SUSTAINABILITY / ESG

Vol.14

2023.9.21

日本橋の街を未来創造の舞台へ!
新産業創造に向けた「産業デベロッパー」という
プラットフォーマーの挑戦

2023年7月4日開催 LINK-Jシンポジウム「創薬のフロンティア2023」

三井不動産グループでは、ロゴマークの「&」に象徴される「共生・共存」「多様な価値観の連繋」「持続可能な社会の実現」の理念のもと、グループビジョンに「&EARTH」を掲げています。街づくりを通して、人と地球がともに豊かになる社会に向けた取り組みをお届けしてまいります。

Vol.14のテーマは「新産業創造」。「不動産デベロッパー」の枠を超えた、「産業デベロッパー」という「プラットフォーマー」としての取り組みです。今回はその中でも特に、歴史と革新が交差する街・日本橋での取り組みに焦点を当て、現場で活躍する人々の声も交えながら、未来の社会を見据えた新しい挑戦をご紹介します。

歴史と伝統の街、日本橋で新しい産業の創造が始まる

江戸時代以来、長い歴史を持つ日本橋。古くから商業・金融・文化の街として栄えてきたこの街で、三井不動産グループは今、新しい産業の創造に取り組んでいます。

今、なぜ新産業創造に取り組むのか

三井不動産グループは、街づくりを通じて社会に新しい価値を提供し続けてきました。「産業デベロッパー」という「プラットフォーマー」として新産業創造を目指す取り組みも、その活動の一環です。

人々の未来を切り拓き、より良い社会の実現に寄与する新産業の創造および発展には、それに適した「場」や「コミュニティ」の提供が必要不可欠です。三井不動産グループは、これまで様々な事業分野で培った知見を最大限に活かし、「場」や「コミュニティ」の提供に取り組んでいます。街の中に息づく新産業の創造、その挑戦を通して、未来の街の発展に貢献してまいります。

「産業の土壌」としての街、その歴史を未来へ

日本橋エリアは、江戸時代初期から商業と文化の中心地として発展し続け、五街道の起点として重要な交通の役割も果たしてきました。全国から多様なヒト・モノ・コト、技術やノウハウが絶えず集まり、創造力溢れるエリアとして賑わいを形成してきました。

そんな日本橋を代表する分野の一つが「くすり」です。江戸の街づくりを牽引した徳川家康は、現在の日本橋本町三丁目付近に薬に関する商いを行う「薬種問屋」を集積し、関東の薬品取引の中心地になりました。その歴史は連綿と引き継がれ、現在も多くの製薬会社の拠点があります。
日本橋にライフサイエンス分野のプレイヤーたちが集積する背景には、このような歴史があるのです。

江戸の昔から長きにわたって社会を支え、繁栄してきた日本橋ですが、バブル崩壊の時代にはその活気を失ってしまいます。そこで三井不動産グループは2000年代初頭、日本橋の街にかつての賑わいを取り戻すプロジェクト「日本橋再生計画」を始動。官・民・地元が一体となり、「残しながら、蘇らせながら、創っていく」というコンセプトで、街づくりを進めてきました。

この日本橋再生計画におけるキーワードの一つが「産業創造」です。日本橋が紡いできた「くすりの街」の歴史を尊重し、ライフサイエンス分野を軸として、新たな産業の発展をハード・ソフトの両面からサポートしてきました。 2016年には三井不動産がアカデミアや産業界の方々とともに一般社団法人ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)を設立し、ライフサイエンス分野での「オープンイノベーションの促進」と「エコシステムの構築」に取り組んでいます。

ライフサイエンス分野で取り組みを続ける中で、新たな分野との化学反応も生じました。その一つが、宇宙航空研究開発機構 JAXAのLINK-J 加入をきっかけに宇宙ビジネス共創プログラム「X-NIHONBASHIプロジェクト」を始動し、宇宙関連領域のビジネス拡大に取り組んできました。2023年4月には、産学官の有志と共に設立した一般社団法人「クロスユー」が活動を開始、これらの動きを起爆剤として、いま日本橋には、宇宙分野のプレイヤーたちの集積が進みつつあります。

