでいます。また、環境変化に左右されにくいバランスの取れた事業ポートフォリオがあります。さらに、これらの掛け合わせによる多様な利益創出機会があります。私は、当社が有するこうした強みを市場の皆様にこれまで以上に丁寧かつ力強くお伝えしながら、企業価値向上の実現に全力で取り組んでまいります。
海外事業については、投資家の皆様からご指摘いただくことも多いテーマですが、私は今後の成長に向けて重要な転換点を迎えていると認識しています。
振り返りますと、新型コロナウイルス感染拡大は、100年に一度の社会的インパクトを与えたといっても過言ではないと考えていますが、世界の不動産市場にも極めて大きな影響を与えました。特に米国では、ワーク・フロム・ホームの定着など、従来想定していなかった構造変化が生じました。また、急激な金利上昇に伴い、Cap Rateも大幅に上昇し、不動産市場を取り巻く環境は大きく変化しました。当社としては、そのような環境変化を踏まえ、将来に向けたリスクを適切にコントロールする観点から、必要な処理を着実に進めてまいりました。
その結果、2026年度については、これまでのような海外物件に関する損失計上を見込む必要がない状況となっています。
このため、2026年度は海外事業利益として約600億円を計画しており、2025年度から大幅な増益を目指しています。
この利益成長を支えるのは、当社が世界有数の都市において長年かけて築いてきた優良資産群です。
9,000億円もの含み益を有するニューヨーク・マンハッタンの「50 Hudson Yards」、「55 Hudson Yards」などの3つの旗艦オフィスビルは、高い競争力を維持しており、今後も安定的な賃貸収益を生み出していきます。加えて、これまで開発してきた資産の回転も進めることで、分譲利益も黒字転換させ、今期のガイダンスを達成してまいります。
また、今後数年間にわたり、利益貢献が期待できる大型プロジェクトが続々と竣工・開業を迎えます。2026年度にはインド・ベンガルールの大規模オフィス「RMZ Ecoworld 30」、米国・ボストンのラボ&オフィス「Innovation Square Phase III」が竣工します。さらに2027年度には、オーストラリア・シドニーの「55 Pitt Street」、英国・ロンドンの「South Molton Triangle」、台湾・高雄市の「ららぽーと高雄」などが順次、竣工・開業を予定しています。さらに2027年度には、米国・サンベルトの賃貸住宅もリースアップし、売却時期を迎える物件が出てまいります。アジアの分譲住宅の契約も順調に積み上がってきています。中東情勢の不確実性が低下し、金融環境・海外の不動産マーケットが安定に向かうということが前提ではありますが、このような良質なパイプラインを背景に、賃貸利益の拡大と回転加速の両輪により、2027年度に1,000億円の事業利益を達成したいと考えています。
このほかにも、インドでデータセンターへの投資が決定するなど、さらなる優良資産への投資も進んでいます。
地球儀を俯瞰して、スマートに投資・回収の意思決定を行っていくことで、海外事業においても、資産規模に応じた利益計上できるように取り組んでまいります。
[インド・ベンガルール]

RMZ Ecoworld 30
[米国・ボストン]

Innovation Square PhaseⅢ
[オーストラリア・シドニー]

55 Pitt Street
[英国・ロンドン]

South Molton Triangle
[台湾・高雄市]

ららぽーと高雄
[米国・サンベルト]

Parkview Turtle Creek(ダラス)

Hanover Buffalo Bayou(ヒューストン)
私は、2030年度に向けた当社の成長戦略を考えるうえで最も重要なことは、「成長の確度」であると考えています。目標を掲げることは簡単です。しかし投資家の皆様が知りたいのは、「なぜその目標を達成できるのか」「どのような利益成長の道筋があるのか」ということだと思います。
私は、「& INNOVATION 2030」で掲げたEPS成長率+8%/年以上(CAGR)、ROE10%以上という目標は当然に達成できると確信しています。その理由は、当社が成長を支える複数のエンジンを有しているからです。私は当社の成長ドライバーを大きく3つに整理しています。
第一は、既存アセットの収益力向上です。
第二は、新たなアセットクラスの収益の拡大です。
第三は、フィービジネスを中心としたアセットライトな収益の拡大です。
これらが相互に作用することで、持続的な利益成長を実現していきます。
第一の成長ドライバー:既存アセットの収益力向上
足元のインフレ環境において、当社は「デカップリング」を成長機会として捉えています。これまで長らく、日本では賃料やサービス価格が十分に上昇しない環境が続いてきました。しかし現在は、立地や品質、サービスによる差別化が適正に評価される市場へと変化しつつあります。私は、この変化は当社にとって大きな追い風であると考えています。
まずオフィス事業では、「行きたくなる街にある、行きたくなるオフィス」を追求してきた成果が花開き始めています。
例えば、日本橋においては、商業・オフィス・ホテル・住宅等が融合したミクストユースの物件の開発を行うとともに、官民地元一体となり、福徳神社を再興させ、裏路地の整備も行うなど、日本橋から八重洲にかけて、建物の開発にとどまらず平面でもミクストユースな街づくりを行うことで、平日・土日、昼夜を問わず多くの人で賑わうウォーカブルでウェルビーイングな街に仕立ててきました。
さらに、日本橋をライフサイエンス・宇宙・半導体ビジネスの「聖地」とすべく、新産業創造の拠点となるようなコミュニティづくり※も行っていますが、会員数は順調に増加していますし、それぞれ、大企業からスタートアップまで幅広い企業群(「産」)だけでなく、行政・研究機関・アカデミアといった「官」「学」をも巻き込んだ実効性のあるエコシステムが構築できています。このエコシステムに参画すべく、さまざまな組織が日本橋に拠点を構えるようになっており、集積がさらに集積を呼ぶという「マグネット効果」ともいうべき現象が生じ、「産業クラスター」を生み出しつつあると考えています。このように、戦略的にコミュニティづくりを行ってきたことが、関連企業が日本橋という街にいなければならないという必然性を生み出すに至り、オフィスのリーシングにおいても大いに貢献するという段階に至っています。
このような戦略的な取り組みの結果、一昔前は「丸の内・大手町」をピークとする富士山型だったオフィス賃貸マーケットが、今や、「八重洲・日本橋・京橋」を最高峰として「丸の内・大手町」「日本橋本町・室町」等の複数のピークの連なる八ヶ岳連峰型へと変化しています。
※ライフサイエンス分野のコミュニティ「LINK-J」:1,041、
宇宙分野のコミュニティ「cross U」:371、半導体分野のコミュニティ「RISE-A」:101
※三幸エステート(株)データより作成。1フロア200坪以上の大規模ビルの共益費込募集賃料
※三幸エステート(株)データより作成。1フロア200坪以上の大規模ビルの共益費込募集賃料
当社物件に対する需要も極めて堅調であり、2025年度には、10%以上の増賃改定を実現したテナント数が前年度の約3倍に増加しました。また、一部では20%から30%を超える増賃改定も実現しています。