歴史を通じて豊かに耕されてきた産業の土壌、日本橋。この街で三井不動産グループは、伝統と革新への挑戦を支援します。共創を導く「場の整備」と「機会の創出」に取り組み、産業の成長をサポートしながら、日本橋オリジナルのビジネスやカルチャーの創造を目指してまいります。

COLUMN 植田俊社長からのメッセージ

当社グループはこれまで、時代時代の社会課題を、価値創造を通じて解決してきました。埋め立て事業で土地を創り出し、日本の工業化を後押ししたり、日本初の超高層ビル「霞が関ビルディング」を皮切りに、オフィス環境を向上させたりすることで企業活動を支えてきました。物流施設事業を通じては、伸長するEコマースや物流効率化を支え、産業の命脈を担っています。また、住宅や商業施設、ホテル・リゾート、東京ドームをはじめとするスポーツ・エンターテインメント事業を推進することで、より豊かな暮らしを提供し、人々のクオリティ・オブ・ライフを高めてきました。

このようなことから、私は、当社グループは、「不動産デベロッパー」の枠を超えた、いわば「産業デベロッパー」という「プラットフォーマー」である、と考えています。これまでも我々は街づくりを通じて、「場」や「コミュニティ」の提供を行い、そこに集う人々や企業に「イノベーション」を起こすお手伝いをし、「付加価値」を高めるお手伝いをし、社会に貢献することで、共に成長してきました。

今、社会、特に日本においては本気でイノベーションを起こし、圧倒的な「付加価値」を創り出し、 産業競争力を高めることが求められています。世界では、デジタルとリアルを組み合わせた新たな暮らし方や働き方が始まり、さらには、仮想空間・宇宙・グリーンなどの新分野を含む、さまざまなイノベーションが生まれています。複数年にわたり猛威を振るった新型コロナウイルスのパンデミックを契機に、「産業競争力を高める」という考えはさらに強まっていると感じています。このような状況の中、われわれ不動産デベロッパーとしてどのような役割を担えるのでしょうか。

私は、産業創造に、よりポジティブにかかわることで、「プラットフォーマー」であるわれわれ自身にも多くの気付きやイノベーションの種をもたらしてくれるのではないかと考えています。この考えを体現した事例が、まさに日本橋におけるライフサイエンスや宇宙領域でのプラットフォームの提供です。当社グループが「LINK-J」や「クロスユー」といった場とコミュニティの提供を行うことで、そこにスタートアップを含む多くの企業やアカデミアが集まり、エコシステムが形成され、新たなビジネスの創出・新需要の創造につながっています。この地が「ライフサイエンスの聖地」になるよう、また、江戸時代に五街道の起点であった日本橋から宇宙へつながる6本目の街道をつくっていけるよう、イノベーションをプラットフォーマーとして支えていきたいです。

今後は、あらゆる分野において、自らが「需要を創り出していく」ことが大変重要になります。われわれ自らがオープンイノベーションのプラットフォームを提供し、企業や社会、それを構成する人々の英知を結集させ、新産業の創造、需要の創造を加速していかなければなりません。

これからも、グループ一丸となり、「産業デベロッパー」という「プラットフォーマー」として社会の発展とともに成長していきたいと思います。

「日本橋に続々集積! 未来を創る新産業拠点

「大人起業家」のための活動拠点
startup workspace THE E.A.S.T.

大企業が多く集積する東京のEASTエリアには、各業界の課題を熟知し、明確なビジョンを持つ「大人起業家」が集います。

「startup workspace THE E.A.S.T.」は、ワークスペースとしての機能だけでなく、起業家たちがアイデアや知見を互いに共有し、切磋琢磨できるコミュニティの提供をはじめとしたスタートアップ企業の支援を行っています。さらに、多様な支援活動をとおしてスタートアップとの共創の可能性を模索し、オープンイノベーションの実現を目指します。

アクセスの良さのみならず、大企業や投資家との豊富な接点が得られる日本橋エリアの魅力を最大限に活かしながら、成長の進度や働き方の多様性に応じてフレキシブルに利用できます。また、起業家同士だけでなく、成長に必要なメンターとの円滑な会話を可能にする開放的でコミュニケーションが取りやすいスタートアップフレンドリーな空間設計を採用しています。