さらに象徴的な事例として、現在開発中の八重洲二丁目中地区プロジェクトでは、月坪10万円という極めて高い賃料水準での契約も実現しています。このような実績も踏まえ、その取り組みをさらに加速し、特に希少性の高い都心物件を中心に数十パーセントの増賃を前提として、全国平均で2桁の増賃改定を実現していきます。さらに当社が業界のトップランナーとして導入を進めているCPI連動条項も原則として導入してまいります。
これは単なる市況の追い風ではありません。当社が長年にわたり積み上げてきた街づくりの力、経営課題解決に資するサービス提供力、BCP対応を含めた運営力、これらを包含するオフィス価値向上への取り組みが評価していただけている結果だと考えています。引き続き、当社がマーケットをけん引するという強い意志を持ち、インフレ時代に対応した契約形態への転換も進めていくことで、「稼ぐ力」を着実に高めてまいります。
商業施設についても同様です。
①日本の総人口の1割以上となる1,450万人もの会員数を誇る「三井ショッピングパーク」会員の平均世帯年収が日本の平均よりも高水準という顧客属性に加え、相次ぐ賃上げ、株高の恩恵もあり、1人当たりの売上額が増加していることや、②後でもお話ししますが、スポーツ・エンターテインメントとの相乗効果、つまり、「コト消費」「トキ消費」という時代のニーズをしっかり捉えた結果、来館者数が増加していることなどにより、毎年、施設全体の売り上げが向上しています。施設売上の成長が賃料成長につながり、それが当社の利益成長へと結び付いています。オフィスの増益効果は徐々に効いてくるものでありますが、商業施設の売上増加に伴う増益効果はその年にすぐに効いてくるという即効性があります。引き続き、強い顧客基盤を背景として、来館したくなる施設づくりや、当社のアリーナ事業との連携など、スポーツ・エンターテインメントとの連携フックとなるイベントの開催によって施設売上を増加させるとともに、並行して、賃料や共益費の増額交渉も進めていくことで、商業施設における賃貸収益も伸ばしてまいります。
私は、不動産事業の本質は「賃料成長」であると考えています。賃料が上がれば、賃貸利益が増えるだけではありません。資産価値も向上し、将来の売却利益も拡大します。つまり、賃料成長は賃貸利益と分譲利益の双方を押し上げる極めて強力な利益成長ドライバーなのです。2026年度は投資家向け分譲の営業利益と固定資産売却益等を合わせて1,450億円の資産回転に伴う利益を計上予定であり、すでにその利益の50%以上分について契約済みですが、来期以降も、賃料増額等により付加価値を最大化したうえで、資産回転を加速していきます。
第二の成長ドライバー:新たなアセットクラスの収益の拡大
特に注力しているアセットは2つありますが、一つ目はアリーナ事業です。
AI等の浸透による生産性向上を背景とする可処分時間の増加、高齢化による余暇市場拡大などにより、人はこれまで以上に「意味のある体験」や「他者とのつながり」を求めるようになると考えています。エンターテインメントをリアルな場で提供するアリーナは、その受け皿として、人が集まる理由を提供する都市インフラとなるため、価値が高まっていくと考えていますし、経営理念に「& PEOPLE 人々とともに、感動をともに」を掲げる当社だからこそ取り組むべきアセットと私は考えています。なにより、スポーツ・エンターテインメントに関するニーズは今後、拡大していく一方で、受け皿となるアリーナは不足していて、成長の余地があると考えています。このようななか、当社は首都圏での東京ドーム・秩父宮・「LaLa arena TOKYO-BAY」という5万、2万、1万人の全クラスに対応可能な施設ラインアップをそろえようとしています。また、名古屋でアリーナ建設を進めているほか、株式会社クボタのなんばの旧本社跡地活用プロジェクトとして、収容人数約1.25万人の多目的アリーナ「(仮称)Kubota LaLa arena」を核として、ホテルや商業施設を含む複合開発を進めており、日本の大動脈である東名阪の各エリアでのアリーナ整備を進めています。

築地地区まちづくり事業

(仮称)新秩父宮ラグビー場

LaLa arena TOKYO-BAY

(仮称)名古屋アリーナ
このように、さまざまな規模・エリアを網羅したアリーナのネットワーク・ポートフォリオを整備するとともに、スポーツ・エンターテインメントの聖地であり、他の追随を許さない東京ドームのブッキング力を活かすことで、あらゆるアーティストへのツアー提案等の企画提案力を向上させることができると考えています。アリーナ事業全体をネットワークとして圧倒的な地位を確立し、日本のスポーツ・エンターテインメント分野の国際競争力強化にも貢献してまいります。
さらに、これらの施設は当社の商業施設と隣接・連携していることも特徴です。「LaLa arena TOKYO-BAY」は「ららぽーとTOKYO-BAY」と隣接していますが、アリーナ開業により、周辺の当社商業施設への回遊も活性化し、イベント開催日に「ららぽーとTOKYO-BAY」来館者数が昨年同日比で140%程度まで増加した実績も出ており、売上に大きく貢献しています。また渋谷の「MIYASHITA PARK」では、東京ドームで開催されるコンサートやスポーツイベントに合わせてポップアップストアを展開していますが、大きな集客効果がみられ、施設全体の売上向上に寄与しています。世の中は「モノ」消費とは別次元で「推し活」に代表されるように「コト」「トキ」消費が爆発的に伸びています。リアルのショッピングセンターを持つ当社の強みとして、「コト」「トキ」と「モノ」を融合して、さらに次の次元に高めていきたいと考えています。
二つ目としてはデータセンター、ライフサイエンス、サイエンスパークといったインダストリアルアセット領域です。
私は、この領域こそ今後の日本の「令和の殖産興業」ともいうべき産業競争力向上と、当社の成長を同時に実現できる市場であると考えています。
データセンターについては、国内で2035年度までに累計6,000億円の投資を目指していますが、昨年度は関西に加え、さらにもう一件、新規の事業機会を獲得しており、順調に投資を積み上げています。AIの普及やデジタル化の進展により、データ処理需要は世界的に急拡大しています。当社は国内のみならず、インドにおいても、全世界的に事業展開し、アジア有数の運用資産額・開発実績を持つ不動産開発・運用会社であるシンガポールの「キャピタランド」とのJVとして大型案件への参画を決定しました。キャピタランドから、データセンター事業を継続的に検討していこうというご提案をいただいていますので、今後は海外も含めてデータセンター事業を成長の柱へと育成していきます。
また、ライフサイエンス領域では、その分野のコミュニティである「LINK-J」からのニーズを捉えた賃貸型ラボ&オフィスである「リンクラボ」を中心に事業を拡大しています。私がビルディング本部長だった2016年に立ち上げた「LINK-J」は、2026年に10年の節目を迎えます。会員数は2025年末に1,000を超え、シンポジウムや会員主催のイベント等も1,250回以上開催され、非常に活発なレベルの高いコミュニティとなり、イノベーションを生み出すプラットフォームとなっています。
また、コミュニティからの「場の整備」というニーズをいただき、2019年から始めた都心型の賃貸ウェットラボ「リンクラボ」は、従来の所有型施設の課題であった多額の設備投資、郊外立地による人材獲得などに対するソリューションとして、オープンイノベーションに適した都心賃貸型の研究施設として選ばれてきています。
スタートアップのみならず、大手製薬企業にもご活用いただく例が出てきています。さらにテナントのすそ野は、半導体・食品・エネルギー等の非製薬企業まで広がってきています。各物件のリーシングは非常に順調に推移していますし、第1号物件をリーシングしていた約5年前と比較すると、賃料水準は約1.5倍まで成長しており、都心型・賃貸型ラボへの需要の強さを実感しています。直近では、江東区でも新規事業機会を獲得するなど順調に事業規模を拡大させており、利益規模の拡大につなげていきます。

三井リンクラボ新木場3(東京都江東区)

三井リンクラボ東陽町1(東京都江東区)
さらに近年では、サイエンスパーク事業にも本格的に取り組み始めています。TSMCの半導体工場が立地する熊本県で進めている「くまもとサイエンスパーク」はその象徴です。半導体をはじめとする先端産業の集積を支える基盤づくりにおいて、当社は街づくりのノウハウ、「RISE-A」という半導体コミュニティ、そして、日本・台湾にまたがる産官学のネットワークを活かしながら、新たな価値創造に挑戦しています。そして、この領域では、不動産開発力だけでは競争優位になりません。企業とのネットワーク、行政やアカデミアとのリレーション、コミュニティ運営力、さらには海外デベロッパーとの連携まで含めた総合力が求められます。私は、これらを同時に備えている企業は極めて限られていると考えています。そして、その総合力こそが当社の最大の強みです。この総合力を武器に、今後は「産業デベロッパー2.0」(統合報告書2026 P.45参照)へ進化し、日本の産業競争力向上に貢献し、産業活性化にポジティブに関わることで、当社もともに成長してまいります。
サイエンスパーク