ライフサイエンス領域のイノベーションの中心地
ライフサイエンスビルシリーズ

ライフサイエンス領域のオープンイノベーションを創り出す場として、三井不動産が提供する「ライフサイエンスビル」シリーズ。日本橋には現在15の拠点が設置されています。

スタートアップから大企業まで多様なプレイヤーに利用しやすいオフィススペースを提供。また、イノベーションを引き出すコミュニケーションラウンジや会議室など、交流と共創を促す環境も整えています。最先端のライフサイエンスに関する知見が集約され、新たな可能性が日々創出される場として、エコシステムの発展を牽引しています。

宇宙産業の共創拠点
X-NIHONBASHIシリーズ

「X-NIHONBASHI」シリーズは、民間参入が急激に進む宇宙産業分野のコラボレーションを促進する拠点です。JAXAのオフィスやispaceの管制室が入居する「X-NIHONBASHI TOWER」に加え、2023年4月には「X-NIHONBASHI BASE」を新たに開設しました。

オフィススペースのみならず、カンファレンススペース、コワーキングスペース、オンライン配信スタジオ、そしてイベントにも利用可能なラウンジなどを併設。多様なニーズに応えています。伸びしろのある分野で、イノベーションの拠点となることを目指します。

コミュニティの力で飛躍的発展を目指す
新しい産学連携のかたち「LINK-J」

2016年、三井不動産がアカデミアや産業界の方々とともに設立した一般社団法人ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)は、ライフサイエンス分野での「オープンイノベーションの促進」と「エコシステムの構築」 を目指す団体です。

日本のライフサイエンス産業をグローバルに発展させるため、LINK-Jは「コミュニティ」の力に着目しています。プレイヤー同士の出会いの場を創出するためイベントの開催やコラボレーション環境の整備を進めてきました。

日本橋を中心に、2022年には834回のイベントを開催し、推定20万人を動員。会員数は企業・団体・個人を合わせて688(2023年8月時点)まで拡大しており、共創を生み出すエコシステムとしての成長が続いています。

これまでのイベント例
LINK-Jシンポジウム「創薬のフロンティア2023」

「創薬のフロンティア」はLINK-Jのフラッグシップとなるシンポジウムの一つです。「創薬の最先端モダリティ」をテーマに据え、第一線で活躍する専門家らによる鮮やかな議論が展開されます。

2023年は、アカデミアおよび産業界より計6名のキーパーソンが登壇。注目の新薬に関する基調講演に加えRNA編集、遺伝子治療、核医学治療薬、AI創薬、エクソソームなど注目のモダリティが取り上げられ、その最新の研究状況および実用化の進捗について、活発に意見が交わされました。

会場内では創薬系スタートアップの取り組みを発信する企業ブース設置のほか、4年ぶりとなるフード・ドリンク付きの懇親会・名刺交換会も実施し、参加した方々の情報収集やネットワーキングを後押しするイベントとなりました。

COLUMN スタートアップの声

「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」というミッションのもと、症状から適切な医療へと案内する「ユビー」と、診療の質向上を支援する医療機関向けサービスパッケージ「ユビーメディカルナビ」等を開発・提供するUbie(ユビー)株式会社。創業時から日本橋を拠点に活動する同社の久保様と阿部様にお話を伺いました。

左:代表取締役 久保 恒太様 右:代表取締役 医師 阿部 吉倫様

古来から「薬の街」と呼ばれる日本橋に拠点を置かれていますが、感触はいかがですか?

歴史と伝統のある日本橋に拠点を持つことは、会社の信用やブランドイメージの向上につながっていると感じます。名刺を渡すと「お、日本橋なんだね」と好反応をいただくことも多く、日本橋という住所が信頼度を高めてくれることを実感します。

カンファレンスなどで全国から関係者が集まりますし、東京駅や羽田空港からのアクセスが良いのも日本橋の魅力です。

LINK-Jのサポートや交流機会は、事業成長につながっていますか?

LINK-Jのイベントにて、企業のイノベーション支援・アクセラレーションプログラムを提供する株式会社インディージャパンの津田真吾さんに出会いました。これがきっかけで、事業戦略から会社の運営に関する部分まで幅広いご支援をいただくこととなりました。

その他にも、三井不動産様だからこそ築き上げられた日本橋企業様とのリレーションやライフサイエンス関連企業様のネットワークを通じ、さまざまなアドバイスや貴重な機会、多大なサポートを頂戴しております。

今後、三井不動産が日本橋を「ライフサイエンス・宇宙関係のスタートアップ企業の聖地」として支援していくにあたり、期待することをお聞かせください。

これまでオフィス移転でも複数回ご支援いただいており、ハード面で今後もサポートいただきたいのはもちろんのこと、ソフト面でも力をお借りしたいですね。同じ志を持つ企業様が歴史と伝統があるこの日本橋に集結し、日本のライフサイエンスを一丸となって盛り上げていく、その吸引力に期待しております。

新産業創造に向けた挑戦の数々

三井不動産グループがこれまで新産業の創造に向けて実践してきた様々な取り組みの中から、2つのプロジェクトをご紹介します。

31VENTURES

「31VENTURES」は、三井不動産グループがスタートアップとともに進める新規事業開発プロジェクトです。スタートアップの斬新なビジネスモデルと三井不動産グループの豊富なリソースを掛け合わせて新たな価値を生み出す、真の意味での共創を目的としています。

この共創を実現するため、31VENTURESは3つのソリューションを展開しています。まず、スタートアップの成長を加速させ、資金面から継続的な支援を提供する「出資活動」です。複数のCVCファンドを運営することで、アーリー期からレイター期まで幅広いスタートアップを支援しています。そして「場所」、「コミュニティ」の提供です。スタートアップ専用のワークスペース「THE E.A.S.T.」を運営し事業を前進させる場を提供、また、異なるステージ・業界のスタートアップや多彩なメンターが集まるコミュニティを創出し、困難を乗り越えるための知見やナレッジを共有する環境を提供しています。

これら3つのアプローチにより、31VENTURESはスタートアップの成長を強力に後押しし、新産業創出に貢献しています。

クロスユー

「クロスユー」は、宇宙関連領域の産業拡大を目指すオープンプラットフォームです。日本橋を舞台に、産学官を超えて宇宙ビジネスのプレイヤーが集まり、共創する場を提供しています。

宇宙産業は世界的に成長が予測される市場であることに加え、宇宙の活用は地球上においても社会課題解決に繋がる可能性のある、大きな意義を持った産業領域です。

宇宙産業の活性化を通じ、当社の目指す姿である「持続可能な社会の構築の実現」に繋げるべく、大企業、アカデミア、企業、自治体など、幅広い宇宙プレイヤーが交流するイベントやプログラムを開催し、新たな産業創出の土壌となるコミュニティやビジネスマッチングの機会を創出しています。

PROJECT STORY
プロジェクトストーリー

ライフサイエンスの聖地を目指して
~「場」と「コミュニティ」で築く新たな未来~

ライフサイエンス・イノベーション推進部 渡辺雄策(LINK-Jプロデューサーを兼務)
ライフサイエンス・イノベーション推進部 境夢見(LINK-Jプロデューサーを兼務)

新しい産業の創出を目指すプラットフォーマーとして三井不動産が取り組む、場づくりとコミュニティづくり。日本橋の街で、ライフサイエンスをフィールドにその2大ミッションを実践するライフサイエンス・イノベーション推進部の渡辺雄策と境夢見(両名ともLINK-Jプロデューサー兼任)に、日々の活動や今後のチャレンジについて聞きました。

現在のお仕事の内容を教えてください。

渡辺 雄策(以下、渡辺):日本橋エリアを中心に、ライフサイエンス領域に特化した拠点運営を担当しています。若い企業や業界団体などにお声掛けして、現在日本橋に15あるオフィスビル「ライフサイエンスビル」シリーズへの入居をお手伝いするのが主な業務です。しかしそれだけにとどまらず、企業と企業をつないでイノベーションの場をつくる、「おせっかいな大家さん」としての活動にも取り組んでいます。

境 夢見(以下、境):私は現在「LINK-J」において、コミュニティづくりを中心とした企業支援を行っています。昨年は、主催・共催のイベントは120回開催し、平均して3日に1回はイベントを開催しました。企画から始めて、登壇者やゲストの調整、参加者の懇親をより深めていただくための飲食物の手配など、トータルでコーディネートしています。