くまもとサイエンスパーク(熊本県合志市)
第三の成長ドライバー:
フィービジネスを中心としたアセットライトな収益の拡大
先にも述べたとおり、当社の強みは「事業機会の獲得能力」「高付加価値な街・施設・サービスを創造する力」「その付加価値を収益へと転換する力」です。この総合力を背景として、豊富な事業機会を有しているわけですが、すべての事業を自社のバランスシートを使って推進するのではなく、当社の強みである3つの力を投資家の皆様にサービスとして提供し、フィーを獲得することで、収益源の多様化につながります。このモデルは、金利が上昇するなかにおいては、特に資本効率の高い利益成長を実現できる優れたビジネスモデルですし、豊富な開発実績・多様なお客様とのリレーションを持つ当社ならではの強みを発揮することができると考えています。
これは、当社が20年以上前から「投資家共生モデル」として、先駆者的に取り組んできたものであり、私も携わった東京ミッドタウンにおいても、投資家の皆様から資金を集め、応札・落札し、その後もアセットマネジメント業務を担ってきているように、当社に一日の長があります。より効率性を重視した成長を目指すなかで、今後、デベロップメントマネジメントフィーやプロパティマネジメントフィーなどの拡大にこれまで以上に注力することで、アセットライトな収益基盤をさらに強化していきます。
私は、当社の成長戦略の本質は「単一の成功要因に依存しないこと」にあると考えています。既存アセットの成長、新アセットクラスの拡大、フィービジネスの伸長、そして海外事業の成長。複数の成長エンジンが同時に機能することで、持続的かつ安定的な利益成長を実現することができます。これこそが、当社が2030年度の目標達成を確信している最大の理由です。私は、当社が持つ圧倒的な事業機会獲得力と、それを収益へ転換する総合力を最大限に活かしながら、次の成長ステージを切り拓いてまいります。
当社は「& INNOVATION 2030」において、「総還元性向50%以上」を掲げ、2025年度も当期純利益の54.9%の還元を行わせていただきました。一方で、利益成長が続く企業においては、還元を実施していても自己資本は着実に積み上がっていきます。そのため、ROEの向上に向けては利益成長だけでなく、自己資本のコントロールも重要な経営課題であると認識しています。もちろん、私は「成長なくして、還元なし」と申し上げていますとおり、まず第一に、利益成長を継続することにより、EPS成長と配当額を増加させ、1株当たりのリターンを継続的に増加させていきたいと考えています。加えて、ROE目標達成のために、今後、自己資本のコントロールにも一段ギアを入れ替えて対応していきたいと考えています。
また、私はROEの絶対値を高めることと同じくらい、ROEと資本コストの差、すなわちエクイティ・スプレッドを拡大することが重要だと考えています。企業価値を持続的に向上させるためには、資本コストを上回るリターンを安定的に創出し続けることが必要だからです。
そのために重要なのは、第一に、差別化された事業戦略によって高い収益性と強いレジリエンスを維持・向上させることです。当社はオフィス、商業施設、住宅、ホテル、物流施設、海外事業など、それぞれの分野でトップクラスの高い競争力を有しており、バランスの取れた事業ポートフォリオを構築しています。成長局面では大きく利益を伸ばし、逆風局面では他事業が補完する。この多様性に富む強固な事業基盤は当社のみが有する特徴であり、当社の持続的な利益成長を支えています。
第二に、ガバナンスの実効性を高めることです。当社の取締役会では、不動産事業に深く精通した社内取締役と、多様な知見・経験を有する社外取締役の皆様が守りのガバナンスと攻めのガバナンスを意識して、活発な議論を行っていると私自身感じていますし、社外取締役の皆様からもご評価いただけています(統合報告書2026 P.17参照)。こうした建設的な議論が、経営の質を高め、企業価値向上につながっていると考えています。
第三に、投資家の皆様との対話を充実させることです。近年、当社の開示に対する評価は高まっていると感じていますが、まだ十分とは考えていません。当社の強みや成長戦略、資本政策について、よりわかりやすく、より丁寧にお伝えすることで、企業価値への理解を一層深めていただきたいと考えています。これらをしっかりと行うことにより、金利上昇下においても、資本コストを低く保てると考えています。