渡辺:LINK-Jのイベントに参加された方にライフサイエンスビルシリーズをご案内することもありますね。お互いに協力しながら、約170の企業をつなぎ合わせる活動をしています。最近は既存会員様や入居企業様による口コミが増えてきたおかげもあり、小規模の企業や、起業以前の方々も参加してくれるようになりました。それと並行して私たちのほうでも、報道などを手がかりにして、新しく仲間になってくださる候補を地道に探しています。

境:ライフサイエンス産業の活性化はもちろん、日本橋という街を「ライフサイエンスの聖地」にしたいという目標を持って、コミュニティの輪を広げる活動に取り組む毎日です。

これまでは別部署でキャリアを重ねてこられたお二人ですが、過去の経験は現在の職務に活かされていますか?

渡辺:私にとって今の仕事は、これまでの経験の集大成と言えます。2015年に入社して最初に経験したのが、オフィスビルのテナントリーシングでした。その後2018年からは三井不動産ビルマネジメントに出向し、物件の管理業務を経験しました。今も、テナント様のリーシングと運営管理に携わっているので、多くの部分がこれまでと重なっています。

ただ、今までとは大きく異なる部分もあります。それは、お客様との関わり方です。これまでは大手企業のテナント様が多かったため、オフィス契約の専任担当者がおられるケースがほとんどでした。しかし、今ご一緒しているのは若い企業。お一人で全ての業務を兼任されている方も多く、オフィス契約が初めてというケースも少なくありません。

このような状況で、各社が最も理想的な不動産戦略を講じられるよう、受け身で要望に応えるのではなく、パートナーとしての立場でお客様と接していますね。だから、よくない選択肢には「やめた方がいいですよ」とはっきり申し上げます。

境:私はこれまでホテルの開発部署で、三井ガーデンホテルを担当していました。ゼネコンやデザイナーの方、運営会社と協力して、ホテルのコンセプトから部屋の小物までを一つ一つをプロデュースする業務を担当していました。

そんな過去の仕事と今の仕事は、業務内容でいえば180度違うのですが、実は共通点があります。「各方面の専門家の知恵を借りながら、ひとつのものをつくり上げていく」点です。

LINK-Jで開催するイベントを企画するときも、私自身にライフサイエンスの深い知識があるわけではないので、専門家や企業の皆様にたくさんのアイデアをいただきながら計画を進めているんです。三井不動産の仕事は指揮者に例えられることがありますが、まさにその通りだと感じます。

渡辺:確かに、専門家ではないからこそできることがあると感じる場面がありますね。私は「この方とこの方が出会って話したら良さそうだ」と感じてマッチングにつなげることが多いのですが、これは業界の内部にいると、意外と難しいことなのだそうです。

こうして生まれたつながりが新しい活動のきっかけになったというお話も聞いています。実績が少しずつ積み重なってきた結果、「なにかあったらLINK-Jに相談しよう」と言う雰囲気も出てきていると感じており、嬉しいですね。

新しい産業の活性化のために、日々の業務の中で心がけていることを教えてください。

渡辺:各企業の不動産に対するニーズを、細やかにキャッチするよう努めています。資金調達や雇用状況、提携先などの企業トピックスを見て、人や資金に動きがある企業様にお声掛けしています。提携先が日本橋にあったり、規模拡大にともなって新しいオフィスを探していたりと、私たちがお力になれるケースがけっこう多いんです。

コミュニティづくりの面では、ビル内のラウンジで入居者の懇親会を開き、同じ建物に暮らすテナント様どうしをつなげる取り組みもしています。また建物の構造においても、入居されている方々の間で交流が育まれるような場づくりを目指しています。例えば、共用のコーヒーマシンや冷蔵庫、コピー機など、多くの方々が使うものをスペースの中心に据えることで、偶発的な会話を促せないか? など、今後の開発に向けて現在も議論しているところです。

境:LINK-Jのイベントには多様な方々が参加されます。しかし、人類のより良い日々に向けて、前向きに、熱心に取り組まれていることは、どのような分野に携わられていても皆様共通しています。コミュニティを広げる上では、そんな共通の想いに共感いただき気軽にコミュニケーションをとっていただくことが大事だと思っています。

また先ほど、年に約120回のイベントを主催・共催していると申し上げましたが、このほかにLINK-J会員の皆様が自身で開催するイベントが700件ほどあり、それが日本橋が日々賑やかになっている根源であり、それがあるからこそ聖地が生まれると思っています。LINK-Jではこういった会員発のイベント開催もサポートしています。

やりがいを感じる場面はありますか?

渡辺:企業の成長フェーズにあわせた不動産戦略を提供できたときは、大きなやりがいを感じますね。起業直後の企業では、いかにオフィスのコストを抑えるかが重要な課題の一つです。そのニーズに応えるために、私たちがある程度ご協力し、「先行投資」の意味で入居していただくことも多いんです。

起業初期の方々に喜ばれる設備の一つが、賃貸ラボ&オフィス事業の施設「三井リンクラボ」に用意した「共通機器室」です。三井リンクラボに入居した企業が顕微鏡のように分野を問わず使われる実験装置を共同で使える場所で、中にはかなり高額な機器も設置してあります。実験装置の中には、毎日ではなく一ヶ月に一回、半年に一回しか使わないものもあります。リソースの限られる企業では、そういった機器のために高額の資金を投じるのが難しい。したがって、「共通機器室があるから入居している」とおっしゃるテナント様が多くおられます。

このように私たちでご支援したあとに事業が拡大し、三井不動産のオフィスや賃貸ラボ&オフィスを借り換えてくださるケースが、事業を開始してから40件以上もありました。

境:私たちは、イベントに参加された方々が前に進まれることを目指して毎日の業務に取り組んでいます。「イベントをきっかけに新しいビジネスが始まった」「人の採用につながった」といった声をきけると、やはり嬉しいですね。

境:若い企業の成長に欠かせないのは場所・人・お金だと言われます。そこでLINK-Jでは、メンターとなる支援者やベンチャーキャピタルの参画を募り、企業におつなぎしています。アクセラレーターとなる立場の方々にライフサイエンスビルシリーズに入居していただき、日本橋を拠点に企業を支援していただく仕組みづくりも実践しています。

新産業創造に向けて、今後チャレンジしたいことを教えてください。

渡辺:着任から3年経ち、テナントの数は着実に増えてきました。しかし、もっとできることがあるというのが部の共通認識です。

課題は、「入居企業の方々に、いかに本業に集中してもらうか」という部分です。不動産契約をはじめとする庶務・総務まわりのサポートはもちろん、研究環境の整備や資金調達プランニング、さらに人材紹介の面でも支援を手厚くしていきたいと思っています。

このプロジェクトに携わるようになってから、入居後の企業の成長まで考えられるようになり、考え方のスケールが大きくなりました。今後もLINK-Jをはじめとする周囲の方々のサポートを得ながら、新産業創造というひとつの大きなゴールを目指していきたいです。

境:イベントを通じてコミュニティを盛り上げ、コラボレーションを促進することは得意になってきました。今後は、LINK-J発のオープンイノベーション事例をさらに創出できるよう、より具体的な企業支援をしていくべきだと考えています。

このプロジェクトを担当して4年が経ち、産官学のプレイヤーの考え方、資金の流れ、スタートアップの皆様の状況、全体感がやっと見えてきました。三井不動産で不動産の開発だけをしていたら、接しなかったであろう話題に多く触れさせていただき、スポンジのごとく吸収する毎日です。今後も好奇心をもってプロジェクトに取り組み、日本橋の地からライフサイエンス産業の未来を築いていきたいと思います。

三井不動産グループのSDGsへの貢献について

三井不動産グループは、「共生・共存」「多様な価値観の連繋」「持続可能な社会の実現」の理念のもと、人と地球がともに豊かになる社会を目指し、環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)を意識した事業推進、すなわちESG経営を推進しております。さらに「重点的に取り組む6つの目標」に取り組むことで「Society 5.0」の実現や、「SDGs」の達成に大きく貢献できるものと考えています。

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重点的に取り組む6つの目標

  1. 街づくりを通した超スマート社会の実現
  2. 多様な人材が活躍できる社会の実現
  3. 健やか・安全・安心なくらしの実現
  4. オープンイノベーションによる新産業の創造
  5. 環境負荷の低減とエネルギーの創出
  6. コンプライアンス・ガバナンスの継続的な向上