利益成長によるROE向上に加え、自己資本の適切なコントロールを進めること。そして、事業ポートフォリオの強さやガバナンスの実効性を高め、資本市場との対話を充実させること。これらを着実に実行することで、ROEの向上と資本コストの低減の両面からエクイティ・スプレッドを拡大し、企業価値向上を実現してまいります。
現在、世界は大きな転換点にあります。地政学リスクの高まり、サプライチェーンの再構築、インフレの進行、金利環境の変化、さらには人口動態や産業構造の変化など、私たちを取り巻く経営環境はかつてないほど大きく変化しています。こうした変化を前にすると、不確実性ばかりが強調されがちです。しかし私は、変化の大きな時代だからこそ、新たな価値創造の機会もまた広がっていると考えています。当社グループはこれまで、時代ごとの社会課題と向き合いながら、その解決を通じて成長してまいりました。街づくりを通じて人々の豊かな暮らしを支え、産業基盤の整備を通じて日本経済の発展に貢献し、新たなコミュニティやイノベーションの創出を支える場を提供してきました。
そして今、私たちは新たな成長ステージに立っています。当社には、他社を凌駕する圧倒的な事業機会獲得能力があります。また、インフレのなかで、賃料等として正当に評価していただけるようになっている高付加価値な不動産・サービスを提供しています。さらに、長年にわたり培ってきた顧客やテナント企業との信頼関係、国内外に広がるネットワークを梃子としたリーシング力や、多様なアセットにおける運営ノウハウも有しており、これらを基盤として多面的な付加価値を収益へと転換する力があります。そして、なにより、数多くの挑戦を通じて蓄積してきた知見と経験があります。
このような当社の競争優位性の源泉を最大限に活かすことにより、不確実性が高いなかでも、コストの上昇を上回る良質なリターンを見込むことができると確信していますし、将来にわたる利益成長を支え、圧倒的に優位なポジションを形成し続けられると確信しています。
また、データセンター、ライフサイエンス、サイエンスパークをはじめとするインダストリアル・アセット領域への挑戦は、単なる事業機会の拡大ではありません。日本の産業競争力の向上やイノベーション創出に貢献するという社会的価値と、当社グループの持続的な成長という経済的価値を両立させる取り組みであると考えています。私は、企業価値向上とは、経済的価値の追求だけで実現できるものではないと考えています。社会から必要とされる企業であり続けること。社会課題の解決に貢献し続けること。その結果として利益成長を実現し、株主の皆様への還元を拡大していくこと。この好循環を長期にわたり維持していくことこそが、本質的な企業価値向上につながるものと考えています。
その意味において、「& INNOVATION 2030」で掲げたEPS成長率+8%/年以上(CAGR)、ROE10%以上という目標は、通過点に過ぎません。私たちが目指しているのは、その先にあ
る持続的な価値創造企業への進化です。これまでも申し上げてきましたが、企業価値向上、そして株主価値向上は、経営者としての私の最大の使命です。当社には豊富な事業機会があ
ります。そして、それを持続的な利益成長へ結び付ける競争優位性があります。私は、その強みを最大限に活かしながら、利益成長、資本効率向上、株主還元の充実を高い次元で実現
していく自信があります。また、社会的価値と経済的価値を両輪で創出し、時代の変化を成長の機会へと変えながら、未来に向けて新たな価値を生み出し続けてまいります。このことに
より、株主の皆様をはじめとするすべてのステークホルダーの期待に応え続ける企業でありたいと考えています。
繰り返しますが、企業価値向上は私の最大の使命です。「& INNOVATION 2030」の達成は私たちにとってゴールではありません。その先も、グループの総力を結集し、社会に新たな
価値を創出し続けることで、持続的な価値創造を続け、企業価値向上への挑戦を続けてまいります。
今後の三井不動産グループに、ぜひご期待ください。